〈…じゃ、遂にあんたに勝利宣言されたワケだ。
…はいはい、おめでとーございますことね!ほほほほほ。〉

プロポーズを受け直して、早速だけど皆に報告…碇君も、少し離れた所で皆に電話をかけている。
〈…で、式はいつなのよ…まさか、今からじゃないでしょ?〉
「決めてないけど…これから婚姻届、出しに行くわ。」
〈…ったくもぅ、帰りのタクシーで聞くニュースじゃないわよ!おかげで目が覚めちゃったんだから…あ、シンジ居たら代わってもらえる?〉
「…分かったわ。他の人と電話してるけど、あなたなら最優先…なんでしょ?」
〈やだ、あんたそんな嫌味どっから覚えたの?ほら、分かってんなら早く!!〉

…代わりに渡された電話口には、相田君が…え?
モロッコ…?
…はぁ、そうなの…おめでとう…

…なんでも、渚君…いや、渚さんの性転換手術の付き添いでモロッコに行った帰りの飛行機らしい…
こっちに来たら戸籍を出し直してすぐ結婚する…らしい。
マキ・カルーセルには感謝してるとか何とか…

ともかく、他の皆へも電話をしていたら…昼過ぎになってしまった。
私達は急いで役所へと向かう…が。まだ2時だし、とりあえず役所の食堂で食事する事にした…

「若い男女二人で来るなんて珍しいね〜…あ!もしかして、これから婚姻届出すの!?」

…食堂のおばさんが言うには、カップルが来るのはそういう時ぐらいだからって…何と、お代はサービス!
…代わりに食事が終わってもしばらくは、おばさん達に囲まれて馴初め云々の質問責めにあった…





あなたと居る未来まで
    レイ猫。 ◆/75iL116..





…とにかく、食堂を出たのは4時前!
私達は急ぎ足で階段を駈け登った…

手続きはことのほか順調だったけど、住民票あれこれを引き出すのには時間をとられて…ギリギリの提出となる。
私達の…特に私のは、検索に何度かエラーが出たとか。
…まぁ、良いわ。
今、入籍した事実があるから…

家に帰ると、いつも大人しい碇君が妙にベタベタしてきた…分かった、アスカね。
きっと、昼間の電話の時にでもアレコレ吹き込まれたんだわ…やらしい人達。
あいにく、私は初夜まで体は許せないの…今までも処理はしてあげても、その線は保って来た。
碇君の股ぐらを掴んで耳元に一言…

「…将来子供欲しいなら、節操だけは持ってね♪」

…顔を青くして飛び退く。
…碇君には、ちょっと刺激あり過ぎたかも?と思ったけど、その後私の事をウットリと眺めていたから…逆効果だったみたい。
…男の人は、すべからくスケベな生き物ね…

…そう、寝る前に一つ…大事な事を思い出した。
もう、私は〈碇レイ〉になったから…明日からは彼をシンジ君と呼ばなきゃ…
今夜のおやすみは、間違えて碇君って呼んでしまったけど…

大丈夫よ、明日の「おはよう」は…きっとあなたをシンジ君って…呼んで見せるから。



番外、“その頃アスカは”

遂に、やられたわ…

いや、分かってたのよ?
付き合って10年近く、同棲して4年…隙の出来ない無欠のカップルだもの、あいつら。
ま、しょげたシンジにゃ無愛想ちゃんがお似合いなのよ!

タクシーを降りてアパートの前…
日本の街ほどネオンは無いけど、代わりにムードある街灯の灯が広がる国…ドイツ、か。
あたしには、もう慣れちゃったからムードは無いな。

あーもぅ、鍵が無い…
中に誰か居れば開けてもらうが、あいにく先週別れたし。
最近恋愛にジャンキーかもね…あ、鍵あった。

あっちは、今から一日の始まり…アタシは一日終わり。
何だっけ〜?ひーいづるところからナントカって奴…中学生の時、思い…出しちゃうわ…
…くそ、ちょっと泣けて来る…久し振りに、ヒカリに電話かけよっかなぁ?
トウジの浮気も、ただの疑惑だったらしいし…

あーあぁ、皆様幸せだこと!!アタシは未だに思い出に恋する少女よ〜!
…シェリー酒でも飲んで、とっとと寝よ。
きーっと、今月中には日本で赤絨毯の脇に居るんだろーから!!

