翌日、赤木さんのオフィスへ顔を出した私。
「はい…実は、折り入ってのご相談が」プシュウ
「レイ、来ているなら私の所に寄ってくれて構わんのに。」
「…指令、お仕事を放り出してまでの用件ですか?」
赤木さんがすぐさま碇指令を睨み付ける…
「孫に会う事は親達に課せられた急務だ…マイ、元気だったか〜?」
「…赤木さん、それで相談なのですが。」
「え、あぁ…そうだったわね?それじゃ聞かせて頂戴。」
「…で、その……だから」
「ハァ、あなた気にしすぎよ?それを言ったらミサトのビールっ腹なんて見れたものじゃ…いや、元々見たくはなかったけど。」
「おぉ、マイに歯が生えてきてるじゃないか!!今度祝うとしよう、いやすぐにでも構わんが…」
「…レイ?とにかく気にする事無いわ、人として母親としてはよくある事なんだから。」
「…はい。でも出来るだけの事は、したいです。」
「じゃあやってみる事ね、そうして自分で気付いて受け入れて行くのが一番かもしれないわ。」
「ありがとうございました、赤木博士…お父様、マイもそろそろおいとまします。」
「バァ〜…ん、あぁ。また来てくれ、マイを連れて。」

「ただいま…レイ?」
「おかえりなさい、シンジ君…ご飯とお風呂、どっちにする?」
「うーん、それじゃ僕は…第三の選択!!」ガバッ
「んっ、や…ダメ、まだマイにごは…だめったら…」
「昨日叩かれた分はきっちり返させてもらうよ…」

プニ「…シンジ君?」
プニプニプニ「シンジ君、どこ触ってるのよ…」
「ん…え?何でそんな顔するの、エッチの時は身体中触っちゃうじゃないか。」
「…さっきから右手がお腹に張り付いてる。」
「え〜?だって柔らかくて気持ちいいじゃないか、レイのお腹のたる」ゲシィッ

「…シンジ君は完全に沈黙、私は先にご飯を食べます。」





Aurora Tour
    レイ猫。 ◆/75iL116..





「レイってツンデレ部類に入るのかな。」

突拍子も無い話題に、私はミルクティーをこぼしかけた…
「何それ、第一どういう部類なの?」
「何か今日、幼稚園の休憩ん時に話題に出たの。あの子はツンデレですよね〜?って聞かれて…」
「何で私が話題に…」
「違うって。園児同士の痴話喧嘩があって、止めに入った人が言ってたんだ…『私達や他の子にはキーキー言うのに、和也くん(園児らしい)にはベタベタなんですよ』ってさ。」
「で?私との共通点は無いじゃない。」
「いや…レイもまた父さんや冬月さんには冷たくて、僕にはデレデレかな〜と。」

「ふぅん…でもそれじゃ、60点の回答よ。」
「え、なんで?」
「自分で考えなさい、明日までの宿題。」
「そんなぁ、今更何か焦らす様な関係じゃないでしょうが…」
「ダメよ、夫婦だからこその甘えばかりでは破綻するのよ…だから時に突き放し、時に甘やかし、そのバランスで成り立ってるのよ。」
「いけず。」
「言ってなさい、私はマイとお風呂に入るから。」

マイを抱いて湯船に浸かり、溜め息が湯気に混じる。
…私は誰かに特別冷たくも優しくもしようとかは考えて無い、多分これからも。
だけど、シンジ君に至ってその考えを越えてしまっている…私に与えてくれたモノは計り知れない。
それは彼でなければいけなかった事実、それが私を想定外に動かした要因。
ここにはいつかの様な私の代わりは居ないし、シナリオ云々だって無い。

