■ 第拾八話 「零号機」





体質のせいか、綾波レイの眠りは浅い。

夜中に何度か目が覚めてしまうこともある。

しかし困ったことに、朝の寝起きはなぜか悪い。

低血圧のせいなのだろうか。


布団から起き上がると、暖かいシャワーで眠気を洗い流す。

髪をタオルで拭きながら、ワイシャツを上に羽織る。


冷蔵庫から内服薬とサプリメントと固形栄養食品を取り出しそれを朝食とする。

いつもと同じもの。いつもと同じこと。


ふと台所に目をやると、数日前シンジが置いていった紅茶セットが目に入った。

自分でもいれられるだろうか。

ヤカンを火にかける。


紅茶の手順を思い出すと同時に、シンジとの生活のことも少し思い出す。

チェストの上、ハンカチの上にシンジにもらった櫛が置かれてある。

うちっぱなしのコンクリート壁にかけられた、飾り気のない四角い鏡。

毛の流れに沿って櫛を入れてみる。

すんなり通る、なめらかな髪の質感。

シンジが買ってきたシャンプーとリンスのおかげ。



ヤカンがお湯の沸騰を告げた。

茶漉しを通して蒸してから、ビーカーの中に茶葉を移す。

シンジは確かこうやっていたはずだ。

上から勢い良くお湯を注ぐ。


「あっ……」

レイは思わず声を上げてしまった。


お湯がこぼれて少し指をヤケドしてしまった。

治療したほうがいいのだろうか。


しかし紅茶のほうも、そのままにしておくわけにはいかない。

戸棚の中にある二つのマグカップ。

ブルーの方を手にとって紅茶をいれる。


指がしくしく痛む。

しばらく水道に晒す。

冷蔵庫の中から軟膏を取り出し、塗布してからガーゼと包帯を巻くと椅子に座る。



ようやく紅茶にありつける。

二つの角砂糖、ティースプーンでかき混ぜる。

小さな円形テーブルの上、固形栄養食品を食べながらマグカップに口をつける。


暖かい……でも…… 渋い……。

レイは眉を寄せる。

何がいけなかったのだろうか。シンジと同じ方法でいれたはずなのに。



紅茶を味わい終わると制服に着替える。

8時7分。

いつもと同じ時間。家を出る。
















「じゃ、その転校生ってのが新しいパイロットなのか?」

朝日が差し込む騒がしい朝の教室

ケンスケの机を囲むように、シンジ、ケンスケ、トウジが話をしている。


「うん。一緒に訓練も受けてる」

「おなごか?」

「いや、男だよ。でもすごいハンサムなんだ。それにとってもいい人で、すぐ仲良くなった。トウジ達も気に入るよ」

「さよか。ま、そいつもセンセの友達でパイロットちゅうことやし、なんや困ったことがあったらワシらが力になってやらんとな」


シンジはそんなトウジの横顔を見て微笑む。

これがトウジだ。

いつもバカをやってるトウジだが、こういう優しい気遣いができる。

とても自分には真似できない。

この一面に関してだけは、少し尊敬できるかも。





「きりーつ! 礼!」

利根川が入ってくると、洞木の号令で朝のHRが始まる。

「えー、今日は転校生を紹介します」


ケンスケの情報で、転校生がやってくるということは、クラスのほとんどが知っている。

どんな人が来るのだろうか。

利根川がいる手前、騒いだりはしないが、クラス中が期待に胸を膨らませているのが目に見える。



隣の席のアスカが小さく呟く。

「なーんかおもしろくないわ」

「ま、僕達は知ってるしね」

「それよりアイツが出てきた時の、クラスの女達の反応が目に見えてさ」

アスカは頭の後ろに手を組んで、背を反らす。

シンジは苦笑した。



「では渚君、入ってきてください」

クラスの注目を一身に浴びて、入ってきたのは……


色白で銀髪、赤目の少年。

中性的で整った綺麗な顔立ち。口元に少し微笑みを浮かべている。


「渚カヲルです。出身はドイツ、育ちはアメリカ、国籍は日本。はやくみんなと仲良くなりたいです」

カヲルはニッコリと微笑んだ。


「「「キャーーーーーーー!!」」」

クラスの女子から黄色い歓声が上がった。

(きゃああ!超かっこいいじゃない!)

(ハーフなのかしら)

(彼女いるのかなあ)

(あ、今こっちみた!あたしのほう見た!)

