高校卒業にあたり、私達は同棲をする事にした。

…とは言っても碇君の家からミサトさんが出ると言う事なので、そこへ私が入る…という形のもの。
家賃、光熱費はネルフの負担だけど、それも20才まで…
できれば今年の内に、今度は本当に自立して私達だけの愛(ry…いや、住居の見当をつけたいねと話していた。

「…アスカもミサトさんも居なくなると…随分広いし、静かになっちゃってたよ。」
…確かに。あの時は煩いと思っていた二人の明るさは、もうこの家の何処に居ても感じる事は無い…

「…碇君、私達は変われるかしら?」
「ん、どうしたの急に?…綾波なら、この何年間ですごく変わったじゃない!」
「…ううん、私は知識や常識…物事の仕組みをよく知っただけ。私自身、変わったとは思えないの…」
「そんな事言ったら僕はどうなのさ?1年に6回は帰って来るアスカに未だに怒られっ放しだし、君にも相変わらずドキドキさせられっ放しだ…」
「…私、そんなに怒りっぽい?」
…碇君は苦笑する。最近、その顔が妙に似合う。
「…未だに好きでしょうがないって事だよ。」
私は席を立ち、冷蔵庫に手を伸ばす…
「…知ってるわ。さっきアイス買ったの、食べる?」
「ははは…何か段々、意地悪になったかな?」

そう言ってやっぱり苦笑してしまう碇君に、私はアイスをくっつけて遊ぶのだった。





あなたと居る未来まで
    レイ猫。 ◆/75iL116..





そういえば、卒業式には指令も来ていた。

私達の親として、ネルフの代表として。
…葛城さんも来ていたけれど、急に電話が鳴って慌ただしく出て行った。
…せめて、マナーモード…常識だわ。

式が終わると、卒業祝いと称して打ち上げが開かれた。
あの時エヴァでの戦いの、中心となっていた面々を集めて開かれた…のだが、葛城さんは最後まで現れなかった。

赤木博士と、少し話をした。
「…どう?碇君との調子は。」
「毎日楽しく過ごしてます…碇君、優しいですし。」
「…プッ…アハハハ…あなたから惚気を聞かされるなんて、想像もしなかったわ!」

「…それにしても、あなた達進路はどうするの?」
「…碇君は大学へ、私も…同じ所に行こうかと。」
「そうなの…あら電話、ちょっと待ってて。」
そこで一度話を中断し、応答する博士。
「…おまたせ。それで、実はあなた達に来て貰おうと思ってたの…ここに。あぁ、使徒と戦う訳じゃないわよ?今度は…」
そう言って渡された企画書の表には、こんな文字が…
〈汎用人型災害・人災救援兵器エヴァンゲリオン〉
「要は、またエヴァに乗って欲しいって話だけれど
…やっぱりいいわ。」
「はぁ…」
「…代わりに、幸せになりなさい。とでも言おうかしら?」

…結局、何の為に呼ばれたか分からないまま私は帰った。

「…全く、誰よこんな企画書刷ったの?エヴァは凍結を決めたのに…」
…そう言って、リツコは丸めた企画書をゴミ箱に突っ込むのだった。




「…ハァ!?あんた達まだ結婚してないのぉ!?」

大学二年目、相変わらず二月に一回は私達にちょっかいを出すあの人…に連れられて居酒屋に居る私。
碇君は、今日は風邪で寝込んでいる…
「アンタねぇ、同棲してりゃ良いなんて考えは捨てなさい!!」
言葉の合間にチューハイを減らす…すごいペースだわ。
「あーゆー大人しそうなのはねぇ、わかんないとこで色々やるのよ!…トウジ〜、コレおかわり〜♪」
「…他の客の迷惑にもなるさかい!も、ちーっと静かに飲んだってや?」
鈴原君はそう言いつつもおかわりを用意していた…そう。彼がここでアルバイトしてるから、アスカはわざわざここを選んだの…安く、済むだろうからって。
「あなた、言ってた彼はどうなったの?」
「…ハッ、別れたわよ!あんな奴!!やっぱ、からかい甲斐あるのってシンジぐらいよね…
もぅ、あんたが夏祭りの時抜け駆けしなきゃ…今頃あたしがアイツの奥さんやってたかもね!!」