「…そう。
お父さんは気付いていないかもしれないけど、それは世界を救うよりとてもすごい事をしたのよ?マイ。」


「レイ、答え分かったよ!!」
「…分かったのは良いけど、お風呂の最中に来ないでちょうだい。」

「いいじゃない別に…正解したら一緒に入って良い?」
「ダメ、もし今入ったら将来マイに嫌われる様に色々と吹き込んじゃうわよ?」
「僕はレイさえ居れば…う。」

コラ、なんでそこで詰まるのよ。
「ロリコン。」
「な、何て事言うのさ!?僕は真剣に父親としての…違う、いや、レイが一番だからっ」
「まぁ、それはそれは…で、答えは?」
「…今さっきようやく分かった、レイは僕に『ツン』としてマイに『デレ』なんだよ。」
「…ハズレ。」
「なっ、なんで!?」
「ハズレはハズレよ、部屋に戻りなさい。」ピンポーン
「誰か来たから出て。」
「僕はここを離れないよ。」
…始まったわね、駄々っ子シンちゃん。
「シンジ、マイはどこだ?」
「父さんーッ!?」
指令ッ!?
「何で居るのさ!?」
「呼び鈴を鳴らしたが出なかった、それだけだ。シンジ、マイはどこだ?」
「今お風呂に…わあぁっ!!レイも入ってるんだよ!?」
「娘の裸を見た所で、何か起きる訳ではない…ましてやレイだ、私は以前に」ガラガラバシーンッ
「二人共、居間に行きなさいッ!!」
「は、はい。」
「あ、あぁ。」

…あんまり頭にきたので、ついに叫んでしまった。
私がこんな大きな声出せるなんて、知らなかった…もしかして、怒鳴ったのは初めてかしら?



ここ2週間珍しくあの二人との接触がない。
1週間くらいは「ラッキー」であると思ってたけど、今じゃ何か別の理由があるのではと疑い始めている…

「フツーにしてりゃいいじゃないよ?どうせまたのこのこ顔出して来るんでしょ。」
…ついこないだ相手を掴まえて新婚となったアスカが、旦那さんを置いて遊びに来ていた。
『シンジの事や何やらまだ話してない所が幾つかあるから、アンタ達の所に連れて来るのはまだ先になりそう』とか。
いや、それよりあなた達今度は夫婦で押し掛けて来るの?
なかなか迷惑な話よ、ソレ…

「あたしもさぁ、子作り頑張っちゃうからあのドリンク分けてよ。」
「…なんで知ってるのよ。」
「前にシンジがポロッと言ってたわ、『これを飲んだレイはそりゃもう獣の様に…』ってな感じに。アンタに効くなら相当凄そうだし。」
シンジ君、おしおき決定よ…まぁさておき。
「試しに飲んでみる?」
小瓶を棚から取り出してアスカへ手渡す、しげしげ眺めて早速飲み干して一息…
「あ、すごい。もう身体が火照り始めた…や、ヤバくないのコレ?」
「今更だけど別段中毒性も無いのよ、妊娠時でも一応大丈夫らしいわ。」
でも、それが逆にまた使う機会を作ってる気が…

「う…っ…ヤバい、なんかすっごいムラムラしてきたんだけど…」
みるみる額に汗がうっすら滲み出て、珍しく困った表情のアスカ…客観的に見ると、私達もこんな風になってるのかしら?
「いや、ホントヤバいわ…ちょっと横にならせて。」
「1、2時間そこらで効果は切れるからそれまで寝てなさい、シンジ君も起きた頃帰ると思うわ。」
「う〜ん、あんたらとんでもないモノ使ってたのね…」
ヨロヨロ居間に向かうアスカ…って、危ない!!
不意によろめくアスカを支え、顔が近付く。
「…あー、ありがと。」
すでにトロンとした顔は、まるで酔っ払いみた…いつまで見てるのよ?
「何よ、そんな怪訝そうな顔しなくたって…アタシはただ、あんたって以外といい身体つきしてるなって」
「…このまま運んであげるから、ゆっくり休みなさい。」

ズルズルと足を引きずりながらもやっとこさアスカをベッドに横たえて、掛け布団をかける。
「じゃあ、私はご飯作らなきゃ…」グッ
アスカが私の腕を掴み、赤ら顔こちらをジッと見ている…
「もう少し、寝るまで側に居なさいよ…あんたアタシの友達でしょぉ?」
「…分かったから腕を放して、ここに居るから。」
「このまま。すぐに寝るから…」
観念して側に居るよりなかった、襲われる訳では無さそうだし。

「あたし、今更不安になったのよ。」
しばらくして突然破られた沈黙。
「…でも、上手くいってるから結婚もしたんでしょう?その人と。」
「だからよ、悪くなる事が怖いの…もっともアンタ達には関係無さそうだけど。」
「不安ならいつもあったわ、普段は気付きにくいだけで…」
「どーすりゃ良いかしらね、結婚生活の先輩?」
「どうって…私に出せる答えじゃないわよ。」
…返事はなく、いつの間にかアスカは寝息をたてていた。



