披露宴の済んだ後、しばらく地方誌の紙面を飾る事になった私達…話題独占なのね。
ハネムーンの旅行には、もうしばらくは行けなくなってしまった。

「レイ、今日は早いかな?」
「ん…あなたよりは少し早いとは思う、ご飯は作れないかも。」
「じゃ、今日はラーメンでも食べに行こうか?」
「フフ…じゃあ楽しみにしてるわ、行って来ます。」
「あっ、待ってよ!?今日は月曜じゃないか!」
「…もう。明日じゃダメなの?」
「うん。一週間頑張るには、絶対に欠かせる訳にいかないね!」
玄関に出ようとする私を引き止めて、週始めの儀式と化した(シンジ君の勝手に決めた)行ってきますのキスをした…

「ん…んっ!?し、シンジ君ッ!!」
「ん…あれ、やっぱり…ダメ?」
…この前ようやく体を許したら、事あるごとに獣と化すシンジ君。
野性味が加わるのも素敵であるけど、程々にしなきゃ…
「ダメに決まってるでしょ?今から仕事…常識だわ。」
「でも…その…こないだのすごく、良かったから…」

う…シンジ君、上目遣いなんていつの間に覚えたの!?
…コラ、隙あらば腰に手を回したり…誰が吹き込んだか、突き止める必要アリだわ。

「…約束、破るの?」
必殺の『股ぐらギュッ』でシンジ君を上手くあしらい、私はさっさと仕事に向かう。

…週末の夜だと効かないのよね、コレ。





あなたと居る未来まで
    レイ猫。 ◆/75iL116..





昔の私達に、今の私達を想像出来たかしら?
…きっと、無理でしょうね。

シンジ君は幼稚園や保育園で音楽の先生をして回る傍ら、作曲をする音楽家の駆出し。
私はネルフ通いでトレーニングと事務の毎日…ちょっと優雅なOLの気分。
シンジ君と仕事絡みのすれ違いもほとんどないから、夕飯は大体一緒…私達、とても恵まれているわ。

私の職場はネルフなので慣れ親しんだ顔も多い…と、息抜きに自販機コーナーへ行く途中、あの人と出くわす。
「あぁ、丁ー度探していたよレイ君!」
「…冬月さん、どうかなさいました?」
「コレを君に、こっちの袋はシンジ君にだよ。
あぁ!!か、帰ってから開けてくれたまえ…それでは、仕事の方も頑張ってな!」

…何故か勢いのあった冬月さんが見えなくなったのを確認し、包みを開ける。
私にとくれた物はお守り(安産子宝の)とクラシックのCD、シンジ君への物は…高そうな栄養ドリンクと錠剤(水色)、謎のDVD。
…最近何も言わないと思ってたら、少し具体的になって来たわ…(汗)

少し嫌悪感が沸いてしまったので、その日のトレーニングは気持ちハードメニューをこなした。
帰りにロッカーから荷物を出した時、ふと目に入ったあの栄養ドリンク…試しに一本飲んでみた。

…な、何?
あ…コレ、すごいわ…身体が、火照り出してきた…

ふ、二人で飲んだら…どうなるのかしら?(///)
だ、ダメ…はしたないわ、落ち着くのよ、私…(滝汗)



結婚して一月経つ間に、毎週2、3人は来客のある我が家…本日のお客様は司令と赤木さん。

「ごめんなさいね?晩ご飯時にお邪魔して。近くを通るからって司令がわがまま言って…」
「あぁ、気にしないで下さい…こうやって父さん来るなんて初めてですし。」
…シンジ君、甘い顔したら付け上がるわよ。
「そう?でも、出来るだけすぐ帰る様にするから…あら、ありがとう。」「…いえ。ブラックでした?お砂糖とミルクはそこにあります。」

ジャー…

トイレから出て来た司令が席に着き、しばしの沈黙…
「あの、そういえば初めてだよね?こんな風に会いに来てくれたの。」
「…あぁ、そうだな。シンジ、レイ、仲良くやっているか?」
「そ、そりゃもちろん…レイって料理上手いし、器用だし…何より、お母さんみたいな優しい所あるし…」
「フフ…シンジ君だってお料理上手いじゃない、それに私の為に…何かと一生懸命になってくれるし…」
新婚特有の惚気オーラを出し、司令達を牽制する…さすがの司令でも、耐えがたい筈よ。
現に、隣りの赤木さんも苦笑いしているし。

「…余計な心配が無さそうで何よりだ…が、実は今日来たのはレイに言わねばならん事が有ったからだ…なに、それさえ済めば早々に立ち去る。」
意外に呆気なく付きそうな決着に、少しほっとした…

