■ HOPE  第拾参話 「奪われた記憶」





「ヒトヨンヨンサン、日本重化学工業共同体開発、使徒専用迎撃ロボット、ジェットアローンよりパターン青検出。

 同時にATフィールドの展開を確認。これによりJAを第六使徒と認定。

 ヒトヨンヨンハチ、ウィングキャリアーより特殊ベークライト弾による攻撃開始。

 現在第三新東京市より約200kmのところで足止めに成功しています」

マヤの報告が終わるとモニターにベークライトで固められているJAが映し出された。



発令所には一旦退却したシンジとミサト。

それに加え非常召集を受けたレイ、アスカ。そしてリツコとオペレーター達が集合している。

チルドレン達はプラグスーツを着ている。



「こんな時に限って碇司令はいないのよね……」

ミサトが困った顔で司令塔を見あげる。

「え、父さんいないんですか?」

「ええ。今碇司令は南極よ」

「南極……」



「それで……?」

アスカが口を開いた。

「なんであのロボットがATフィールドを展開できるわけ?」


「正確にはあのロボットが展開しているわけではないわ」

リツコはそういうとモニターを操作する。

「これを見てちょうだい」


そこには望遠で撮影されたJAの腕が映し出されている。

JAの腕はエビの殻のようにいくつかの装甲板がつながって一本の腕を構成している。

モニターに映し出されているのは、その節の間。関節と呼んでもいいかもしれない。

その隙間に何かオレンジ色に発光しているのものがビッシリと取り付いているのが見える。


「目標はJA本体ではないわ。このオレンジ色に発光しているのが使徒。

 MAGIの解析によるとナノサイズ、極小の使徒が互いに連携し合って電子回路を構築。

 結果JAにハッキングをかけて乗っ取っているみたいね」

 

そこに青葉がふらつきながら高く積み上げられた資料を両手で抱え持ってきた。

それをドンッと机の上に置く。

「特例 C-89により日重より押収してきた資料です。

 これによると数日前に搬入した装甲板の一部が劣化していたようで、どうやらそれに使徒が付着していたようです」



「最初はただのシミ。それが爆発的に進化を遂げ、電子回路を構築。今は人工知能らしき働きも見せている。

 ……どうするの?ミサト。

 碇司令も副指令もいない今、階級は下だけどあなたが作戦を指揮するのよ」


その言葉にアスカが反応した。

「え?ミサトが階級下?

