「ただいまレイ〜。」
「おかえりシンジ君。」
「…はいお弁当箱、アスパラの美味しかったよ。」

とまぁ、お弁当は今では作るのが当たり前で食べるのも当たり前な感じ。
美味しかった物や好きな物の入ってた時は大体何かしら感想をつけてくれるのも忘れないので、私としても嬉しく思う。
「そう、じゃあまた今度入れといてあげるわ。おかず、鯛の頭安かったからお豆腐入れて潮汁(うしおじる)に豆もやしとお肉の炒め物ね。」
「あ、潮汁?やったぁ。」
次第に増えたおかずレパートリーは、今やノートに本棚一列分はある…マイもお料理が好きになると良いな。
いつも色々と試して出していたけど、よくよく考えればシンジ君に好き嫌いみたいなものは無いらしい。
野菜も出せばちゃんと食べるし。
「んー、んまい…もう僕より上手くなっちゃったよね、最近じゃアレンジまでするしさ。」
「フフ、ありがと♪でもシンジ君の作るバジルベースのパスタソースとかは、頑張ってみても全然真似出来ないわ…ねぇ、もう教えてくれてもいいじゃない?」
「う〜、あれは僕のとっておきだからなぁ…やっぱダメ、教えられないかな。」
「いぢわる。」
「レイだってノートに書いてないレシピあるでしょうが。」
「あら、やっぱりノート見てたの?目敏いわね。」
「料理に関しては、僕らライバルになるからね。」
前は頻繁に作ってもらった時期もあったけど、今では私の作る日がほとんど。
そのせいかたまに「今日は僕が作るから!」なんて言い出す事もある。





Aurora Tour
    レイ猫。 ◆/75iL116..





「ごちそうさま。」
「はい、片付け手伝って。」
「めんどいなぁ…いや、やるってば。睨まないでよ?」
「よろしい。私はマイにもご飯をあげなきゃ…」

マイも寝付いて、さてテレビでも見ようかなと居間へ移動したら
「僕のデザート♪」
…とか言われながら待ち構えていたシンジ君に胸を鷲掴みにされる。
「コラ。」ギュ
「あててて、つねらないでよ…」
ソファに座りシンジ君に軽く寄り掛かりながらテレビをつける。
「ねぇシンジ君?」
「ん?」
「私の作るもので何が好き?」
「…う〜ん、全部美味しいしなかなか難しい質問だね。」
「じゃあ、いつも入れて欲しいのは?」
「あ。ウインナー入ってるといいな…あとハーブチキン、あれはレイのなら冷めても美味しい。」
「…それだけ?」
「そんなとこかな。」
「そう。」
埋めてもらいたい部分は空いたまま、私はただテレビを眺める…


「…私はそろそろ寝ようかな。」
体を起こそうとした所でシンジ君に腰から抱き寄せられ、膝に座る形になった。

「そう、言い忘れてるものがあったよね…いつも入れといて欲しいのは卵焼きね。」
「あ…なんで?」
実は私が一番聞きたかった答えを聞けてうれしい反面、話題にも出さなかったのにと不思議に思う。
「いつも味が違ってて楽しいんだ。
怒らせた次の日は少し味が薄めで、ケンカした次の日は少ししょっぱい、嬉しい事あったりよく笑った次の日は甘いんだ…いや、実際味変えてなくてもさ?そんな気がするんだよね。」
そこまで言って、私の背中にくっつくシンジ君…
「君が約束については人一倍にうるさいのは良く知ってるからね…ずっと卵焼き入れてくれてるんだ、忘れる訳ないさ。」

卵焼きはシンジ君に初めて食べさせて、初めて褒めてくれたおかず。
いつの間にか当たり前に入れていて、私自身ふと忘れそうになっていたけど…ちゃんと覚えていてくれたのね。

「…ありがとう、シンジ君。」



いつであろうと広がるのは無機質な線と影、少なに打たれた記号だけ。
結婚して1年目近く、私は初めて家族としてそこにやって来た…手には花束、黒衣をまとう。

「20年も経っちゃうと、さすがに何処だか判らなくなってるね…」
司令とシンジ君、そして私は殺風景な中をひたすら進む。

「…これだ、間違いない。」
司令が片膝をついて風化した記号を指でなぞる…所々欠けた文字は「!KFRI YJl」となっている。
シンジ君がそこへ花を手向け、二人は目を閉じた。