「至極簡単な事だ、レイ…」

「俺を<司令>ではなく、<お義父さん>と呼んでくれ。」

「…碇司令、用件とは…その事だったのですか?」
「そうだ、赤木…ついでに、お前も外では私を司令と呼ばず<碇さん>ないし<ゲンドウさん>と呼んでもらおう…公の場所では、余りに違和感のあるモノだからな。」

「あ…司令、おとうさんとお呼びすれば良いのですね?」
「そうだ、お義父様なら尚良いぞ。」

…シンジ君、口開いてる。

「わかりました…それでは以後、お義父様とお呼びします。」
「あぁ…いいぞ、その調子で頼む。職場でも必要に応じ使い分けてくれ。」
呆然とカップを持ったまま固まる赤木さんを置いて、司令が玄関へ向かう…
「何を呆けている、行くぞ赤木。」
「…は、はいっ。」

二人の帰った後のテーブルには、ほとんど口も付けずのコーヒーと…見事に空のカップが残された。
「…レイ、父さんってこんな人…だったっけ?」
「…知らないわ、私。」

それからというもの、
毎月末には大抵司令からの呼び出しで私達、司令、冬月さん、赤木さんの5名でどこかしらに出掛けるパターンが出来上がってしまった…

…夫婦になってから、どんどん二人の時間が減ってきてる気がするわ…orz





シンジ君、今日は自分からキスをねだらなかった…思わず私が催促しちゃったじゃない、バカ。

…そう、ここ数日ぐらい妙に上機嫌+大人しいシンジ君。
そういえば最近話によく出る幼稚園…確か、南光だったわね。

翌日、ネルフには午後から出社する事にしてシンジ君を追跡。
…ふぅん、私とキスするのを忘れる割には随分と足取軽やかだこと。

…幼稚園前、入口に迎えに来た女の人。
アレね…まだそんな親密そうじゃないけど、そこそこ可愛いじゃない…
特殊な環境で育ったから目が肥えてるわね、シンジく…ん?
て、手紙!?何貰ってるのよ!その上嬉しそうに!!
ばっちりカメラに収めたわ…帰ったら態度によってはお仕置タイムね、シンジ君?

「ただいまぁ〜♪…あれ?どしたの、ご飯無いなら食べに…「座って。」
キョトンとしながらも、私達の隣りに座ろうとするシンジ君。
「…違うわ、反対側。向かいに座って。」
…そんな不思議そうな顔、後何行かで出来なくしてあげる。

「シンジ君、今時手紙何て随分とお洒落な事ね?」

帰宅後、早速の問い詰めに当然戸惑うシンジ君…あなたがいけないのよ、こうなったのは。

「な、何いきなり?僕お腹減ってレイのご飯楽しみに…「シラを切り通すのはそこまで。」
デジカメに収めた映像に、予想通り驚くシンジ君。

「正直に謝れば、許してあげなくもないわよ…?」
…?シンジ君の表情が何かに気付いた様な顔になり、そこから不敵な笑みに変わる…なによ、開き直る気?
「…随分と酷い言い方するけど、誤解だよ…ホラ。」
朝方受け取っていた封筒を、私はゆっくりと開いてみる…

クレヨンで書かれたヘタな字、それは園児からの手紙だった。
「浮気の相手が子供ってのは…酷い言われ方だよねぇ?それに尾行なんて。」
「う…」
何も言えない私に、シンジ君がジリジリと迫る…現にテーブルを伝い、私の前まで来てしまった。
「し、シンジ君がいけないのよ…朝の、キス…忘れかけたり…」
「ふぅん…じゃあとりあえず、態度で示して貰おっかな?言葉は後でいいや…」
そう言って更に距離を詰めて、私の手を封じて首筋に唇を…

「だ、ダメっ!?まだ火曜日じゃない、あと4日は…」
「…僕は旦那様だよ?主導権が僕に有るって事、ちゃんと覚えてくれなきゃ…」
…このまま流されちゃいけない、格なる上は!