 あ〜……もしかして降格になっ……ふごあごご」

「ニイの話は禁止だから♪」

ミサトが引きつった笑顔でアスカの頬を両手でひっぱる。

「や、やめふぇ」

アスカは涙目になっている。

そんな様子を横目で見ながらシンジは苦笑いを浮かべる。




「リツコ、碇司令達とは連絡とれないわけ?」

「それなんですが……」

マヤがキーボードを叩き、別の映像を出す。

「こちらのベークライト弾を発射する直前に使徒はスモーク弾を発射しています」

JAの背中あたりから六発のミサイルが上空に向けて発射されている。

「日重から押収した資料によると、本来煙幕効果のために搭載されていたようなんですが

 使徒が改良を施しているようで、このスモークから強力なジャミングが発散されています。

 ジャミングは非常に広範囲拡散していて、長距離のレーダーや通信システムを妨害。

 司令とは連絡が取れません」




「改良って……そんなこともできちゃうわけ?」

「ま、なんでもありなんでしょう。使徒ですからねぇ……」

青葉が両手を軽くあげて肩をすくめてみせる。



「ベークライトでの足止めが効いてるなら、このまま捕獲はできないかしら。

 生きた使徒のサンプル。その重要性は言うまでもないでしょう?」

「それはお勧めできないわ、ミサト」

リツコがベークライトで固められているJAの画像に戻す。

「よく見て頂戴。この接触面」

JAは体の半分以上をベークライトで固められているが、その接触面から煙が吹き上がっている。


「ベークライトを侵食しているの。

 目標のジャミングで詳しくはわからないけど、もしかしたらベークライトを栄養分として取り込んでいるのかもしれないわ……。

 この使徒はただのナノマシンではない。こうやって自分達に不利な状況になるとその度に自己進化を促し、弱点を克服している。

 とても捕獲できるようなタイプの使徒ではないわ……」


「なら、殲滅するしかないでしょうね。マヤちゃん、使徒の予想進行時刻は?」

「最短あと1時間でベークライトを侵食し終わる計算です」

「……これ以上街の近くだとリアクターの爆発による汚染の危険性があるわ。今のうちに叩きましょう」

ミサトは振り返ってリツコを見る。



「エヴァのほうは?」

「完調なのは初号機のみ。零号機は未だ修理が完了していないわ。

 弐号機は起動実験自体は成功しているけど、実戦は……」

「……まだ無理かもね。

 初号機のみでの殲滅作戦を実行します。

 念のために弐号機はウィングキャリアにて待機。

 アスカとシンジ君は、あと20分で出撃するから搭乗して待機しててちょうだい。

 レイは本部で待機よ」

「「「了解」」」

























ゆっくりと使徒上空を旋回する二機のウィングキャリア。

地上ではベークライトに固められたJAの周りをNERVやUNの特殊車両が取り囲んでいる。

爆発の危険があるので周囲にあるのは全て無人車両。リモートコントロールだ。

JAはいかにも人体に有害そうなピンクの煙をモクモク上げてベークライトを侵食している。

すでに上半身は露呈し、膝から下あたりにまとわり着いているベークライトが、辛うじてJAの進行を食い止めているようだ。

この足止めもそう長くはないだろう。




マコトが初号機に通信を入れる。

「いいかい?シンジ君。切り離すよ」

「了解」


低空飛行のウィングキャリアから初号機が切り離される。

その腰にはアクティブソード。


着地した初号機の周りに無人の電源車が近づき、エヴァのソケットを持ち上げる。

シンジはそれを背中に装着すると、腰のアクティブソードを抜いて構えた。

初号機が握ると自動的に高振動が始まり、刃がピンク色に発光する。



発令所のミサトがマイクのスイッチを入れる。

「シンジ君、JAが進行を開始するまでそう時間はないわ。今がチャンスよ。

 これまでの使徒戦を考慮すると、慎重過ぎることはないわ。十分気をつけて」

「わかりました」





シンジは初号機を走らせる。

固められたJAの前まで来るとアクティブソードを抜いて頭上に掲げた。


巨大な初号機に巨大なアクティブソードというのは、なんともカッコイイ組み合わせだが

へっぴり腰で剣を振り上げる初号機の姿はどう見てもド素人の構え。

剣の訓練はしていないので、そこは仕方が無い。



するとJAも初号機に気がついたのかバキバキとベークライトを砕き、動き出した。



ミサトはその映像を睨みつける。

「やっぱりもう動けたのね……。今まで動かなかったのはベークライトからエネルギーを搾り取るためか……」




JAはゆっくりとした動作で初号機の前へ出る。

対峙する初号機とJA……。



「いくぞっ!」

先に動いたのは初号機のほうだった。袈裟懸けにJAに斬りかかる!

しかしJAはその刃に触れぬよう、右手でパシッと受け流すようにソードを叩き落とした。



「っとと……くそっ」

ややバランスを崩すも流された姿勢を反動に、返し際もう一度JAに斬りかかる。


JAはその剣を両手でパシンと白刃取りした。

掴んだ手の平が微かにオレンジ色に光っている。



「アクティブソードを素手で掴むなんて!ATフィールド!?」

「……そのようです。使途はナノマシンそれぞれが極小のATフィールドを発生させています。

 大部分は初号機に中和されていますが、JAの手のひらに少量極小のATフィールドが無数に展開されています」

ミサトの声にマヤが答えた。



ソードに力をかける初号機。それを受け止めるJA。

「くっ……」

シンジは右手のハンドルレバーに両手をかけて力を込める。



それを見ていたリツコがミサトのマイクを奪った。

「初号機はそんなポンコツに力負けするようには作ってないわ!シンジ君、かまわないからぶっ壊しちゃって!!」

時田とのやり取りでリツコもJAには頭にきているらしい。



「うおあああ……」

渾身の力を混めてレバーを押し込む。

するとJAはその力を支えきれず、刃がJAの手の中をすり抜けた。


ズシャアアア!!