女生徒達は熱い視線をカヲルに向けている。

男子は嫉妬半分でカヲルを見ている。


「ほーらね」

横でアスカがうんざりしたような顔を浮かべる。

ケンスケは控え目にカヲルの写真を撮っている。

シンジは窓際、レイのほうを見た。

レイはシンジ達が転校してきた時のように、視線を窓の外に向け、興味が無さそうに頬杖をついている。

「…………」



カヲルはゆっくりとクラスの中を見渡す。

一番後ろの席にシンジとアスカがいるのを見つけた。

カヲルはにっこり微笑む。


アスカがあからさまにプイっと視線を逸らし、シンジは軽く手を挙げて答えた。

自分に微笑まれたと勘違いした、シンジの前の席の女生徒が、顔を真っ赤にして隣の生徒とキャーキャー騒いでいる。


「席は……」

利根川が教室を見渡す。

「鈴原君の隣が空いてますね。あそこに」


カヲルは席に着くとトウジに声をかける。

「よろしく鈴原君」

カヲルはにっこりと微笑み、右手を差し出す。


「い、ワ、ワシはシンジのダチや。トウジでええで!」

相手は男だと言うのに、トウジは顔を赤らめ、その手を取って握手する。

「君はシンジ君の友達なのか!なら、僕の友達でもあるね。さっそく友達ができて嬉しいよ」

カヲルは屈託のない微笑みをトウジに向けて言う。


な、なんや……えらい、やりにくいわ……。







授業が始まってもカヲルへの質問は、ノートPCの中で進んでいた。

シンジは隣の席のアスカに耳打ちする。

「アスカ、今チャットルームがカヲルの質問大会になってるよ」

「別に。興味ないわよ」


アスカは興味がないというより、なんとなく気に入らないと言ったご様子。

シンジは構わず一人でチャットルームに入ってみた。


『リョウコ:好きな食べ物はなんですか?』

『カヲル:日本食はまだ食べてないんだ。お勧めがあったら教えてもらいたいな』

(ならあたしがお弁当作ってきてあげたら喜んでくれるかな?!)

『ケンスケ:エヴァのパイロットっていうのはほんとか?』

『カヲル:そうだよ。四号機のパイロットさ』

(ずいぶんフランクに話すな。シンジよりは色々教えてくれるかも)

ケンスケはメガネを光らす。

『ナオ:彼女はいますか?』

『カヲル:残念ながらいないよ』

(じゃあじゃあ、立候補しちゃおう、なんて……きゃーー!)

『ナツミ:今好きな人はいますか?』

『カヲル:います』

(((うそ〜〜〜〜!)))