…アスカのジョッキには、もう半分も残ってない…

…虎ね、虎になるのね。


「多分、あの日が無くても碇君とこうなってたわ…私達には、絆があるもの。」

私の手の中で、梅酒のグラスが音を立てる…
「はいはいはい…あんたにはかなわないわよ!」

私達は、グラスを空けて店を出た。
「…それじゃ、あたし今日はホテルに行くから。」
…後ろ手に手を振り、街の中心に向かうアスカ…
「ありがとう、気を使ってくれて!」
…そこでアスカが、振り向かずに盛大に叫んだ。
「あんたじゃなくて私の為よ!!アイツの萎びた顔見てたら、襲っちゃってあんたとの友情にヒビ入るじゃない!!」
…一瞬振り向いたアスカは、涙を浮かべていた…気がする。

そして彼女もまた、この数年後に結婚するのだった。



番外

「ハァ!!?ふっ…ふざけんじゃあ無いわよぉッ!!」

「…だから、今こうして話してるじゃないか。どうする?お前は…」

シンジ君とレイの卒業式の最中、私は不謹慎ながらウトウトしていた…
そんな折だ、アイツから…電話が来た。
「…行くわよ!アンタには色々、言いたい事も聞きたい事も腐る程あるわよ!!」
「…そう言ってくれると思った…じゃ、待ってるぞ?」
「…もし居なかったら、地の果てだろうが探して殺してやるから…覚悟しなさい!」

もう5年以上は前になる…アイツは死んだと、やっと…薄れてたのに。

車をすっ飛ばして指定の場所の近くに来た…
アイツの名を借りた罠ってのも有り得る…久々にダッシュボードから拳銃を出した。
遠目からは、人影は無い…隠れる場所も、皆無だわ。
…狙撃、されたらアウトね。
まぁ、今更生きてた所で良くなるとも限らない…よし、い…
「何怒ってんだ?葛城。」

…車からわずか2、3歩大股で進んだ瞬間…気の抜けたようなアイツの声に打ち抜かれた。
「だっ、アッ…あんた何で後ろから出てくんのよ!?」
「いや、こんな早いとはな…タバコ無いから買いに、な。」
…思い描く再会シーン何て夢の夢…加持は、大抵予想外だ。
「葛城、車ん中禁煙だったか?」
「…あんた、本当に最っ低な男だわ。」
「おいおい、せっかくの感動の再会はキスも抱擁も無いのか?…あ痛ッ」

加治を乗せて、私の愛車は発進する。
…リツコ達には悪いけど、休暇願いは後から送る事になった。


**********


「…綾波は、大学出たらどうする?」

卒業論文の提出も終えて、私達は一緒に家に帰る…相変わらずな日差しの下、相変わらずに穏やかな時間を重ねる。

…そして新しい年を向かえるより先に、私達の幸せは新たな段階へ進む…

「…え、確かに話は僕も聞いた気がするけどさ…本当、だったの!?」
「えぇ、夢じゃないわ…満を持して人類は、宇宙への進出を再開するのよ。」

この時は夢の様な話。
…私は、ネルフや多くの支援の基で…宇宙に上がる。
「…と言っても、まだしばらく先の話なのよ?
それまでは訓練の繰り返し…昔を思い出しちゃう。」
…それを聞き、少し笑ってしまう碇君…つられて私も苦笑い。
「そっか…じゃあ、早いとこ色々考えないと…」
「…例えば、結婚?」

そこで碇君がむせ返る。
お互いまんざらでも無いハズだし、私としては…彼からの言葉を期待していたのだけど…
「う〜ん…そうだ、ね…いずれは…ってゆうのはある…かな?」
「…何で、はぐらかすの。」
「いや、そりゃあ…準備も時期も合わないとアレだし…い、いや、浮気とかそんなんじゃないって!!」
…碇君は、この話になると途端に歯切れが悪くなる。
浮気云々でないのは間違い無いけれど、こう何度もはぐらかされてしまうと…嫌でも不安は影を落とす。

…早く私をしっかり掴まえてくれなきゃ…愛想、尽かしちゃうから。




…碇君の様子に、滅法変な所が目立ってきた。

いや、正確に言えば生活周期が少し変わっている感じ…いつも朝方5時には台所に歩く音がするし、私が夕飯を作る間は部屋に籠って何かしているし。

…さすがに一週間も続けば、怪しむのは当然…よね?
碇君が用事と言って何処か出掛けた隙に、私は彼の端末をいじってみる…
「…これはあくまで調査、隠すあなたの相手が悪いの…」

