…空腹で目が覚めた、時間は朝の5時を回っている。
冷蔵庫に手頃な物は無かった…仕方無い、まずシャワーを浴びてコンビニへ行こう…
空が少し明るい…まだ夜の余韻が残り、西には濃いブルーが見える。
こんな空は久し振り…この時間、滅多に外に出ないもの…

おにぎりと飲み物を幾つか購入して、帰路につく…
空はもう太陽が昇り、濃いブルーは爽やかなスカイブルーに…でも、心の奥が晴れる事は無い。

いつの間にか学校まで来ていた…そう、体が覚えているってだけで。
教室に行くまでに、何人かと挨拶したけど…進むごとに足が重くなるわ…
教室、
いつもの席…

碇君。

彼は机に突っ伏して、私に気付かない…後ろから近付き、驚かしてやるわ…
よし、今だわ。
「っきゃあぁッ!?とっ、トウジ!!な…綾、波?」
「おはよう、碇君。」
「あ、綾波…昨日の女の子はと…」
「気にして無い、大丈夫。」
「…そ、そう?あ、じゃあ今度の休みさ!どっか遊びに」「行かない。」
…自分で驚く程に、今の回答は早いと思う。
碇君とどこか行きたい、でも…今はイヤ、何故かイヤなの。
「…やっぱり怒って」
「怒る?分からないわ。理由、無いもの。」
「…怒ってるじゃないか…」

そこに、見覚えのある人影…嫌な感じ。
「…おはよー、シンジ君。あなたが綾波さん、ね?」





あなたと居る未来まで
    レイ猫。 ◆/75iL116..





「…何か、用なの?」
「あっはー!やっぱりそうだー!!私ですねぇ、霧島マナって言います!!」

…いきなり感じが変わって、少し驚いたわ…
「私ですね、碇君と同じく音楽部やってて…こないだたまたまお家に上げてもらったんですよ、
それであなたの自慢話とか聞いちゃって大変だったんですからぁ!!そうそう、クラスは隣りのDです!
私あなたのファンでもあるんですよ!?この前の体育での走り高跳びなんて…もう池から錦鯉が飛んでるみたいな!綺麗でしたっ!!」
…そこまで言い終わると、霧島さんはハッと気付いた様子でメモを取り出す…
「これ私の番号に住所です、その…レイさんには特別ですっ!それでわっ!!」

走り去る霧島さん…すごい勢いで話してたけど、どうやら碇君よりも私に会いに来た感じだった…
「…違うって、わかった?」
碇君は、にやにやしながら私の顔を覗き込む…
「…何が?あの後追いかけても来ないし、電話も無かったわ…私の好きな碇君が、そんな冷たい訳無いでしょう。」
そう言って席を立つ…
「まっ、待って綾な」
「トイレ、付いて来るの?」
碇君は真っ赤になり、椅子で縮こまる…

「…雑誌に書いてある通り、焦らすのもなかなか楽しいわ…」
私は朝にコンビニでたまたま買った雑誌を、帰ってからまた読み直してみた…





「それは碇君が悪いわよね〜!」

今日は屋上で、ヒカリとマナを連れてお昼。
ヒカリも今では鈴原君と付き合っている…そう、あの夏祭りの日から。
「トウジもね、結構そういうの鈍いから分かるわ…どーして分からないのかしらね?男の子って…」
「…淋しいのだったら、言ってくれれば良いのに…」
「ん〜、あたしにも分かんないですけど…男のプライドとかそんなんじゃないですかねぇ?」
…マナがお弁当を口に入れたまま喋る…行儀、悪いわ。

「…そうだ。霧島さんは今好きな人、居ないの?」
ヒカリが興味有り気にマナを覗き込む…
「えっ、やっ…そんなぁ〜!言わせるんですかぁ?あたしはぁ〜…」

…ヒカリが息を飲み、その雰囲気に私も手を止めてマナを見てしまう…

ふと、マナは私を向いた。


「…綾波さんですぅ…キャー言っちゃったぁ♪」


そう言って私の手を握るマナ。
…固まる私とヒカリ。
この衝撃を言い表すのは、容易では無いわ…

「あ、もちろん2番はヒカリさんで3番目はシンジ君ですかねー?シンジ君となると恋愛対象から外れちゃいますね、うん。」
…かける言葉が無い。

他の話題を探そうと目を泳がせて、気付く…
二人とも、お弁当だわ…私は、購買のパン。

「…二人とも、いつもお弁当…作ってるの?」
ようやく動き出す時間。
「え…えっ、えぇそうよ!私はトウジの分も、弟達のとまとめて作ってるの。」
「あたしもですよ〜♪あ、綾波さんの作って来ましょうか?」
「…いや、それは遠慮するけど…良ければ、教えて欲しいわ。」
「あ、それじゃ今日家においでよ?お料理の本、たまってきたから別けてあげるわ。」
「ヒカリさん!お菓子の本も有ります?見るだけで良いんですけど…」
「あ〜、そうね…多分、有るかな。」
そこでマナが、勢い良く立ち上がる…
「それじゃ放課後教室行きますから、置いてかないで下さいね!」
走り去るマナの後ろ姿を見送り、私とヒカリは少し溜め息をつく…

同性を好きになるって、どんな気分なのかしら…(汗)