授業中なので声には出さないが、クラス中の女子に動揺が走る。


『ミカ:それって誰なんですか?』

『カヲル:碇シンジ君』


「「「えええええ〜〜〜〜〜!!!」」」

今度こそクラス中が大声を上げて立ち上がった。

男も女も総立ちだ。


その場を押さえるはずのヒカリはというと……

「不潔よ〜〜〜!!!二人とも不潔よおおおおおぉぉぉぉ」

なぜか顔を真っ赤にして、お下げ髪を振り乱して絶叫している。


その後クラス中の晒し者となったシンジは、必死になってその事を弁解するハメになったのだった。










「もう、ひどいよカヲル君」

「ははは。ごめんよシンジ君。あんなことになるなんて、思いもしなかったからさ」

カヲルはあまり悪びれた様子がない。

ケンスケ、トウジを加えた四人は、屋上で昼食を食べている。


「それにしても、これはおいしいね」

カヲルはおいしそうに、メロンパンにかぶりつく。

「メロンパンがか?」

ケンスケが訝しげな顔をする。

「君は食べたことあるのかい?」

「もちろんあるよ。アメリカにはないのか?」

「どうだろう。あったのかなあ……?」

カヲルの話はどこか噛み合わない。


「そんな甘いもんよう食えるわ。ワシはこっちのほうが好きやで」

トウジはヤキソバパンにかぶりつく。

「それは?」

「ヤキソバパンさ。さすがにアメリカにはなかったんじゃないかな?」

ケンスケが説明してくれる。

「そうなんか。カヲル、食うてみるか?」

「いいのかい?」

カヲルは渡されたヤキソバパンにかぶりつくと、目を見開いた。

「おいしい!これがヤキソバパンか!僕はメロンパンよりこっちのほうが気に入ったよ。トウジ君、交換しよう!」

カヲルはヤキソバパンをガブガブほおばる。


「ちょ、おまえ!何言うとんねん!ワシはそっちのほうがええて言うたばかりやないか!」

「メロンパンもいいもんだよ。食べてみなよ」

「食うたことあるわ!ええから返せやカヲル!」

「君も諦めが悪いね。メロパンを食べたまえ」

二人はもみ合いになっている。


「パン一つで大げさだなあ」

そうぼやきながらもケンスケはちゃっかりその様子を写真に撮っている。

きっとアスカの時のように、女生徒達に販売するつもりなのだろう。





その時カヲル達に声がかかった。

「渚君!」

トウジとカヲルが振り向くと、そこには屋上に上がってきたヒカリ。

「なんや?イインチョどうしたんや?」

「ほら。渚君教科書まだ持ってなかったでしょ?鈴原の教科書じゃヨダレだらけで見れないと思って」

「な、なにがヨダレだらけやねん!」

「トウジは寝てばっかりだからなあ」

シンジがつっこみを入れる。


「昼休みの内に購買で買えるから、私案内してもいいわよ?」

「いいのかい?洞木さんは優しい女の子なんだね」

カヲルはにっこりと微笑む。

「あ、あたしはその、委員長としての義務を……」

洞木はあたふたと顔を紅潮させる。

「それでも。僕は嬉しいよ」


そんな様子をトウジはジト目で見つめる。

「それじゃお言葉に甘えていいかな?」

「え、ええ!もちろん!こっちよ」

カヲルはヒカリに連れられて行ってしまった。



「なんや……いけすかんな……」

「ん、なんのこと?」

シンジがトウジを覗き込む。

「なんでもあらへん!!」

トウジはプイと顔をそむけて腕組みする。

「やれやれ。素直じゃないな」

ケンスケはポリポリと頭を指で掻いた。























カタカタとキーボードを叩く音が執務室にひびく。

デスクトップ型のパソコンにはチルドレンのシンクロテスト結果が表示されている。

「………………」

リツコはそれを険しい顔で見つめている。

すると不意に誰かに背中から抱きしめられた。

「んっ……」

「相変わらず仕事の虫かい?」

リツコは後ろを振り返らず目を閉じ、抱きしめられる感覚に身を任せる。

「その様子じゃ未だに彼氏はいないな?こんな美人をほっとくなんて、NERV(ここ)の連中も甲斐性無し揃いだな」

「さあ……どうかしらね……。」

「それはな……」

リツコを抱きしめた男、加持リョウジは、リツコの顎に人差し指をかけて自分の方に顔を向けさせる。

「涙の通り道にホクロがある人は……、一生恋に泣き続ける運命にあるからだよ……」

「本気じゃないくせに……。」

加持はリツコに唇を近づける。

「…………そのぐらいにしといたほうがいいわよ。さっきからこわ〜いお姉さんがこっちを睨んでるから」

その言葉で加持が顔を上げると、リツコの執務室の窓にべったりと張り付いてこちらを呪い殺さん勢いで睨みつけるミサト。


「よ、よぉ…葛城ぃ」

加持は冷や汗を浮かばせ、軽く手をあげてミサトに挨拶する。

ミサトがヅカヅカとリツコの執務室に入ってくる。


「どうしてあんたはいっつもそうなのよ!ぜんっぜん変わってないんだから!」

「ははは……、これが俺の性格なもんでね」

加持は両手を挙げてお手上げのポーズをする。


「それに俺とはもうなんでもないんだろう?もしかしてまだ未練が……「ざっけんじゃないわよ!!」」

加持が言葉を言い終える前に分厚いバインダーが飛んできた。

加持はギリギリの所でよける。

「おいおい!当たったら死ぬって!」

「あんたみたいな甲斐性無しはさっさと死んだほうが世界中の女性のためよ!こんなとこで油売ってる暇はないでしょうが!?

 仕事はどうしたの、仕事は!さっさとでてきなさい!」

ミサトはぐいぐいと加持の背中を押す。


「わ、わかったよ、そんなに押すなってば!それじゃりっちゃん、またな〜!」

加持は笑顔を振りまきながら、ミサトに追い出されてしまった。



「まったく……油断も隙もあったもんじゃないわ……」

ミサトはリツコのデスクに置いてあるコーヒーを口につける。

「素直じゃなわね」

「何が?」

ミサトはコーヒーカップを口につけたままリツコを見る。

「リョウちゃん。まだ好きなんでしょう?」

ミサトはブホッとコーヒーを吹き出す。


「だぁ〜〜れがあんな奴!あんなのと付き合ってたなんて、我が人生最大の汚点だわ!」

「それにしては真剣に怒ってたみたいだけど?」

リツコは冷静な態度を崩さずパソコンに向かったままだ。

「当たり前よ!あいつを野放しにしてたら、NERV(ここ)の女全員口説くに決まってるんだから」

ミサトは腕組みしたままブツブツと文句を言う。

そんなミサトを見てリツコはフフフと少し微笑みを浮かべる。


「それで……私達の仕事の方だけど、どうなってる?」

「一応終わってるのかしらね……、でもなかなかおもしろいことになってるわ。見てみる?」

リツコが手元のパネルを操作した。
















広大な敷地、吹きすさぶ風の中、零号機、初号機は共に活動を停止し、ピクリとも動かない。

その巨体には無数の傷が刻まれている。

残る二体のエヴァンゲリオンは、弐号機と四号機。

しかしながらその二体も、装甲板に無数の傷が見てとれる。

「へぇ、やるじゃない。さすがはセカンドチルドレンってとこかな」

カヲルは余裕半分にサブモニターに話しかける。

「うるさい!いいからかかってきなさい!あんたなんかあたしの敵じゃないわ!」

アスカは半ばキレ気味に怒鳴りつける。

フフっとカヲルは余裕の微笑みを浮かべる。



「それならば………」

四号機のプラグの中、戦闘機のガングリップのように、股の間から生え出ている一本の操縦桿を、カヲルは握り直す。

「………いくよ!」


バサリと一旦大きくその生物的な翼を羽ばたかせると、四号機は遥か上空へと舞い上がる。

「こいつッ!」

アスカは右手にパレットライフル、左肩に陽電子砲。

パレットライフルを上空の四号機に向けて発射する。

フルオートで発射されるパレットライフル、しかし四号機の動きは敏捷かつトリッキーで物理の法則を無視したように、ヒラヒラとかわす。


四号機のウェポンラック、他のエヴァとは違い少し厚みがあるそれが開くとナパーム弾が投下された。

火柱の雨が弐号機を襲う。

弐号機はそれを横転して避けるが、それは弐号機自体を狙ったものではなかった。


バチバチ!!


「チッ!」

アスカは小さく舌打ちする。

弐号機の電力を供給するアンビリカルケーブルが断線される。

弐号機のプラグ内では、けたたましく警報が鳴り響き、残り活動時間を示すタイマーがみるみる減っていく………。


「さあ、どうする?アスカちゃん。僕の四号機の活動時間は………」

四号機は背部の腰あたりについている、くの字の尾翼を掴む。と同時にそれが高振動を始める。

「………無限だよ!」

四号機が尾翼を弐号機に投げつける。

プログブーメランとでも呼ぶべきだろうか?

高振動粒子で覆われた尾翼が弐号機に迫る。


そんなみえみえの攻撃に………ッ!