…いくらアレコレ目を反らしても、反らす分だけ目が行ってしまう…恋愛のトラップってのは、余りにも無慈悲。
アタシの王子様はいずこ、か…シェリー酒の瓶、空いちゃった…

…いいかげん、大人になるべき…なのね、私も。
…今電話して、すぐ出たら…あと一回だけ、チャンスあげよっかな?
アイツにも…
あたしにも…


**********


「…シンジ君、シンジ君、シンジ君、シンジ君、シンジ君…」

目が覚めて、部屋を出る前にまず10回…洗面所で顔を洗いながら30回…鼻歌混じりにクロワッサンとコーヒーを用意しながら、50回程度…
…よし、これだけ何度も言えば大丈夫。
籍を入れて初めての朝を、第一種戦闘態勢にて臨む…

…襖の奥、気配!

「…ふぁ…ぉはぁよ、あゃ「おはようシンジ君。」

…口を開いたまましばし固まる碇…違う、シンジ君。
「…あ、の…」「どうしたのシンジ君。」
…問題無いわ。上手く言えてる、私…
「な、何か変じゃない?綾波…」「何も変じゃないわシンジ君。」
…シンジ君が手をポンと叩く…何、ソレ?

「あ、あぁ…そうかぁ!昨日籍入れて綾な…あぁ、名前で呼ぼうってやつだね!?そうか…おはよう、レイ!」「朝食用意したからどうぞシンジ君。」
「あの…何で、そんな早口なの?レイ…」
「…え。」

…こういう事は気を張り過ぎてもダメになると、痛感させられた…

今日は午後から式場等の打ち合わせに、少し離れた新しい式場へ出掛ける。
赤木さんに、鈴原夫妻が相談役として来てくれる…
…下見したけれど、静かな中に漂う柔らかさ…何とも言えない、甘い気持ちの溢れる場所だった…
…ここに決めたわ。
早速予約して、ヒカリと赤木さんの三人でセッティング云々を…

って、シンジ君…何処に行ったの?
あなたも参加しなきゃ駄目じゃない…私達の結婚式、挙げるのだから…



番外 “その頃シンジは…”

「…全く、エラい急にやな〜?センセらずーっと一緒に居るんに、ちーとも結婚やー!て言い出さんかったから…正味、アカンのか思てたで!!」

女性陣がワイワイやる場所から離れた僕は、喫煙コーナーでトウジから

『これから結婚するホヤホヤ新郎への注意点』

なるものを教わっていた…いや、正直参考になるかは…(汗)
「…でー、やなぁ…一、番!気を付けねばならん事が…女性関係な。
センセも未だモテモテのタイフーンやろ?知っとるでぇ!?大学に何人かおるやろー、このこの…」
「…で、要点は何なの?」
「あぁ、せやな…要はな、幸せな家庭…夫婦生活に浮気は厳・禁!!っちゅーコト!!…なんやあったら、今の内に解消しとき?…手伝ーたるさかい!」
…こないだ浮気バレた人間のセリフかなぁ…トウジはごまかし通してたけど、ね。
「あー…トウジ、そりゃ君じゃないか…僕にそんな相手は、一人だって居ないんだから。」
「ホンマか〜?オンナの嫉妬は鬼よりコワ〜イ!もんやで…?ま、いざとなったら相談しいや…ワシのとっとき教えたる!!」
「あはは…心強いや…」

…果たしてそんな日来るかな?
僕は、他の人程表に出ないと思うけど…これでも舞い上がっちゃう気分なんだ…
多分、綾…レイもそうなんだ…彼女の場合は、顔より言葉…言葉より行動な感じだから、判りやすいかな?とは思う。
…ちょっとずつアスカとかに感化されてる節も、有りそうだけど…(汗)

ま、とにかく今幸せなんだ…僕らは。
…きっと、父さんも…母さんも…喜んで、くれるよね?



番外 “落ち着かない人達”

碇に落ち着きが無い…まぁ、かく言う私もだが。

一昨日シンジ君からの報告を受け、更に昨日にはもうプリントを刷った者が居たらしく…今や、ネルフ全体がソワソワしている有様だ。
「…碇、お前はどっちの席に座る?」
「…無論レイだ、シンジには葛城が居るだろう。」
「…一人息子の一大行事、せめて付いてやったらどうなんだ?」
「…ふん。なら冬月、お前がレイの介添えでもやる…と?」
「まぁ、お前がシンジ君に付くなら…代理でな。」
「…正直に言え、お前は最初からそれが望みだろう。」
「老い先短い私が頼み、お前が快い返事をくれるなら…こんな言い方せんよ。」
「俺はシンジとの時間より、レイと居た時間の方が長い。」
「レイは元々ネルフで生まれたな…つまりはネルフの者全員が親代わりではないか?」