そう考えた時、ヒカリが少しビクッと動いた…気がした。



放課後、ヒカリの家に私とマナがお邪魔していた。

「男の子に受けの良いお弁当は、ご飯が良く進む物だったり、定番の物だったりするわ。」
…私はノートの端にその言葉を書き写す…
「それじゃ、卵焼きの作り方を実際に見せるわね?」
言うが早いか卵を6つボウルに開けると白い紐の様な物を取り出し、掻き回す…
造作もなくやってしまうので、暫く見惚れてしまう…

「コレって、人によって甘いかしょっぱいかの好みがあるから、前もって調べておく必要が有るわね…
トウジはしょっぱいのが好きだけど、これは家の夕飯だから…今回は砂糖を入れて甘くするわ。」
シンクの上にある棚から容器を取り出し、砂糖を入れる…甘みがひき立つと言って、塩も少し入れていた。
「…あ、もちろん入れれば入れる程良い訳じゃないから気をつけてね?」
そう…メモしよう。

「後はこういう四角いフライパンを用意して、少しずつ流し込む…固まってきたらこうして…」
卵が棒状にまとまる。
「で、これを手前にやって…丁度良い大きさまで繰り返し!」
…マナが拍手するので、私も拍手してみる。
少し照れながら、ヒカリは卵焼きを大きくしていった…

「…それじゃ、また明日。」
「またねヒカリさん!レイさん!」
「えぇ、また明日。頑張ってね!」

料理の本を読みながら、私はスーパーに寄った…
まずは簡単そうな物から作ってみよう。

…待ってて碇君。
必ず美味しいの、渡すから。



「…盲点、だわ。」

私はあの後スーパーで、四角いフライパンと小さいフライパン、まな板に包丁等必要そうな物幾つかと、肉と魚に野菜、卵小麦粉…材料と調味料各種を買い揃え、家に帰る。
…すごく、重たかったわ…

とにかく私は台所に立つ…
私はさっき目をつけたメニューを探し、料理の本をめくる…これだわ。

〈鳥肉のハーブソテー〉

ヒカリが言っていた、
「台所は、女の戦場…」
まな板も包丁も洗った、エプロンは無いからジャージを羽織る…準備は万端よ。
「…碇君、頑張るわ。」
まずは鳥肉を一口大に切る。次に塩、ハーブ各種(パセリ、タイム、セロリ、バジル、マジョラム等など…)を擦り込む。

…無いので、市販のハーブソルトを代用。
フライパンは既に暖めてある、オリーブオイルもひいてあるわ…
鳥肉を、フライパンへ落とす…ジュー、と良い音を上げるフライパン…そこへ白ワインを加えフタをする。

次第に良い匂いが部屋に立ちこめる、良い具合に焦げ目が付いたので火から下ろし…完成。

一口食べてみる…うん、上手く出来た。
後はこれを盛り付けて次の…

「…盲点、だったわ。」

肝心のお弁当箱を用意し忘れた私は、苛立ちと残念さを覚える…
「…うかつだったわ。これが、悔しいという気持ち…なのね。」

…翌日、私はスーパーでお弁当箱を買った。





「…いただきます。」

私は、あれから毎日お弁当を持参している…残念ながら、碇君の分は無い。

…そう、良く見てると碇君はちょくちょくお弁当を持って来ていた。
彼のお料理は、なかなか美味しいとアスカも言っていたし…前に食べたけど、確かに美味しかった…
碇君を喜ばせる事なんて、私の腕では…無理だわ。

「綾波、お弁当?」
「いっ!?…かり君、どうしたの…?」
…思う側から来るのは、ちょっと反則よ…碇君。(汗)
「僕もこれからなんだ、一緒に食べようよ?」
「えぇ…」
…そう言って開けたお弁当は、私のと大違い…彩り良く、思わず手が出そうな…

「相変わらずごっつうまそやな、もらいっ!」
鈴原君が一つまみ、

「俺ももーらいっ!!」
「あ、コレいただきー。」

他の生徒も続いてついばみ、瞬く間に碇君のお弁当は穴だらけになった。

「…はぁ、持って来る度コレだ…たまにはちゃんと食べたいよ…」

…碇君がうなだれる…私がもっと上手く作れれば…

「あ、その卵焼き…もらっていい?」
「えっ!?え、えぇ…」
…碇君が、私のお弁当を?
「…ん、甘いやつだ…美味しい♪綾波って料理のセンスも有るんだね!」

私が望んでいた光景…

言葉…

そして笑顔。

…全ていっぺんに揃ってしまった、あっけなく。
「…えっ!?あぁ、綾波…変な事言ったの!?僕…?」

私は、少し涙が出てしまう…なぜ、泣いてるの?私…?

「…違うわ、私…碇君より全然下手だし、難しいのだって…作れないの…」
「僕だって始めから出来た訳じゃないし…綾波のだって十分美味しいじゃないか!
…ほら、泣かないでよ…本当に美味しいんだから。」
「…ごめんなさい…でも、嬉しいの…碇君がそう言ってくれたのが…」

…人前だけど、関係なかった。
だって、本当に嬉しい事だったから。

私と碇君の間に、一つ決まりごとが出来た…
週に一度は、必ず二人でお弁当を食べようと。





+続く+



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