弐号機は最小限の動きでブーメランを避ける。と同時に陽電子砲を発射。しかし上空の四号機には当たらない。

「ほら、後ろ。気をつけないと」

カヲルが余裕の表情を浮かべながら注意を促す。

弐号機の背後からは一度避けたブーメランが、もう一度戻ってくるところだった。


弐号機はライフルと陽電子砲をすばやく手放すと、カッターナイフ状のプログナイフを取り出す。

弐号機は振り返りもせず、まるで予想していたように、上体を右に軽くそらすと、ナイフでブーメランを受け止めた。

今度は弐号機がブーメランを握り直す。と同時に上空の四号機に全力で投げつける。

四号機はそれを軽々と避ける………

が、カヲルの目に予想外のものが飛び込んできた。


それはブーメランを投げると同時に放たれた、絶対領域の衝角。


「なに!?」


弐号機が放ったATフィールドのカッターは四号機の左翼を切断する。

激しく体液を撒き散らし、きりもみ状態で地上に落下する四号機。

アスカはそれを見逃さない。

まるで予想していたように、全力で四号機に向かう。


「ATフィールドをあんな形で………」

落下の衝撃にカヲルは思わず頭を振る。

顔を上げると全力疾走で向かってくる弐号機の姿が映る。

「まずい……、S2機関起動、左翼再生……」

ゆっくりとだが、左翼の切断面がぼこぼこと盛り上がり、再生を始める。


「遅い!」

カヲルが顔を上げるとそこには弐号機の赤い足。

地面に這いつくばっていた四号機の頭部を思いっきり蹴り上げる。

「ぐあっ!」

カヲルが苦悶の表情を浮かべる。


「随分余裕こいたこと言ってくれたわね!」

弐号機は四号機の首元を掴み上げる。

「あんたの弱点はね………、そのゴツゴツした体。地上じゃ動きが鈍すぎなのよっ!!」

弐号機はプログナイフを四号機の腹部に思いっきりつき立てた。

「ぐあああ!!」

四号機の腹部から激しく出血する。

それでもアスカは攻撃を止めない。右手操縦桿を力まかせにねじりこむ。

深々とナイフが四号機の腹部にねじ込まれていく………。







ピピー………!