「…好きにしろ。」
碇はそう残して、足早に去ってしまった…

「…悪いな碇、私もユイ君の面影だけでなく…娘としての入れ込みがある様でな…」
…不思議な気分だ。
生まれてこの方、妻も持たずただ…父親面をしたいとは…

…私はその日、久しく仕舞い込んでいた本を取り出し…一人、詰め将棋を始めたのだが…
しかし全く…何とも、可笑しな話だよ!
戦いの場で息巻いた時は、数年かかる筈が…こんなにも早く全てを解き終える等とは…な。



**********



ようやくシンジ君も交え、式のセッティングについてプランナーの人との打ち合わせを進める…

ネルフの人達の大半の意見で、費用に関してはネルフ持ちとなっている…ありがたい反面、少し気が引ける所がある私とシンジ君。
赤木さんが言うには、
「あなた達のおかげでこの街はおろか、世界中が助かったんですもの…その位は見返りとしてあっても、誰も文句なんて言うはず無いじゃない?」
…と。
そんな訳で、私達の結婚式には多くの招待客、多くの電報、花束…多くの予算が注ぎ込まれる手筈になった…
「…こじんまりってのは、僕らには無理みたい…だね。」

幸せは、より多くの人々で分け合うべきとはよく言う話…
私の辞書には下りに、『それらは加減されるべき』と記されてるのに…

日を改めて、ウエディングドレスの下見に来た。
…今日はシンジ君の影を伴わないのが、少し淋しい…
日差しが強ければ、スカートの短いタイプ…(そう、前にどこかの芸能人が着ていた様な物…)貴方様なら似合いますよ!と強く押されたけど…それはだいぶ露出が多過ぎると、却下した。

【…その辺りの話は、当日まで伏せさせていただきます…】

…シンジ君に、早く見せてあげたい…それがその日の帰り、思った感想。
私はまた、白いドレスを見に纏う…久し振りに身に着けるドレスは、戦いの場へのモノじゃないの。
今度のは、特別なもの…女性なら誰にでも有り得る『可能性のドレス』
そして、『幸せを選ぶドレス』なの…


日程はなんと1週間後に決まり、私達も周りの人も上へ下への大騒ぎ。

アスカ緊急来日、ネルフ内部のお祭り騒ぎ、果ては市長のご挨拶に地方テレビの取材と式当日の撮影アポイントメント…
今や毎年恒例のジオフロント夏祭りより、すごい騒がれ様だったかも。

…当日、私達が家を出た途端にネルフ諜報部のお出迎え。
…車の発車直後に報道関係の人や野次馬らしい知らない人が、何やら家の方に駆けて行くのとすれ違った時は…少しばかり申し訳無い気分に。

会場に着くなりアスカを筆頭によく知った面々が、私達をそれぞれの控え室にと連れて行った…
「さ、それじゃヒカリは係と一緒にドレスとか担当…リツコさんはメイクですかね?んで、アタシは…」
久し振りに会った余韻だとか感想もなく、アスカは早々に陣頭を取る…その姿がとても様になっている。
「…ほら、あんたの顔は元々辛気臭いんだからも〜っとニコニコしなさいよ!そんなんじゃ、シンジも幸せも逃げるわよ!?」
「ありがとう。あなたは、激励担当なのね…」
「ま、どーでもいいわねんな事。
…言っとくけどね、今日はあんたらの幸せの下敷きになりに来たんじゃないのよ。アンタの投げるブーケ、それを取りに来たのよ!!」
「フフ…じゃあ、ちゃんと取れる様に上手く投げるわね?」

…実は、本当にアスカが来てくれるのか心配だったの…でも、彼女は今まで通りそこに居た。
無愛想と気の弱い友達の為に、国もためらいも越えて来てくれた…


「ん…レイ、少し良いか?」
いつの間にか冬月さんと碇司令が…

「司令、親族と言えど一応は遠慮して頂きたいのですが…」
…赤木さんが、ちょっと意地悪く言い放つ。
「うっ…」
「ま、まぁ赤木君…すぐ済むから、多めに見てくれないかね?」
「あら、どうぞごゆっくり?ほんの冗談ですから。」
…私が聞いてても、トゲのある冗談だったけど…ともかく、二人が私の前に立つ。

「…レイ。今まで…済まなかった、な。」
気持ちうわずった様な声が、耳に新しかった。
「そして、なによりおめでとうだ…シンジと伴に、幸せに…な…」
「…やれやれ…碇が大半言ってしまったが、私からもおめでとうだ…それと」
…そのまま耳元に寄る冬月さん。
「子供が出来たら、一番に呼んでくれないか…?」

