それは私の探していたもの…そして、今それは私の中にある。
やっと、気付いたわ。





Aurora Tour
    レイ猫。 ◆/75iL116..





━━━━━━━━━━第三新東京市、総合病院。

今、その体に新たな命を宿している事を知った碇レイと…それをまだ知らず心配な面持ちで待つ碇シンジ。

レイが診察所から出た所から、再び時は動き出す━━━━━━━━━━


「…レイ!何ともなかった?どこか悪かったの?」
「…いいえ、何処も悪くないわ。」
「う…う〜ん。病は気から、だとすると原因はア…」
「あの、どっちかと言えば良い事よ?」
「何言ってんだい、目眩やら吐き気何て何処か具合悪いに決まって」

「お腹に、赤ちゃんが居るの。」

…固まってしまうシンジ君。唐突過ぎたかしら?
「一ヵ月、多分宇宙に上がる前のあの時…かな。」
「えっ?あぁ〜、そっか…確かに、うん…ご、ごめんあの時は…」
「あの時は私も、そういう気分だったから別にいいのよ。でも、何故謝るの?」
「いや、その…もう少し二人でゆっくりしてたかったからさ、ハネムーンだってまだじゃないか。」
「そういう事ね…フフ、それなら今からすぐ行きましょ?

着床(卵子が子宮に落ち着く、安定する事)するまではダメだけど、着床したらすぐにでも…ね?」
「…うん、分かった。じゃあ、まずは家に帰ろう…今後の事、色々考えなきゃ。」
帰りはタクシーで、道々シンジ君が私のお腹を撫でてくれた。
その度に二人で顔を見合わせては顔が綻んでしまい、タクシーの運転手に「ごちそうさま。」なんて言われてしまった…

子供が出来たと言う事を他の人達にも知らせるべきなのか、二人でよく話し合った。
…結果、もう少しは二人でゆっくりしたいので先送りする事になった。
「父さんや冬月さんは、早く出来ないか楽しみにしてたから悪いけどね…下手したら毎日ここに来たり、ネルフに部屋作ったりとかしそうだよね。」
…シンジ君、その言葉に結構現実味があるのは私の気のせい…よね?

事実、私の心配はそれ以上のものとなり現れた。
「おめでとう、シンジ君!」
「よくやったな…本当によくやったぞシンジ、レイ。」
次の日には二人して大量の手土産と共に押し掛けて来た…(軽く目眩が)

「とっ、父さんッ!?冬月さんも…なんで知ってるのさ!?」
「簡単な事だ、お前達には24時間体制で監…オホン警護が付いているからな。」
「まぁ、そういう事だ。」

ポカーン(;゚д゚)(;゚д゚)


「…出てって、二人共。」

「レイ、せっかく来たんだ…お腹を見せてくれ。」
「おぉ、そうだ…胎教に良い音楽MDやDVDも持って来たんだよ!」
「…家にはMDもDVDもありませんよ。」
「ぬかりは無いぞ、ほら…デッキもあるからな。」
その他にも各種胎教、育児グッズ(早すぎるわ…)等がテーブルの上にみるみるわき出てくる…次第にイライラしてきたわ。

「と、父さんも冬月さんも…確かにありがたいけど、やり過ぎだ…」
「命名は私がやろう、男の子なら…」
「冬月、それは俺の役割だ。女の子ならユイと付けろ、シンジ。」
「何を言うか碇!?女の子ならマイが良いだろう?それに二人で決めようと…」
「フン、お前のセンスはなっちゃいない…老いた者の考える名だ、それは。」
「お前こそ何時までその名前を引きずる気だ!?」

「いい加減にして二人とも!!早く帰らないと流産するわ!!」

思わず叫んでしまった…が、すごく効果があって二人とも顔を見合わせ頷き、家から駆け出して行った…
「レイ、その、びっくりした…安静にしなきゃね…」
「ごめんなさい、少しオーバーに言っただけだから…あなたは別にいいのよ、シンジ君?」
緊張した顔も少しずつ笑顔が戻り、私達は改めて今後を話し合った。

…果たして、しばらく二人きりで過ごせるかしら?





翌日、早速だけどお休みを貰ってシンジ君と二人でお出かけした…

そういえば、実は私も冷静になっていなかったらしくてお医者様の話を聞き漏らしてたわ。
着床というのは受精後にすぐ始まるもので、一ヵ月近く経った私に関してはとうに済んだ事らしかった…
保健体育なんて、高校生の時以来の響きね。

…あ、良く考えると凄い事よね?
打ち上げの時は負荷があったと思うけど、今こうして無事にお腹に居るんだから…産まれる前に宇宙を体感した宇宙ベイビーな訳なんだから。
ちょっと、誇らしい気分…

ともかく私達は、様子を見ながら近場の水族館やデパートを回った。
徐々に移動距離を伸ばして山の向こうの隣町、温泉、博物館にも行った…
思い出すわ、高校生の時に行った就学旅行の班の事とか…大学に行ってる時に初めて遠出して外泊した事とか。

「…ん、どうしたのレイ?」
「…えっ?あぁ、少し前にこの辺りに来た事を思い出してたの。」
「あー、大学の時来たよね…僕もこっち来る時に電車の窓から見ただけだったから、色んな所行けて楽しかったなぁ…」
「シンジ君、まるで今じゃ楽しみも何もない様な言い方ね?」
「え!?そりゃないよ…今僕は楽しいってよりも幸せなんだ。君と夫婦になって子供まで出来たし、なにより使徒も来ない平和な毎日を二人で過ごせるんだから…ね?」
「私達に関して言うと、二人きりで幸せを噛み締める平和はまだ来ないけど。ね?」
そこで、私達は顔を見合わせ苦笑した…