プラグ内に鳴り響く電子音。







『四号機活動停止シミュレーションを終了します』








NERV本部シュミレーション室。

仮想空間でエヴァの戦闘訓練を行える。


「ふう………」

カヲルがシュミレートプラグから顔を出す。

その顔は満足顔だ。

隣のプラグからアスカも出てきた。


カヲルはアスカににっこり微笑む。

「さすがだよ、アスカちゃん。アメリカ支部で何度もシュミレートはしたけど、君はテクニックがあるね。これで14勝13敗か」

アスカはカヲルの頭をぱっこり殴りつける。

「痛いな、何をするんだい?」



「違うでしょ!あたしが14勝っ!あんたは14敗でしょうが!」

「え?そうだったかな?」

「そう!ちゃんと覚えてなさいよ!あたしのほうがあんたより強いの!」

「そうとは限らないよ。今の攻撃にはちょっとびっくりしたけどね。どちらが強いか、までの差はないさ。

 ともかく、僕はアスカちゃんに出会えてよかった。いいライバル関係になりそうだね」

カヲルはアスカに優しく微笑みかける。

「ふざけんじゃないわよ!あたしのほうがぜっったい上!!もう一回やってみる!?」




………

………………

かれこれ何時間になるだろうか。

今日のチルドレンのスケジュールは、新たに配属された四号機との共同作戦のシュミレート。

ここまではよかった。

完全に治った零号機に加えて新型の四号機。仮想空間の使徒はすぐに撃退できた。



そこでカヲルが言った一言。

「誰が一番強いか戦ってみない?」



この一言がまずかった。

これがアスカのプライドに火をつけ、何十回という戦闘シュミレーションを繰り返すこととなった。

カヲルはカヲルで堪えてない、というよりむしろ楽しんでいる様子で、飽きることなく何度も戦闘を繰り返す。

最初の頃は初号機と零号機も戦闘に参加していた。

しかし何度やっても弐号機と四号機には勝てないので、そのうちシュミレート戦に参加するのを止めてしまっていた。







シンジとレイはシュミレーション室の一角のベンチに座っている。

二人とも、もうシュミレーションを行うつもりはないので、制服に着替えてしまっている。

二人の間には10cmほどの隙間。

シンジはレイの方をチラりと見る。

あることに気がついた。



「あの………綾波さん……手、どうしたの?」

レイの左手人差し指には包帯が巻かれている。

「………………」

「……………」




「……紅茶………」

「え?」

「………お湯を注ぐときにこぼれて………」

「ええ!?大丈夫?」

シンジは心配そうにレイの顔を覗き込む。


「………適切に処置したわ」

「そう……なら……いいんだけど」

シンジはレイの指を見つめる。


「………だめだった」

「え?」

「……あなたと同じようにいれたはずなのに………渋かった……」

「紅茶セット……使ってくれてるんだね」

シンジは何となく嬉しくなる。

「最初は仕方ないよ。僕もうまくいれられなかった。たぶんね、葉を蒸らす時に………」



「そこの二人!!」

アスカがシンジとレイに怒鳴りつける。

「何イチャついてんのよ!」

アスカはズカズカと二人に近づくとシンジを立ち上がらせる。

「な、なに?アスカ」

「シミュレーション!あんたもやるの!」

「……もういいじゃない。何十回もやったじゃないか」

シンジは心底うんざりした表情を浮かべる。

「最近シンクロ率が上がって調子に乗ってるみたいだからね、誰が一番なのか、ここではっきりさせとくの!!」


「きっと僕だとおもうけど?」

カヲルが悪びれた様子も無く答える。

アスカはカヲルをギッと睨む。


「ファースト!」

まだベンチに腰掛けてるレイにアスカが声をかける。

「………なに?」

「やるわよ!もう一度」


「………私やらない………」

「なんで?!」

「………規定回数はもう終了しているわ………」

「それでもいいの!ほらはやく!全員でもう一回よ!」

「もう勘弁してくれよ〜……」

シンジが情けない悲鳴をあげた。
















リツコの部屋を追い出された加持は、自室に戻り煙草に火をつける。

肺の奥まで深く吸い込み、天井に向けて白い煙を放つ。

リツコの部屋でリツコに抱きつく直前、彼女が素早く画面を切り替えるのを加持は見逃さなかった。

それは以前チルドレン達に配ったシンクロ率の結果。

その際プリントされなかった横軸に時間を添えた折れ線グラフ………。


「フォースチルドレン、渚カヲルか………」

加持は自分のPCに向かいタタンと軽くキーを叩く。

そこ出てきたのは余裕の微笑みを湛えているカヲルの情報画面。

その殆どが白紙、抹消済み、ただし生年月日のみセカンドインパクトと同一日………。

疑ってくださいと言わんばかりの経歴だ。

「………恐らく委員会が直に送ってきた子供だな」

特務機関NERV特殊諜報部所属加持リョウジ、そして同時に日本政府内務省調査部所属加持リョウジ、さらには委員会からの息もかかっている。

トリプルスパイ………。その全ては、己の真実に近づくために………。

「真実は意外と近くにあるのかもな………」


加持が盗み見たリツコのパソコン画面、そこにあった折れ線グラフ………。

渚カヲルのシンクロ率はプラグの深度や時間経過に左右されない、まるで定規ででも引いたように、びったりと79.65%を維持していたのだった。






ビーー!ビーー!ビーーー!