「…帰るか、シンジ。」
司令が立上がりシンジ君に声をかけ、シンジ君も目を開ける。
「うん、駅の近くで休める所あったっけ…」

花を手向けた柱はどんどんと遠ざかる…マイが何故か、敷地を出るまでしきりに手をそちらに伸ばしていた。

「母さんの顔、レイに似てるんだよね?」
「あぁ、今でこそ初めて会った時と瓜二つにな…」
駅前の喫茶店で休憩、二人して私の顔ばかりジーッと見ていて少し気味が悪い。
まぁ、元は似せられて生まれた筈だしどうこう言うつもりもない。
今こうして一人の人間として私は居るのだし…
「そうだシンジ、実は写真があったぞ。」
「えっ!?何も残って無いって言ってたじゃないのさ!!」
「私は持っていなかったが、冬月がネガを持っていた。」
そう言いつつ差し出す写真の中に、髪と目の色が違う私が居た。

「…本当にそっくりだ、こんなにまで似てるなんて。」
シンジ君は遠くしたり近くしたり、色々角度を変えながら写真を見ている…
「こうして写真で見てしまうと、やはり捨てたのは間違いだったのかもしれないと思える。現に捨てた直後には深く後悔したものだ…」
司令もまた写真を見つめ、その顔に影を入れていた。

「レイ、悪いけど協力してもらっていい?」
司令がトイレに立った時に、シンジ君からちょっとした提案があった。
「父さんには沢山の思い出が必要だと思うんだ。
昔、『心の中にあれば良い』って言ってたんだけど…冬月さんとかに聞いた話、どうやら母さんにあえるかもしれない手段があったらしい。嘘みたいだよね?」
視線を落とし、悲しそうに笑うシンジ君…
「でも考えたんだ、もし僕が今レイと居るこの毎日を引き裂かれたら?君を二度と抱き締められなくなったら…方法があるならやっぱり何としても会いたいと思うから、きっと。」
今度はしっかりとした目で私を見つめる。
「君には少し迷惑かもしれないけど手伝って欲しい、まぁ僕らに出来るのはせいぜい簡単な事だけなんだけどね。」

「なんだ、二人してニヤけて。」
「あのさ、皆で写真撮ろうよ?」
「…」
「お父様、どうかしました?」
「いや、問題ない…そうか、しかしカメラが無いな。」
「今日来る時に買って来たよ、使い捨てだけど…外行こうよ?」

そして、シンジ君は外に待機していた黒服の一人を呼んでカメラを構えさせる。
「良く考えたら、僕らこうして家族だけの写真って無かったよね?」
司令を挟み私はマイを抱き、カメラへと顔を向ける…
「私は父親としては相応しくない男だからな…お前の為を思って」
「相応しくなくても僕にとって父さんは一人だけだよ、それに僕も今じゃ『父さん』なんだ。」
パシャ

一枚の写真…私と、シンジ君、マイ、それにお父様。
そこには笑顔しか並んでいない、だってそれ以外の顔は似合わないもの。



番外 “父親として残す物”

━━━━━━━━━第三新東京市郊外、列車内。
同乗するレイは寝息をたてている…

「シンジ、実は今見晴らしの良い場所に碇家の墓を建てようかと考えている。」
「…父さんって信心深いイメージ無いけどなぁ?」
「まぁ、確かにあまり信じてはいない…だがいずれ俺もこの世を去る、
 他の生き物もお前達も例外無くそうなる。」
「…やめてよそんな話、分かってるよ。」
「話は最後まで聞け、それはお前の悪い癖だ…
 あの時こそ初号機に宿っていたのがユイだと信じていた、
 だがそれは妄想に過ぎなかった。
 俺が見ていたのは亡くなった妻の棺桶だ、
 そして漂う微かな香りだ。」

ゲンドウは眼鏡を直しつつ横目にシンジを捉える。
「自分で言った言葉の意味を、俺は理解していなかった。
 『心の中にあれば良い』と、前にお前に話したが…
 今思うにあれは『そう願っていた』と付け加えるべきだった、
 それがあの時の俺だった。」

そこまで言うと、ゲンドウは視線を外に流れる風景へと戻した。
「ユイは俺やお前の心にある、忘れない限りいつも俺達を見ている…
 いつか先に俺が去ろうと、お前の覚える限り俺はそこに居るだろう。」
列車がトンネルに入り、車内に電気が点く。
「そしてお前達もまた去った後、マイやその子供の覚える限り
 お前達もその中で生きていく…墓は、俺達を知らない子供達へ残す形だ。
 興味があれば調べて、またその心の中で生き続ける。」

「年を取ると妙な事を考えるものだが、とにかく墓を建てようと思う…ユイの名を刻んでな。」
列車がトンネルを抜けて終点が近付く…シンジはレイの肩を抱いて、優しく起こした。




+続く+



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