アクティブソードがJAの胸あたりに斬り込まれた。

JAは逃れようと体をねじり、両手で初号機の胸をドンと押す。


離れる両者。JAにはソードが刺さったままだ。

JAの胸の傷からは、冷却液か何かなのだろうか。液体やら気体やらが噴き出している。



「はぁはぁ………まだ壊れない。浅かったのか」


JAは自身の胸に刺さったソードを右手で引き抜くとグリップで握る。

痛みを感じずに淡々とする動作がいかにもロボットらしい。

フュィイイン………

高速振動を始めるアクティブソード。



「へえ、なかなか賢いじゃない……。シンジ君、ナイフで応戦して!」

ウェポンラックからプログナイフを取り出し握り締める。



JAは両手でソードを握り締め、頭上に構える。

今度はJAが、シンジがそうやったように、へっぴり腰で初号機に斬りかかった。

どうやらシンジの動きを真似て学習しているらしい。

ナイフでそれを受け止める初号機。


ギギギィィッ!!

刃の間で火花が散る。





またしても力と力のぶつかり合い。

「……力比べなら負けない」

初号機がジリジリと押し始める……。

しかし不意に力のバランスが崩れ、流れたJAのアクティブソードが初号機の腕に当たった。

「ぐあ!!」

左手首の上あたりの装甲板が弾けとぶ。


「シンジ君!!」

「っ……大丈夫です。装甲板が剥がれただけで、感覚もしっかりしてます!」

シンジはレバーを握りなおす。


JAはまたしてもシンジの動きをまねて、いなされた反動をつけて返し際初号機に斬りかかる。

しかし初号機はそれをスッと避けると、大きく裂けたJAの胸の傷あたりに膝蹴りを叩き込む。


ズシィィーン!

JAがその場で転ぶ。



ミサトは発令所で思わずガッツポーズ。

(シンジ君いい動きだわ。冷静だし目標の動きもよく見ている。訓練の成果がばっちり出てる!)




初号機はJAの右手を踏みつける。その衝撃でJAの手からアクティブソードがこぼれた。

初号機はそれを遠くに蹴飛ばす。そして今度は倒れているJAに向かってナイフを大きく振り上げる!

「もらった!」


その時JAは自由になる左手で初号機の足をひっぱった。

「うわっ!」

ズシィーン!



初号機もJAの隣に転倒してしまう。

両者は素早く横転して立ち上がる。



しかし初号機にはナイフ、JAは素手。


初号機はナイフを逆手に握りなおし、斬りかかる。

「うおおお!!」

JAの頭部にナイフが迫る!


しかしJAは間一髪のところで初号機の手首を掴んでその動きを止めることに成功する。

続けざまに今度は初号機の左手のパンチ!

JAはそれも寸での所で手首を掴んで止める。



三度繰り返される力のぶつかり合い。

お互いの両腕はふさがっている。

多少改良されてるとは言え、元々出力が決まっているロボットと潜在能力は計り知れない初号機。

今度も徐々に初号機が押し始め、高振動ナイフがJA頭部に迫る。


「そのまま押し切って!!」

ミサトが叫んだ。








その時、初号機の左手首、装甲板がはがれて素体が見えている所を掴んでいたJAの右手が、オレンジ色に強く発光し始めた。

「え……」

その感覚にシンジは思わず動きを止めた。

「な、なんだこれ。この感覚……」





『レイッよけて!』

『内部電源のみでの戦闘に関わらず』

『目標をセンターに入れてスイッチ』

『使徒の体の80%が発電器官で構成されているわ』



次々と脳裏をよぎる過去の記憶……。




「うわああああ!!!」

発令所にシンジの絶叫が響いた。







ビーッ!ビーッ!ビーッ!