突然NERV館内に警報が鳴り響いた。

「さっそくおいでなすったか、きっと七番目のやつだな……」

加持はさほど驚いた様子もなく、煙草を灰皿に押し付ける。

「葛城の言うとおり、俺も仕事を始めるとするか……」









衛星軌道上のそれは自身の一部を小さく切り離すと地上に落下させる。

それは太平洋上に巨大なクレーターを作った。





















「常識を疑うわね……」

ミサトは発令所で腕組みしながらスクリーンを見ている。

シュールレアリズムのような異型であり、シンメトリックなフォルムを持つ……。

両手を大きく開いたような、オレンジ色を基調とした中心には、巨大な目玉のようなものが見てとれる。

まるで芸術家か何かがデザインしたようなそのフォルム、第七使徒は、突如としてインド洋上の衛星軌道上に出現していた。


すると突然スクリーンの映像が途切れる。

「観測衛星消滅。別角度からスクリーンします」

すぐにスクリーンが切り変わり、使徒を映し出す。

「ATフィールド、新しい使い方ね……」

リツコが呟く。


「……それで、状況は?」

「使徒は体の一部を分離、落下させて攻撃をしかけてきています。一発目は太平洋上に大はずれ、二発目はここです」

マコトがスクリーンに映像を出す。そこには巨大なクレーターができていた。

「落下エネルギーに加えて、ATフィールドを展開しているようです。N2航空爆雷での攻撃を試みましたが、効果はありませんでした」

スクリーンには無数の爆発に囲まれながらも無傷の使徒の映像。


「……二回の試射、その差異を計算すれば確実に誤差を修正できる……。次はくるわね、本体ごと。ここに」

リツコが呟く。

「その時は第三芦ノ湖の誕生かしら?」

ミサトが少しおどけたように言う。

「富士五湖が一つになって太平洋とつながるわ。本部ごとね」

「MAGIは何て言ってるの?」

「全会一致で退避を推奨しています」

マヤが答える。

ミサトは腕組みしてしばし考え込む……。




発令所、司令塔を見上げる。

「碇司令」

ゲンドウは微動だにせず、視線だけをミサトに移す。

「ネルフ権限におけるD-17の発令の許可をいただけますでしょうか?」

「葛城二尉!ここを放棄するつもり!?」

リツコが驚いた様子でミサトに声をかける。

「いいえ、みんなで危ない橋を渡る必要はないってことよ」


ここで沈黙を守っていたゲンドウが口を開いた。

「使徒のほうはどうするつもりだ?」

「殲滅します」

「その手立てはあるのか?」

「それが私の仕事です。ご許可いただけませんでしょうか?」

ゲンドウは両手を口元で組んで少し考え込む……。


「……いいだろう。日本政府各省にD-17を通達。半径50km以内の全市民は、ただちに避難。松代には、MAGIのバックアップの準備をさせておけ」

「ご許可いただき、ありがとうございます」

「それともう一つ、ご許可いただきたいことが…… 」

「言ってみろ」

「戦自研の自走式陽電子砲の徴収です」











第三新東京市にD-17が発令された。

軍の大型輸送ヘリコプターも移送に使用されている。

『ただいま第三新東京市全域に特別退避宣言D-17が発令されました半径50kmの市民は速やかに退避してください』

主要道路も前線下り。非難する市民の車で大混雑だ。

第三新東京市にはNERVスタッフだけが残ることとなった。






NERV女子トイレ、化粧直ししているミサトにリツコが絡む。

「あなたの勝手な判断でEVAとここを放棄するつもり?」

「放棄なんてするつもりはないわ。司令の許可ももらったでしょ?」

「そんなうわっつらの言葉で誤魔化さないでほしいものだわ」

「使徒殲滅が私の仕事です」

「仕事……?笑わせてくれるわね。自分のためでしょう?あなたの使徒への復讐は」

「…………」

「…………」

険悪なムードが二人を包む。

「……どちらにせよ」

ミサトが口を開いた。

「あの使徒を止めなければサードインパクトは止められない。D-17発令も無意味なものになってしまうわ」

「では止めてもらいましょうか?作戦本部長殿」

「言ったでしょう?」

ミサトは振り返りリツコをみつめる。

「それが私の仕事だと」

















「今から作戦を発表します」

作戦室。

チルドレン四人とミサトが集まっている。

「使徒は二回の試射の後、誤差を修正、次は本体ごとここに来るものと予想されます。ATフィールドのおまけつきで」

ミサトは四人を見渡す。

「あれだけの質量をもった物体の落下エネルギーは相当なものよ。それを止める手立ては少ないわ」

「じゃあ、どうするのよ」

アスカが眉間に皺を寄せて問う。


ミサトがカヲルを見る。

「渚君」

「はい?」

「あなたに使徒のATフィールドを中和してもらいます」

「僕が?」

「ええ」

ミサトは手元のパネルを叩いてリツコへの回線をつなぐ。


「リツコ?戦自研から徴収したポジトロンライフルのほうは?」

『80%ってところかしら。なんとか間に合いそうよ』

「わかったわ」


ミサトは一度目を瞑り、開いてチルドレン達を見渡す。

「まず、四号機をウィングキャリアで航行高度限界まで上昇させ、そこからドッキングアウト。その後四号機は可能な限り使徒に接近、ATフィールドを中和してもらいます。

 そしてアスカ。あなたには戦自研から徴収したポジトロン・スナイーパー・ライフルでコアを狙撃してもらうわ。元が精密機器の上、野戦向きでないのが弱点だけど……。

 この際贅沢は言ってられないからね。スナイパーインダクションには精度の高いオペレーティングが必要なの。だから現時点で最もシンクロ率の高いアスカに狙撃役をやってもらいます。」


「僕たちは何をすれば?」

シンジが口を開いた。

「ここまでが殲滅作戦第一段階。これで殲滅できれば作戦終了。シンジ君とレイには出番はないわ。

 でも加速した陽電子は地磁気、電磁波の影響を受けて直進しません。ましてや、高速で落下する使徒のコアを射抜くのは至難の技だわ。

 そこで作戦第二段階。第一段階でコアへの直撃が失敗した場合は、シンジ君とレイにはEVA専用20式陽電子砲でコアへの狙撃をお願いすることになるわ。

 第二段階に移行する頃にはもう使徒は地上ぎりぎりの所に来ていると思うの。だからシンジ君とレイには目視で狙撃をお願いすることになるわね」


「……なんだか……うまく行くんですかね……」

シンジが疑うように問いかける。

「それは神のみぞ知るってところかしら……」

ミサトは一旦言葉を切る。

「もし……第二段階も失敗した場合……、その場合は第三段階に移行します」

「第三?」

「そう、それは四号機を除く三機全員で使徒を直接手で受け止めてもらいます」

「手で……直接ねえ……」

アスカがボヤく。

「これ、ほんとに熟考して出した作戦なんでしょうね?成功する気がしないんだけど」

アスカの言葉にミサトは口を閉ざす。


「…………そうね……とても作戦と呼べるものじゃなわね……」

一同に暗いムードが立ち込める。

「使徒がコースを大きくはずれた時はどうするんですか?」

カヲルは飄々と尋ねる。

「その時はアウトね」

「予想される落下地点のほうは?」

ミサトは手元のパネルを叩く。

そこにはほぼ第三新東京市全域を覆わんばかりに表示されてる落下予想地点。

「げ〜〜!こんなに広いの?」

アスカがゲンナリした声を出す。

「これでも絞ったのよ。この際本部へのダメージがない部分は無視しました。この範囲のどこに落ちても本部ごと根こそぎもってかれるわ。」


レイが手を上げる。

「このEVA三機の配置の根拠は?」

「女の勘よ」

ミサトの言葉に一同は言葉を無くす。

シンジは隣のアスカにそっと囁く。

「ミサトさんのクジ……当たったことないんだ……」

アスカはあからさまゲ〜という顔をする。

「そう悲観するもんじゃないよ」

カヲルが口を開く。

「着任早々なかなかおもしろそうじゃないか。奇跡は起こしてこそその価値があるってものさ。だろ?」

にっこりとシンジに微笑む。

なぜだろう。

カヲルの笑顔を見た瞬間、シンジは今までの暗いムードが嘘のように何となくうまく行く気がしてきた。



「こんな時に言いにくいんだけど、一応規則で遺書を書くことになってるんだけど……」

ミサトはバツが悪そうに一同を見渡す。


「ミサト、そんなもの必要ないわ。必ず勝って戻ってくるからね」

「へぇ〜、遺書か。思いつきもしなかったよ。書いてみたい気もするけど、書く相手がみつからないのが残念だな」

カヲルは肩を窄める。



シンジはしばらく考え込むと口を開く。

「……僕、書きます」

「え?」

ミサトはシンジの顔を見る。

「一応。伝えたい人がいますから」

「………私も書きます」

レイもシンジに続く。

これにはミサトも目を丸くする。

あのレイが?遺書を?