シンジ君の両脚の間に脚をねじ込み強引に開き、シンジ君をキッチンのカーペットに押し倒して私も倒れ掛かる。
「…主導権は私のモノ。アナタの心も身体も、忘れない様刻んであげるわ…」
調子に乗らせてはいけないの、良い様にされたらマンネリするから。
カリッ…
耳元に当てた言葉と共に、彼の耳へ歯を立てた…

明日の疲れは、あのドリンクで乗り切ってもらおう。


番外、“ションボリしんちゃん”

「うぅ…腰、痛い。」

走り寄る園児達をぐるぐる回して遊んであげる僕は、どこ行ったんだろ…?
いつもなら休みの時間もモテモテなのにな…今日は腰、いや全身痛いから職員室に避難。
それというのも昨日のレイなんだ…

耳噛まれた時、迂闊にもゾクゾクしちゃって…レイが蛍光灯をバックに嬉しそうに笑った顔が、これまたすごい来るんだ。
あぁ、僕って情けないや…
料理こそ僕はギリギリなトコだけど、収入も世間体も…夜も。
レイはこれでバランス取れてるって言うけど、僕だって出来ればトウジみたく奥さんをメロメロにさせたいよ…

空は灰色、溜め息はなお重い。
レイが出掛けにくれた栄養ドリンクを煽り、一層落ちる肩…僕は、レイを満足させているんだろうか?

…いや、何考えてるの僕は。
何だか身体が熱い…扇風機を固定してドリンクの残りを煽る。
そう、ええと、昨日の事だ。
レイが激しかったから僕が疲れて、何か薬飲んでそれで…身体が痛い。

…そうだ、少し鍛えてみよっかな?
見た目がひょろひょろだから頼り無いんだ!きっとそうだ!!
レイの魅力的な身体だってトレーニングのおかげも有るだろうし、僕だってやれば出来るかも!

「碇さん、一緒にシュークリームどうですかぁ?」
「あ、いただきます!」
「…良い事でもあったんですか?嬉しそうですね。」
「えへへ…ちょっと、目標立てたんで頑張ろうって…」

で、この日から僕はこの幼稚園の経営するプールにも通っている…


**********


「ふふふ、今日は何の日だ〜?」
「…さぁ?知らないわ。」

もう、項例のパターンとなったこのやり取り。
シンジ君がコレを言う時は大抵金曜日、そう…
「今日は解禁日だよー♪」
「今ご飯作ってるでしょ?危ないから下がってて。」
「なんだよぅ、ツレないなぁ…まぁ、そんな態度も今の内だけどね♪」

私が餃子のタネを練る後ろから、シンジ君は私の胸をこねて首筋にかぶりつく…
「ん…大事な、話もっ…あるから…後にして…っ!…」
「ぷぁ、このままじゃダメなの?今はご飯よりもレイの方が美味しそうなんだもん…」

手が、エプロンの下から今度は服の下…ブラの中まで。
「んっ…ダメだって…言ってるっ、でしょ…っ?」
「な〜に?今日はやけに焦らすね…それじゃ、このままレイに悪戯しちゃおっ…ぐっ!?」
…下にまで手を回すから、イライラして思わず肘を入れてしまった。
「あ…ごめんねシンジ君。でも、忠告したわよ?」
「んぅぅっ…何もそんなに怒んなくて良いじゃない!?僕だって今週はちゃんと我慢してきたじゃないか!!」
「ごめんなさい。後でちゃんとしてあげるから…大切な話があるの、だから聞いて。」

渋々テーブルに座るシンジ君、私達は練り上げたタネを真ん中に置いて一緒に餃子を包みだす…

「…大事な話って?」
気持ち声が落ちてる…無理も無いわね。
「私が…宇宙に出る日、決まったわ。」

シンジ君の手が止まる。
…喜んでくれると思ったのに、呆然としてるだけで何も言ってくれないの?
「…は、ははは…ウソ、いや違う本当なんだね!?や、やったじゃないか!?
見通し無いとか色々言ってたけど、なんだ…良かったじゃないか!!それ早く言ってよ!!あー、びっくりした!」
関を切って喋りだした事に少し驚いたけど、やっぱり喜んでくれた。
良かったわ…

「えぇ。それで、日程なんだけど…」
「うん、来年とか?一年か半年は居るよね?」
「…2ヶ月後、正確には2ヶ月と1週間…2ヶ月はネルフでみっちりトレーニング、1週間は基地で打ち合わせだとか色々よ。」
「…そ、そっか。急な話なんだ、ね。」
「ネルフに泊まり込むから、帰って来るまで3ヶ月はあるけど…」
「わ、わかってるよ…僕には君しか居ないし、よそ見なんてするもんか!」
「…ありがとう。あなたに出会えて、本当に良かったわ…」
「…それじゃ別れの挨拶みたいじゃないか…さよならなんて、二度と言わないでくれよ…」

…私はシンジ君を後ろから抱き締めた。
もし事故が起これば無抵抗に死ななければならない、今こうして平和な毎日を送っていた私達にとって…それは恐怖。
二度と会えないかもしれないと、どうしても頭の隅に在ったから…

その晩と土曜は、ずっとお互いを貪りあった。
それは後悔しない為…だったのかしら?
それとも…




+続く+



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