発令所に警報が鳴り響く。


「なに!?どうしたの?」

「初号機の素体部分から使徒が!」

「まさか……寄生するつもりなの!?」

「い、いえ違います。この反応は……

 目標は初号機の神経回路を通じてハッキングをかけてます。

 こ、これは……A10神経接続回路を汚染!パイロットにアクセスしようとしています!」




「うあああああああああ」

エントリープラグの中、頭を押さえて苦しむシンジ。

初号機はナイフを落とし、同じように頭を押さえてもがく。

しかしJAは初号機の手首を離さない。

「まずいです!パイロット、精神汚染始まっています!!」






ミサトがマイクのスイッチを押す。

「アスカ!!」

「わかってる!早く切り離してちょうだい!」

ウィングキャリアから弐号機が切り離された。その手にはパレットライフル。

両肩に増設された推進ロケットが点火され着地の衝撃を緩和。

役目を終えたロケットは自動的に肩からはずれる。




(ちっ!動きに違和感を感じる……。調整が完璧じゃないんだわ)



弐号機はライフルを構えJAに撃ちこむ。

ズガガガッ!


JAは初号機を離し、バックステップする。

初号機はガクリとその場で崩れ落ちた。


「逃がさないわよ!」

続けてライフルを打ち込み続ける。

ズガガガッ!

ズガガガッ!


その度にJAはバックステップでよける。

「ポンコツのわりには意外とすばしっこいじゃない!」



するとJAは突然四つんばいになり体を屈めた。

そしてそのままぴょ〜〜んと大きな垂直跳び。


「へ?なに?」


上空で、恐らく姿勢制御用と思われる、バックパックスラスターを点火した。



「上からってことね!返り討ちよ!」

弐号機はライフルをその場に置くとウェポンラックからプログナイフを取り出す。

…………しかしJAは降りてこない。



そのまましばらく上空から弐号機を見下ろしていたが、ロケットを噴射して上空へと浮上。

そして肩口からジャミング弾を発射し、空の彼方へと消えてしまったのだった……。



「……逃げた?」



























無数の塩の柱が突き出た赤い海を艦隊が進んでいる。

その中央に位置する空母の上にはシートに包まれた長い棒状の物がくくりつけられていた。


空母の窓から外を見ながら冬月は呟く。

「いかなる生命の存在も許さない、南極。死の世界。いや、地獄と呼ぶべきか」

「だがこうして我々ここに立っている。生きたままだ」

隣のゲンドウが口を開いた。


「……科学の力で守られているからな」

「科学は人の力だよ」

「その傲慢さが15年前の悲劇を引き起こした。その結果がこれだ。

 与えられた罰としてはあまりに大きすぎる。まさに死海そのものだ」

「だが原罪の汚れ無き浄化された世界だ」

「俺は罪にまみれても人がいる世界を望むよ……」


ゲンドウは指先でメガネを軽く押し上げる。

「冬月……進んだ時計の針は元には戻らん」

「……レイか」

「これで槍も手に入った。必要な駒は既に我々の手の中にある。後は使徒どもを片付けるだけだ」

冬月はゲンドウに顔を向ける。

「それが一番の問題だろう。レイは依然ファーストチルドレンとして登録されたままだ」

「もうじきダミーが届く…………問題ない」



























レイはシンジのベッドの隣に座り文庫本に目を落としている。



「ん…………」

ベッドの上のシンジが軽く身じろぎした。

起きそうだ。

レイは本を閉じて棚の上に置くと、シンジの顔に目を向ける。



シンジはゆっくりと目を開いた。

軽く二三度まばたきすると、まぶしそうに右手を額にかざす。

しばらくキョトンとしていたが隣にいるレイに気がついたようだ。


「ここは……」

「……病院よ」

「病院…………」

シンジは少し遠い目をして考え込むような素振りを見せる。



「僕は……」

「……第六使徒と戦闘中、使徒の攻撃によって精神汚染に晒され意識を喪失。ここで治療を受けた」

「使徒……?」

「ええ……」

シンジはレイの顔を見てキョトンとしている。

レイもシンジの顔を見つめている。



「え、えっと……」

シンジは目線を左右に動かしキョロキョロしている。

「僕は……」

「…………」











「!!」

レイはシンジのそれに気がついた。

ハッと目を見開く。

椅子を倒して立ち上がり、シンジの顔を覗きこんだ。





シンジは額に脂汗を滲ませ、自分の両手を見つめている。



「僕は……」













「僕は……誰だ……?」










+続く+






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