「…おはよ〜、最近眠れなかった分きっちり寝れたわ。」
「アレは導眠薬じゃないんだけど?」

「あ〜、効き目はバッチリね…アンタが素敵に見えるぐらいだから。」
「それは良かったわね。」ガチャ
「ただいまぁ。あ、アスカ来てたんだ?」
「おかえり、シンジ君」
「あっら〜ん、お帰りなさいませシンジくぅ〜ん♪」
「え、どうしたのアスカ?」
「あのドリンク飲んでぇ、ちょっと…積極的にぃ…シンジぃ〜」バフ
「嘘ッ!?レイ、なんで飲ましたのさ!!今日は」ベシッ
「あんた驚く所が違うでしょうが、アタシが抱き付いてんだからもう少しは反応するべきでしょ!?」
「そういわれてもなぁ…僕だっていつまでも振り回されっ放しとはいかないだろ?」
「あ〜つまんない、アタシが結婚する時になっても賛成しかしないアンタらしいわ。」
「僕が止めてどうするんだよ、僕にはその後の面倒までみれないって。」
「へー気取っちゃって、じゃあ今レイが居なかったらどうだったかしら?」
「…想像できないなぁ。」
「バカ、もしもの話よ!」
「やっぱわかんないなぁ、アスカにはいじめられた記憶ばっかりだから…」
「はい残念でした、二人共ご飯にするわよ?」

アスカはシンジ君が来てからはあの話題は出さなかった、シンジ君がすぐ心配する事をよく知っているから。
…私達が結婚した今でもこうして遊びにこれるのは、アスカが少し気を使ってくれているおかげなんだろうと思う。





シンジ君とデパートへ買い出しに出たら、偶然にも赤木さんと会う。

「あら、こんな所で…相変わらず仲睦まじいのには関心するわ。」
「おかげさまで…赤木さんこそデパートに来られるなんて珍しいですね。」
「えぇ、たまには広く取り揃えてる場所にも来るかしらね…」
なんでも猫用トイレ砂や新しい電気スタンド等を見に来たらしい、
「無料で即日に配達してくれる所が便利なのよ。」
「先輩あっちの…あらレイにシンジ君、こんにちは。マイちゃんもこんにちは〜♪」
そしてマヤさんもついて来たらしい。
「で、先輩。今あそこのレストランって話題になってるせいか40分待ちなんですって…あ、それで向こうのレストランならすぐ座れるみたいなんです。」
「そう…それじゃ空いてる方に行きましょう、レイ達も一緒にどう?」
「…ちょうどマイもお腹空かす頃だろうし、お言葉に甘えます。」

木目のテーブル、煉瓦調の壁に伝うフェイクのツタ、オレンジ気味の店内照明。
今でこそ当たり障りない内装のせいか、向かいの話題と雰囲気の前にお昼時にも関わらず少しばかり静かな店内、
「少し照明を落とせば、落ち着いた雰囲気が出るのに…」
とは赤木博士の見解。
「あ、でもこのマカロニ美味しいかも。」
「ん…あらホント、」
皆でシンジ君の頼んだアラビアータをつつきながらあれこれ批評家ぶって意見を出し合ってみたりもして…

「そういえば先輩って、マイちゃんにあんまり話しかけないですよね…」
「そうかしら?別に嫌ったりしてはいないけど。」
「マヤさん、父さん達が異常なだけですよ…リツコさんって話すよりもいつも見てるって感じですもんね。」
「言われて見ればそう、時々目元が緩むのはそれだったのね…」
私に続き、伊吹さんも口を開く。

「先輩の聖母の様なまなざし向けられてるワケですね、マイちゃんが羨ましいかも。」

…私とシンジ君は手元を狂わす、赤木さんは口元をわずかに引きつらせてコーヒーをすする。
「あっ、リツコさん猫の写真って沢山あります?」
シンジ君がテーブルに落ちたペンネマカロニを拾いながら苦笑い。
「あるわよ…ほら。家になら確かに沢山あるけど、何かしら?」
「幼稚園の人から引き受けてたんです、お絵描きに動物の写真が欲しいっていうのを…ちょうど近い内に写真撮らせて欲しいって、お願いしに行こうと思ってたんですよ。」
「そう、じゃあ写真屋に焼き増し頼んでおく?プリンターがあればデータを送るだけだから楽できる筈よ。」

なんだかんだに話を流された感じの伊吹さんのあの目が、私は運悪く見えてしまった…
前ほどセンパイセンパイと言わなくなって落ち着いていたと思ってたので、久々垣間見せたシンジ君とマイへの嫉妬の視線。
…それは深刻さを帯びているものだった。




+続く+



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