…思わず固まった。

まさか冬月さんからそんな…そんな言われ方をするなんて…
「はいはい、新婦が着替えますから出て下さ〜い。」
そこに上手く滑り込む赤木さんが、二人を手早く追い出した。
「レイ、このドレス…本っ当に素敵よね…あれ?少し…いや、結構…デザイン変わってない?」
…ヒカリの言う様に、実は皆で決めた後ネルフの一部の人と街のデザイナー達によって初期の段階より綺羅びやかかつ豪華な物に生まれ変わっていた…
「ま、良いんじゃない?中継とかも来るらしいし、そんぐらいで丁度でしょ。」

…アスカ、あなた随分と人事な言い方するのね…







光が差し込み、パイプオルガンの響く聖堂…ヴァージンロードを進む。

私の向かう先に、彼が居る。

…誓いの言葉。
ベーゼを上げるシンジ君の手は、少し震えている…私も、今すぐ座り込みそうな程に胸が高鳴る。
婚姻届は二人だけの約束…そして、指輪の交換は二人と皆への誓い。
手袋の左手の薬指を開けて、あのリングをはめ直す…
「…シンジ君、感想は?」
キスの前に、目を見つめて聞いてみた。
「ん?もちろん、幸せだよ…女神が迎えに来てくれた気分かな。」
「お上手ね。でも、私は女神になんてなれないわ…」
何度かした時よりも、今度は優しく…心の深くへ届くキスをした。
「君は皆にとって、誰より僕にとっての女神だよ…」

鳴り止まない拍手の中で、私達は笑顔に包まれる…そしてまた始まる新しい日々を想う。

「…幸せに、なりましょう。」

━━━━━━━披露宴会場、扉の前。

「僕達、すっかり有名人みたいだよね。」
「…そうね。エヴァに乗っていた事意外は、普通の人と何等変わりないのに。」
司会の呼び出しを待つ束の間、二人きりになった私達…
「ブーケ、結局伊吹さんが受け取ってたけど…アスカ怒るかなぁ?」
「彼女なら大丈夫…ジンクスに捕らわれない強さが、あの人にはあるから。」
「…僕の知らない所で、君達は勝手に仲良くなってるね…妬けちゃうよ。」
「アスカに?それとも私?…男の嫉妬、見苦しいのよ。」
「はは…違いないや。」
扉が開き、再度拍手の中へ…私達は足取りも軽やかに、奥へと進んだ。

『…と、これが二人の馴れ初めです。全く、さっさと結婚すりゃ良かったのに何時までも引き延ばすのでマンネリなのかと思ったら…会う度にラブラブで目も当てられません。』
会場の一部では笑い声が上がる、葛城さんの声が特に大きいわ…あれは、出来上がってるわね…(汗)
『ま、それは見てればわかりますね…それでは、乾杯の挨拶を。』
…と、ワインレッドのスーツに身を包むアスカはマイク無しに私達へ叫ぶ…
「幸せになんなさいよ、バカ夫婦!!」
『では、乾杯!』

「「「乾杯!!」」」

アスカの挨拶で、披露宴の各演目がスタートした。



披露宴の間、各演目の合間をぬってそれぞれに挨拶しに来てくれた。

「おめでとさん!これでセンセらもワシらのよーになるかと思うと…か〜、少しもったいないのぉ?結婚今から止めてカップルのままに戻らんの?」ガッ
「…あんたは黙ってなさい。レイ、シンジ君、本当におめでとう!
シンジ君?レイを泣かしたら許さないからね?」「はは…泣かされるのは僕になるかもよ?」ギュッ
「うぎぃッ!?」
「…ありがとうヒカリ、あなた達を見習って良い家庭を築ける様…頑張るわ。」
「あたた…と、とにかくめでたいわな!ワシらも景気よー楽しませて貰うで!!」

「やー、先越されちゃったな…おめでとう、二人とも!」
「そっか…カヲルさんと入籍したんだよね、おめでとうケンスケ!」
「フフ…あまり君達との面識は無かったけど、君達もやっぱり結婚したね…良かったら、その内に何処かへ旅行に行きたいね。なかなか気が合いそうだし…」
「そう…ですね。ま、まぁ、機会あったら…」
シンジ君、少し怯えてるわ…でも大丈夫。
貞操なら心配無いわ、私が守るもの…

他にも葛城さんに赤木さん、冬月さんを始めネルフの人達に柴田夫妻も挨拶しに来てくれた。

…司令だけは、席でいつものポーズ。
冬月さん曰く涙が止まらないから来れないらしい。




+続く+



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