この時でこそ邪魔されるだとか感じてしまうけど、後々気付くの。
それらは本当の意味だと恵まれてる事なのよね…
何時も見ている人達が居る、それは守られている証しだから。


2、3ヵ月すると、お腹には少し膨らみが出てきた…
仕事には普段通り出ているけど、身重になってから事務の時間が多くなったから気力面での疲れが多くなった。

…段々と隠せなくなってきたお腹が、次第に職場やネルフ中への噂を広めてしまう。
結婚騒動の次は、オメデタ騒動なのね…
使徒戦に従事して磨かれた精神は、平穏な事務仕事に屈しもせずお祭り騒ぎを継続出来るある種の楽観と屈強さを…ハァ。
私ったら最近赤木さんの所に通う様になって、しゃべり方とか移されたのかしら…?
一応宇宙に上がった事で何らかの影響が無いか調べてもらっているけれど、今の所は杞憂だと思われるそうで…むしろ順調に発育してると、赤木さんも言っていた。

何が切っ掛けになったか分からないけれど…私は今生活している事と別に、色々と思いを巡らせている。
宇宙に上がったせいなのか、子供を宿したせいなのか、運命だとか自分の心の事を寝る前にいつも考えてしまう…
元をたどれば私達は…シンジ君と私は補完計画の鍵となる部分に居た。

世界が生まれ変わった後でも、私達は一緒になれたのかしら?

私には、生れた時に決められた未来があった。
…いいえ、それは未来じゃなくて行程の一部としてだったわ。
私は元は造られた存在だった…でも、今こうして他の人達と普通に暮らしているのは何故?
これは誰かのシナリオの上に居るだけなのかしら?
私は、私達は…

ダメになってしまったのかしら、私。
シンジ君の誘いも受けたくないし…壊れるの?私?
「怖い…」

身体を抱き締めて、私はなかなか眠れない夜を過ごす…気が付くともう、カーテンが光に透かされていた。





「…大丈夫よ、身体には異常は認められないから。」

翌日真っ先に赤木さんの所に来て、検査を受けた私。
「不安要素やストレス等が重なって、そういった症例…いや、考えを引き起こすのだと推測出来るわね。」
「…そうですか、心が壊れるのかと…思いました。」
「今になって色々と思い悩む…それなら、実はよく似た例はあるのよ?」
「えっ!?重い病気の前触れ、とか…ですか?」
息がとても苦しい気がする…いっその事、倒れらる方が楽かもしれない。

「マリッジブルー、ね。」
「…どんな、病気なんですか?」
赤木さんの顔が不意に綻ぶ…何故、そんな顔するの?
「フフ…症状は『決めた事、決められた事に関して色々悩む』ってだけよ…普通は婚前の夫婦に、たまに出るケースなんだけど。」
「…あの、他にどんな症状が?」
「え、ただそれだけよ?思い悩むだけ。時期が来れば治ってしまうわよ…安心した?」
…いまいち釈然としないわ、そんな風に言われても。
「まぁ…悩める内に悩みなさいって事を、深層意識が自発的に働きかけてるだけでしょうから…それより。」
「はい?」
赤木さんが私に向き直り、真剣な面持ちに…似たパターンが、頭を過ぎる。
「お腹の子…スケジュール上では7ヵ月だけど、もしかしたら半年になるかもしれないわね。」
「えっ?総合病院の先生は、少し大きい子になるかも…とは言ってましたけど、後7ヵ月ちょっとだって…」
私にカルテを渡すと、二つのグラフや数値には確かに違う所が…何の事かさっぱりだけど。
「成長が少し早いのよ、あなたの子供は。
…使徒に近いものになるかもしれない、最悪の場合は…ね。MAGIも回答が出せずにいるわ。」

…次から次に、問題は上がるのね。


赤木さんは、「それはあくまで低い可能性、この事は絶対口外しないし漏らさない」と約束してくれた。

「ただいま、シンジ君。」
「あ…おかえり、レイ。」
…今日のお出迎えには元気が無い、昨日の事が原因なのかしら?
「…昨日の事、まだすねてるの?」
「ち、違うよ!最近、レイが元気無いみたいだから…心配なんだよ。」
「ごめんね、心配させて…大丈夫よ、赤木さんに話を聞いてもらって楽になったから。ご飯、どうする?」
「あ、僕が作るよ。昨日材料買っといたし、まかせてよ!レイは先にお風呂に入って来たら?」
「フフ…それならお言葉に甘えるわ、ご飯が楽しみね。」

湯船に浸かり、お腹を撫でつける…できればシンジ君に話したくない、でもこれは夫婦の問題でもある。
後から受け入れたくないなんて事になれば、私もシンジ君も…
私が、原因なのかな。
私自身が使徒に限り無く近い存在だし、子孫に関しての事は一切考えて無かったし…

言い出すタイミングは、とても難しい。
それがこの生活を、終わらせる事だってあるんだから…

「レイー、ご飯出来たからいつでも出といでよ〜?」
「あ、分かったわ!今出るからー!」

「さ、食べよう!ナス味噌炒め、シソ入れてみたんだ。ご飯に合うし美味しいよー?いただきまーす!」
「…いただきます。」

私に迫られた決断の時は、近い。
先の見えない場所へ踏み込むのは、とても怖い…心の中で私は、暗闇の一歩手前で膝を震わせていた。




+続く+



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