誰も知らないけど、あの日を境に少し変わった事がある…

私は碇君と恋人同士となった。

アスカが昨日、皆スイカ畑に来なかった事をとても怒っていた…碇君と居た事は、さすがに言い出せない。
碇君は、いつもの様にアスカに文句をぶつけられていたけど…私と目が合うと、アスカに見えない所で片目を閉じる。

秘密、約束の合図…
私はそれを見る度に、彼に微笑んだ…

「…はい、それでですね。今日は転校生が、遠く外国からいらっしゃいましたよ。」
根府川先生がそう言って手招く、ドアから現われたその人物は…

「やぁ、どうも。渚カヲルです。」
相田君が急に立ち上がった…何か、あったのかしら?
「しっ、使徒!?」
アスカも立ち上がった…タブリス…に似てはいるけど別人、ATフィールドは感じないもの。
「渚君は…相田君の隣でお願いします。」

相田君は、知り合いなのか渚君と何か話している…あ、転んだ。

そういえば、赤木博士にお礼言わなくちゃ。
あと、ヒカリにも…

碇君と恋人になれたのは、きっと…皆のおかげだもの。





あなたと居る未来まで
    レイ猫。 ◆/75iL116..





私達の関係は、穏やかだけど…確実に深くなっていく。
月日は経ち、私達は高校生になる…

そう、この時アスカが急にドイツに帰る事になったわ。
何でも、母親の古い友人が大学院に呼んでくれたと言っていた。

後で知った事だけど、傷心旅行と新しい恋を探す為でもあったらしい…

お別れ会も、見送りも…盛大にやったわ…
お別れ会の時に王様ゲームをやって、アスカが私の碇君にキスした時は…久々に心が軋んだ気がした。
碇君も、微妙な表情を浮かべて…あぅ、思い出すじゃない。

…碇君の、バカ。

空港に見送りに行った時は…私は、何か安心してる様な…悲しんでいる様な…複雑に混ざった気分だったわ。

アスカは笑って出発した…皆気付かなかったけど、彼女は泣いていた。
分からなかったのはきっと、笑顔がとても晴れやかだったからだと思う…
碇君は心配ばかりするから…きっと、気を遣ってくれたのね。
…ありがとう、アスカ。手紙…書くわ。

弐号機は後からドイツに行くと、アスカも言っていたけど…結局今もここのケイジに居る。

この間マンション取り壊しに出た時に、代わりのパイロットが乗ったけど…動くわけ無かった。
弐号機は、アスカだもの。誰かに代わりは勤まらない…

…可笑しな話ね。
昔の私なら、こんな事思わなかったわ…





「もう、2年になるのね…」

私達がエヴァで戦っていたのは…人類の心の収束、そしての補完。
その為と言われていた…

そして、この世界は終わるはずだった。

…でも、それを望まない人は居たの。
碇君、アスカ、司令…私。
もしかしたらもっと沢山の想いのおかげかもしれないわ。

私は校舎の窓から外を見渡す…
背の高い建物こそ無いけど、真新しい家に、お店…建設途中のビルにデパート…
私達が学校に居る今も、頑張ってる人々がいるのね。
「…どうしたの、綾波?」
隣に座る碇君が、心配そうに私の顔を覗き込む…
「あ…何でもないわ。授業、集中しましょ…?」

「…だと。つまり、この作者は主人公に<人が持つ可能性>と言うものを重ねている訳ですね。」
根府川先生は、教科書を閉じて更に話し始める…

「…私も一人の教師…いや、大人として貴方達に伝えなければならない。
将来の夢を持ちましょう。それは今…この何もない世界に立つ上で、非常に重要となります…
そう、何も無いからこそ作り出す…貴方達がこの町を世界を良くする事も出来るのだと…」

先生の長い話は、生徒の大半の眠気を誘う様だった…中には、その目を輝かせる生徒も居たみたいね。

私の…将来…
何をすれば、良いのかしら…



「…将来?」

碇君との帰り道、将来…という言葉を私は考えていなかった。
あの時からすれば、これが贅沢な悩みだと思う…

特に、私からすれば…

「あーやーなーみ?」
碇君が困った様な…笑っている様な変な顔をする。
「…ごめんなさい、考え事してたの…」
「そんな、謝んなくていいよ?多分僕が…考えてなさすぎなんだ。」
「…」