ゲンドウにでも書くつもりなのだろうか。







特務機関NERV司令執務室。

パチンと冬月の将棋の打つ音がこだました。

「また葛城二尉は大胆な作戦を思いついたものだな。お前は退避しなくていいのか、碇」

「どこに退避するというつもりなのだ。どちらにせよ、使徒がドグマに達することがあれば全人類が滅亡する」

冬月は一瞬チラリとゲンドウを見ると、またパチリと将棋の駒を進める。

「それもそうだな。全ては葛城二尉とシンジ君達に賭けるしかない……というわけか」




















「落下予測時間まで後120分です」

マヤが報告する。

「みんなはここから退避して。ここは私一人で十分だから」

「いえ、これも仕事っすから」

青葉が気楽そうに答える。

「子供たちだけ危ない目に会わせられないっすよ」

日向も微笑みながら答える。


「……あの子達なら大丈夫。もしEVAが大破してもATフィールドがあの子達を守ってくれるわ。EVAの中が一番安全なのよ……」

ミサトは半ば独り言のように呟く……。

「無敵のATフィールドですか……。ATフィールドって一体なんなんですかね」

日向が呟く。

ミサトは何も答えない。



手元には二通の遺書。

一つにはシンジのもの。

もう一つはレイのもの。

シンジの遺書は加持宛のものだった。

そしてレイの遺書は意外なことにシンジに宛てたものだった。

作戦が失敗すれば、シンジも死ぬ可能性がある。それでもなおシンジに伝えておきたかったこととは一体なんなのだろうか……。

規則では本人が死亡するまで、遺書の開封はできないことになっている。


開封なんてさせるもんですか!

あの子達を死なせはしない……。

ミサトは胸元のクロスを握り締める。



既に四号機はウィングキャリアで高高度まで輸送されている。

レイは零号機の中で瞑想するように目を閉じている。

アスカはイヤホンで音楽を聴きながら、しかしどこか心の余裕が表情から読み取れる。


シンジは硬く目を閉じている。

加持の言葉を思い出していた。

『失ってから気づいたんじゃ遅いんだ。今自分のやれることを、やれる時にやるやればいいのさ』

シンジは目を開ける。

「そう……、もう逃げちゃだめだ」







「使徒確認!距離約2万5千!」

マヤが報告する。

「おいでなすったわね……。目標は光学観測による弾道計算しかできないわ。よってMAGIが距離1万メートルまで誘導します。あとは各自の判断にまかせるわ」


「「「「了解」」」」


「目標落下予想地点はB-23地区!使徒殲滅作戦第一段階、スタート!」



四号機がウィングキャリアからドッキングアウトする。

「さあて、これが初陣か、悪いけど、勝たせてもらうよ」

カヲルが呟く。

四号機は一度翼を羽ばたかせると上空を睨む、胸と足に増設されたブースターで姿勢を制御。

「四号機、使徒に接触します!」

マヤの言葉にカヲルが続く。

「見えた!」


ATフィールドを纏い、高速で落下する真っ赤な使徒。

周りの雲が熱と衝撃で瞬時に蒸発する。

カヲルはガングリップタイプの操縦桿を握りなおす。

使徒の落下速度に四号機の速度を合わせる。


「四号機、ATフィールド中和可能範囲に入ります!」

「渚君!」

「了解!!ATフィールド全開!!」


ゴウッ!という音と共に四号機からオレンジの絶対領域が展開され、使徒のそれと干渉し合う。

「やりました!使徒のATフィールド中和完了!」

「ライフルのほうは?!」

「ポジトロン・スナーパー・ライフル最終段階!強制収束機作動!地球の自転及び動誤差修正0.3!薬室内圧力上昇!発射位置準備完了です!」


弐号機は地表に寝そべり、ポジトロン・スナイパー・ライフルを装着している。

プラグの後ろ、ヘッドバイザーが降りてスナイパーインダクションが作動し、目標との誤差の修正計算に入る。

ターゲット・マーカーが徐々に絞られていく。

「決めるわよ……アスカ……ッ!」

アスカは自分に言い聞かせるように呟く。




その時、使徒が思いがけない行動を起こした。

そのシュールな造形、その中心にある目玉模様がギョロリと四号機のほうを見つめたのだ。

「なに!?」

使徒は自身の体の一部を切り離し、ATフィールドを纏わせ、まるでミサイルのように四号機うちつけた!

「ぐああああ!」

数発発射された使徒のミサイルは、四号機を直撃、しかも運悪く翼にヒット。四号機はキリモミ状態で落下していく。

四号機は使徒から大きく離される。



「カヲル!?」

「カヲル君!!」

アスカとシンジが叫ぶ。


あいつ……ドジりやがったわね!

アスカが舌打ちする。



ピピピピ!

マーカーが全て中央に揃い、発射可能状態を告げる。

「こんのぉお!!」


バシュウウ!!!!


V字のマズルフラッシュを吹き上げながら、加速された陽電子が空のかなたに消える。


しかし……


ガキィィィン!!!!


一瞬遅かった。

カヲルは既に中和範囲からはずれていた。


「なんてこと!」

ミサトが声を上げる。

この作戦は四号機のATフィールドの中和が大前提。

第二段階に移行しても、ポジトロン・スナイーパー・ライフルでさえ突破できなかったATフィールドを20式陽電子砲で貫くのは不可能なのは目に見えている。

ミサトは瞬時に判断する。


「第一、第二段階の作戦は破棄!第三段階に移行!お願い!素手で受け止めて!」





「「了解!!」」

シンジとレイが呼応する。

弐号機はポジトロン・ライフル・スナイパーライフルを装備している。その装備をはずすのに手間取るだろう。弐号機はどう見ても間に合わない。

「目標落下予想地点、以前かわらずB-23地区です!」

初号機のほうが近い。

「外部電源パージ!シンジ君お願い!受け止めて!!」

「了解!」

シンジはクラウチングスタートから猛然とダッシュする。

ビルを飛び越え、高圧線を揺らす。

「見えた!!」

使徒が厚い雲を蒸発させながら地上にせまる!

「間に合え!!」

シンジは全身の神経をただ一点、使徒の落下地点へと意識を集中する。

「ATフィールド全開!!」

ゴウッ!!


落下地点の山の山頂、初号機の周りの木々が吹き飛んだ。

両手を大きくあげる。



ズシィィィン!