…履歴にはデートスポット百選、景観の素敵な場所…アクセサリーのデザインカタログ等…
そこまで見て、胸の奥で猛烈に渦巻く感情…今なら判るわ。
私、まだ見ぬ誰かに嫉妬してる…碇君のくれたものは今まで色々あるけど、こんなデザインの物は初めて見たもの…

端末を戻し、静まり返る部屋…碇君のベッドに横たわり、しきりに流れそうな涙をこらえた…
(碇君に限って、浮気なんて…)
…絶対無いって、どうして続かないの?彼を信頼して無いの?私…

…ダメ、急に悲しくなってきた。
…まだ朝方、こんな時間から出掛けた碇君…

胸の苦しさはピークに達する…これ以上碇君のニオイがある所に居たら、私は何を考えるか怖くなった…
…もっと、落ち着く必要がある。
携帯と財布を持って、私もひとまず外の空気を吸いに出よう…

相変わらず外の日差しは強い…その分黒い影は、色濃く私の後を付け回す…



碇君は…私とでは幸せになれないの?
…そんな言葉ばかり頭を過ぎる先から、何とか消そうとはしてみる。

普通の人なら、この時間は大抵仕事や学校…私達は論文も出したし、後は悠々なのだけど…
何となく買った紙パックの苺牛乳が、私の溜め息を重くする…

碇君の好きな飲み物…

碇君…

…嫌でもまた、あの感情が渦巻く。
このままじゃ私が、関係を破綻させてしまいそうだわ…

ピリリリリッ、ピリリ…

不意に鳴る携帯…碇君だった。
〈あ、綾波…これから外に出られる?〉
「…どうしたの?こんな早くに…今、外に居るわ。」
〈その…大切な話。とにかく、今何処に居るの?〉
「…」
〈綾波…?ねぇ、何処に居るの?…聞こえてる?〉
「…公園。」
〈わ、分かった…何かあったの?声が少し暗い感じだよ…?〉
「…別に。私は、帰って良いのかしら?」
〈ま、待ってよ!?今近くに居るんだ…そのまま待ってて!!〉

…切れてしまった。
電話の声を聞いて私の溜め息も影も、より重さと濃さを増した気分…
いっそ、碇君を待たずに帰ってしまおうかとも考えた…でも、ここで信じなきゃ…きっとこの先も信じられないままにしそう。

…ふと見上げた公園の時計には、秒針がなかった。
細かい事を気にしない、子供であれたらどんなに楽かしら…

「…良かった、ハァ…やっぱり…待っててくれたんだね!」

息を切らして駆け寄ってきた碇君…胸の痛みはより一層強くなる。
「…ご、ごめん…ちょっと…疲れた…ハァ…」
「…大丈夫?」
立上がり、前屈みな碇君を覗き込もうとすると…目の前に、手を差し出された。

「…持ってて、はぁ…」そう言って渡されたけど、碇君は手を放してはいなかった…
「…ふぅ、お待たせ。それじゃ、手を開いて見てよ…」
息を整えた所で、碇君は握る手を解いた…私も、ゆっくりと掌を開いて見た…

「これ、は…」
「婚約指輪だけど…あれ…デザイン、気に入らなかった…?」
シルバーに、程よい大きさであしらわれた優しいピンク色の宝石…それが今、私に渡された碇君の想い。

「あ…」
…上手く言葉も紡げずに、私はそれを握り締めて泣き崩れてしまった。
「…えっ?あれっ!?ど、どうしたの綾波!?何か気に入らなかったの!?僕じゃ、ダメ…だったの!?」
「違う…わ…嬉しいわ…すごく…でも、今まで…悲しくて…いきなり、だった…から…」
「そ、そう…なの…?良かった…あはは、良かったぁ!あはははは…!!」

笑って私を抱き締める碇君に、ボロボロ泣いている私…私が密かに描いていたプロポーズの瞬間は、まるで見当違いの出来事となってしまった…

…涙が止まったら、改めて笑顔でプロポーズを受け直したいわ…





+続く+



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