私達に、会話が無くなってしまった…
原因はきっと、私。
でも…これをあなたに聞いて良いのかは…疑問なの。
違う…これは、私が出さなきゃいけない答えだわ。
「碇君。」
「ん、何?綾波。」
「…私には、自分で答えを出さなきゃいけない問題があるの。だから…」
何て言えば良いか分からなかった、思わず言葉に詰まる…

「…さっきの先生の話?」
「えっ…!?」
「そうなんだね…ハァ。」
何故かため息をつく碇君。「僕も、さ。考えてはみたけど…分かんなくって。」
そう言って頭を掻いた…
「…いいと思うんだ、こうやって前見れるってさ…僕らには考える時間が出来たんだし、色んな事が出来るようになった。だから…」
「…だから?」 「…分かんないから、悩んでて良いと思うよ…困った顔の綾波も、僕は好きだし。」

そう言って碇君は、少し顔を赤らめた。

「…フフ、碇君…顔、赤いわ。」

私がそう言って笑うと、碇君の顔はいよいよ耳まで紅く染まる…
「…ずるいなぁ、綾波は。」
悔しそうにしょげた碇君もまた、可愛いと思う。
…そんな事を考えてたら、私まで顔が熱くなってきた…
「…少し、寄り道しましょ?」
私達は、電車の駅前辺りにある商店街に入って行った…

看板には、<第三新東京銀座>とある。
…もっとも、その看板は私達が学校で作ったものなのだから…よく知ってるわ。
商店街…と呼ばれるそこには、2年前から空き地の所もあった…新しくお店を建てる資金が不足してるとか聞いた気がする。
並ぶお店の中には、八百屋と花屋が一緒になってる所や…本屋と薬局が半分半分の店など、少し変わった部分もある…
店主同士が仲が良いそうで、店を失った所と上手い事くっついているらしかった。

…ペットショップの前を通った時に、私は急に足が止まる…

「…っと、どしたの綾波?」
私はそこへ駆け寄った。
…キャラメル色で、ふわふわしてて…円らな瞳…まだ、小さいから動きももちもちしてて…かわいい!
「…わぁ、可愛いね…柴犬だね…」

しばいぬ…

中に入り、お店の人に許可を貰い…さわる。

この子、すごく可愛いわ…教えてもらった様に撫でると…あぁ…本当にかわいい!
…似てる、この感じ。

…碇君?



番外 “○色恋模様”

私と鈴原トウジ…君は、
まだ付き合って間もない新婚…
ひゃ、あたしったら何言ってるの!
あ、その…出来たてのカップルなの…今日は彼と、一緒に帰ろうと思うんだけど…
と、昇降口で彼を待ってたら…相田君が声を掛けてきた。
「あの、洞木さん…ちょっと相談があるんだ…」
「え、鈴原にじゃないの?」
相田君は気まずそうに俯く…深刻そうね…
「トウジじゃ、ダメ…なんだ。あいつにはデリカシーとか無いし…洞木さんの方が理解ありそうだし…」

…と、言うワケで。
相田君の恋愛相談に乗る事になりました。
…しかし、只の恋愛じゃありませんでした!だって…私が失神しそうになったぐらいなんですから!!

「美少年と眼鏡の少年…」
その時私、本当に目眩がしました…
私も相田君も、共に頭に手を当ててましたが…相田君は特に重傷みたいで…
「…そうなんだ、あの時男だって気付いてりゃ…でも、あんな綺麗なの反則だよ…」
相田君は頭を抱え直して、苦しそうに呟く…
「…でも、好きになっちまった…キスも。キスも、しちまったんだ…ッ!!」

私も苦しくなってきた…
「…あ、相田君…二人の間に理解があるなら…良いんじゃないかな…?」
とりあえずは、肯定して信頼を得てから説得を…
「…そうか…そうだよな。」
えっ…
「ありがとう、決心付いたよ…」
えっ…何が?
「世界中敵に回したって、好きな気持ちは変えられないんだッ!!」
何でそうなるの〜ッ!?
「カヲルぅぅぅぅぅぅッ!!」相田君、全力疾走…

お母さん私、これで良いの…?orz


**********


あの子に会ってから6日…帰りには必ず寄っている私。

「あ、綾波!一緒に…」
「ごめんね、また明日…」
本当にごめんなさい、碇君…私は、あの子が気になって仕方ないの…

カランカラン…
「あ、やっぱり今日も来たんだね。ほら…今じゃこいつ君の事待ってるみたいでさ。…っとわ!?」
店長さんの腕から飛び下りて、私の周りをくるくると回る…
はぁ、かわいい…
床に背中を付けてふにゃふにゃ動く…
あぁっ…私の手が伸びて、いぬのお腹をゆっくり捉える…