初号機と使徒が接触する。

「ぐああああ!!」

そのあまりの衝撃にシンジが悲鳴を上げる。

「シンジ君!!」

受け止めた!?


しかし……


バギッ………ボギッ……


初号機の腕が、足が、衝撃に耐え切れずに折れて、体液を噴出する。


「シンジ君!」



四号機は使徒に吹き飛ばされて遥かかなた。

弐号機はポジトロンライフルを装備しているため、動けない。


「レイッ!急いで!シンジ君が!!」

ミサトの声は悲鳴に近かった。


レイは走る!

使徒と初号機が接触しているその山頂目指して。

しかしまだ到達できない。



バギッ!ボギッ!

「ぐああああ!」

ついに初号機の両腕が折れた。

初号機は立膝をつく、その足もボギリと折れ初めている。


「シンジ君ッ!!!」

「碇君!!」


初号機は使徒に押しつぶされ、半ば半壊していた。

その映像はレイにも見えていた。






レイは目を見開く。





『……いか……いかりくんが……きえ……』







その瞬間、レイの視界は強烈なハーレーションを起こした。













ドオオォオォオオオン!!!





巨大な十字架の火柱が上がった。











ビーー!ビーー!ビーー!

けたたましくなり始める警告音。

「何?!どうしたの!?」

「新たなパターン青を確認!」

「そ……そんな!新しい使徒!?」

「こ……これは……ヒト!人間です!」

「場所は?!」

「零号機からです!!」

「なんですって!?」


見ると零号機から巨大な十字架の火柱。

やがてそれは四枚の巨大な翼になる。



グォォオオオオオ!!!!




零号機が咆哮する!


「零号機シンクロ率350%を突破!なおも上昇しています!」


「いかん!」

発令所司令塔でじっと動向を見守っていたゲンドウが椅子を蹴って立ち上がった。

「レイッ!」




グォォォオオオオオ!!!


零号機は次の瞬間、瞬間移動でもしたかのようにあっという間に初号機の元へと到着する。

すると両翼を天にかざす。

「次元測定値が反転、マイナスを示しています!数値化できません!」

「こ……これは、アンチATフィールド?!」




バシャアアア!!!!




今まで初号機を圧壊させようとしていた使徒はあっという間にオレンジ色のスープへと変わった。








巨大な第七使徒は溶けてLCLと還元され、第3新東京市にオレンジ色の雨を降らす。



零号機の翼は徐々に消え、そのうちガクリと動きを止めた。

それに伴い零号機のシンクロ率も急激に落ち込む。







「………………」

発令所の一同は声も出ない。





「なんなのよ……あれ……」

やっとのことでポジトロン・スナイパー・ライフルの装備を解除できたアスカが、ポツリと呟いた。




そして遥か後方。

使徒によって吹き飛ばされた四号機。

地面落下の衝撃はATフィールドで防いで無傷だ。

穴の開いた翼もゆっくりとだが再生を始めている。



ガゴッ……


こうべを垂れていた四号機の脊髄が競り上がり、プラグがイジェクトされる。

中からカヲルが顔を出す。


LCLが降り注ぐ雨の中、カヲルはじっと零号機を見つめる。

そこにはいつもの微笑みはない。

「綾波レイ……」











「……警報を止めろ」

発令所で最初に口を開いたのはゲンドウだった。


「は、え?」

マコトが思わず振り返ってゲンドウを見る。

「警報を止めろと言ったのだ。葛城二尉の立てた作戦第三段階にて、初号機、零号機の共同作戦により使徒殲滅。新たなパターン青出現の事実はない。センサーの誤作動だ」


発令所の一同は最初その意味がわからずにいたが、

「りょ、了解。現時点で作戦は終了。零号機、初号機の回収急いで。特に初号機パイロットの救出を急いで!」

ミサトのこの一声で、一同は我に返る。


「了解、回収班向かわせます」

「弐号機、四号機ともに無傷。パイロットも無事です」

「了解。第一種警戒態勢へ移行。速やかに状況イエローに移行します……」

「…………」

「……」



ゲンドウはここでやっと自分が椅子を蹴って立ち上がってしまったことに気づく。

椅子を戻し、席につくと、サングラスを中指と薬指で押し上げた。

「碇、まずいぞ、早すぎる……」

冬月が囁く。

「ああ……、ダミーの件、一つ繰り上げる必要がありそうだな」

「老人達にはどう説明するつもりだ?」

ゲンドウは少し考え込む。

「時にはイレギュラーな事も起きる。それを自覚させるいいチャンスかもしれん……」

「…………」

冬月はゲンドウの横顔を見たまま、口を閉ざす。

スクリーンを見上げると、初号機を庇うようにして項垂れている零号機の姿。


これでまた一つ、予定が繰り上がったな……。







+続く+





後書き
こんにちわ。プロトタイプです。
大分投稿間隔が開いてしまいましたね。その間何をしていたかというと、私事ながら体調を崩し、入院してました……。
今も体調が悪く、PCに向かうのが辛い状態です。ですので投稿スピードもゆっくりになりがち………………ですが!!
結構前のことですが、メールチェックしてみたところ、なんと感想メールを頂いていました!!
これには本当に感激しました!
ほとんど自己満足で投稿しているこのHOPEですが、ちゃんと見てくれている人達がいるんだなあ………って。
ということで、気合でなんとかこの拾八話も書き終えましたw
なんでもいいので感想メールをいただけると大変励みになり、投稿スピードがあがる可能性大です(笑)
それでは次回HOPE拾九話もお楽しみに^^



◆プロトタイプさんへの感想・メッセージはこちらのページから◆


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