むにむにむにむにむにむにむに…

…はっ。
もう20分は過ぎていた…「いや〜、そいつも君がよっぽど好きなんだろうね。」
「…そうなのかしら。あなたは私のこと、スキ?」
屈んでいる私の膝に手を乗せて、尻尾フリフリ…

あっ…余りの可愛さに思わず、よろめく。
碇君とも似てるけど、でも…違う愛しさを感じるわ。
「…しばらくここでアルバイトしてみるかい?」
「…ここで?良いの?」
店長さんは優しい笑顔で頷いている…
バイト…一定の労働で各店舗決められた賃金を貰う事…

下を見ると、円らな瞳が私をジッと見てる…
この子といられるなら…

「…喜んで、やります。」
こうして私とこの子の小さな日々が、始まった。


ペットショップで働くというのは、良い経験になった。

園児の登園や帰りの問題で見合わせていた幼稚園、保育園の運営も再開したということで…
私と店長…柴田さんは、車で鶏と兎達を届けに回った。
私も学校が2、3日休みになると聞いたので、その手伝いに回った…
…いけない、最近碇君とちゃんと会えてないわ。

…これが終わったら会いに行くから、待っててね…

隣の街にも行く手筈だったので、一度店に戻る。
…柴田さんは奥さんからお弁当を受け取っていた。
「あ、レイちゃん。少し待ってて貰えるかな?鶏達連れてく前に、車にガソリン入れて来るから…」
そう言って柴田さんが出ていった。
奥さんと二人、柴田さんを待つ…

「…そういえば綾波さんは、どうしてここで働きたいって思ったの?」
「それは…」

奥さんと話をした。
あの豆柴に魅かれてここに通った事、そして柴田さんに誘われた事…何故か私は、最近碇君と会えない…という事も話してしまった。
奥さんは言っていた、
「あなたが来てからね、あの人ったら楽しそうにしてたわ…私の小さい時みたいだ…って」
微笑みながら少し、遠い目線になる…

「ユウイチさんと私って、幼馴染みだったの。あの人、最初は動物を毛嫌いしてたわ…
でもね、ちょっとすごい事があったの。前に震災に遭った時に、私の飼ってた子がね…
埋まってたユウイチさんを見付けたの!それからは今みたいな感じ、片っ端から可愛がってるわね…」
奥さんが、私に向き直る。
「…きっと嬉しいのね、あなたみたいに本当に好きそうな人に会えたのが。」

「それにしても遅いわね、あの人…そうだ、レイちゃん?その碇君、あんまりほっといちゃダメよ?」
…いきなりそんな話を出されたので、私は持ってたコップを取り落としかけた…
「フフフ…男の人ってね、一度好きになった子から相手にされなくなると拗ねちゃうのよ?
…明日は私が手伝うから、その彼の所に行ってあげなさい?」
「…は、はい…。」

「何話てるんだい?」
いつの間に帰って来てたのか、柴田さんが居た…
とりあえず、鶏達を荷台に乗せて出発。
こちらに戻って来たのは夕方だった…

…碇君、今何してるのかしら?
〈…ほっとかれると、拗ねちゃうのよ…〉

…気になるわ、今から行ってみよう。







インターホンを押そうと扉の前に立つ…と、なぜか開いた。
そのまま靴を脱いで上がろうとすると…奥からは笑い声が聞こえた、碇君と…女の子?

…嫌な感じ。とても心がざわつく…ゆっくりとリビングに行くと…
「…はは、はわぁっ!?綾波!?」
「えっ、あっ!?…誰?」
ショートカットの女の子と碇君

碇君の家

恋人としての私は…一度も来た事、無いのに。
急に胸が苦しくなる…気持ち悪い。

私はここに居られない…そう思った時には、もう走り出していた。
きっと、私が会わなくなったから…
だから、淋しかったのよ…碇君は、淋しかったの…

でも、

でも…

…ダメ、何も思い浮かばない。
直前まで楽しそうに笑う二人の声が、頭に響く…やめて…どうして思い出すの…碇君は悪くない、淋しかったの…しょうがないのよ…

私は家に着いた、そういえば靴は履いて無い。
大きな兎のぬいぐるみ…
碇…君…

私は、泣いていた。呼吸が荒く…苦しい。
ベッドに座り、そのまま横になる…何も考えたくない。

私はそのまま、目を閉じた…






+続く+



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