■ HOPE  第拾弐話 「人の造りしもの」






チルドレン三人はひさしぶりに三人そろって登校している。

といっても時間はもうお昼で、この時間から登校しても午後からの授業のみの参加になるだろう。


アスカはこの日晴れて退院。

シンジとレイは午前中NERVでのシンクロテストを終えアスカと合流。

月数回あるチルドレンのための連絡会議に出席した後、こうして三人で登校しているのだった。



教室に着くなり三人はトウジとケンスケに呼び止められた。

トウジは三人の顔を見渡す。


気まずそうなシンジ、無表情なレイ。

二人の間で腰に手をやり不機嫌そうなアスカ。

「あによ」

「惣流、シンジ、綾波……」


「ほんっまスマンかった!!」

トウジはそう言うと突然頭を下げた。




「え?」

シンジが声を上げる。


「ワイはお前らのことよう考えんと、自分のことばっかり考えよって……ワイがアホやった!」


「「「…………」」」




「小学生の妹に言われてしもうたわ……。みんな無事なのはお前らのおかげやって……。

 ワイは自分が情けない!スマンかった!ワイを殴ってくれ!!」




突然のトウジの謝罪に一同は呆然としている。

クラスメイト達も何事かと三人に注目している。




「はぁ〜〜……」

アスカが溜息をつく。


「……ったく、あんたねぇ……。

 こんなことして恥ずかしいと思わないわけ?

 バカには付き合ってらんないわよ……」

そういうとトウジとケンスケの間を抜けてさっさと自分の席に行ってしまった。

「あ、おい!」


レイもその後に続く。

「ちょ、待ってくれや綾波!」


レイは肩越しにチラッとトウジのほうを見る。

「……私はもう殴ったもの」

「え……」



確かに初号機から降りた後、トウジとケンスケはレイに平手をくらっている。

「あ、あれとこれとは話が別やろが!」


しかしレイは無視するようにさっさと窓際の自分の席に行ってしまった。

一人残されるシンジ……。


トウジはバッと振り返る。

「シンジ!!」


「あ、いや……」

「お前だけでも殴ってくれ!そうせんとワイの気がおさまらんのや!」

「い、いや、だって僕だってパイロットだって隠してたんだし……」

「そんなんどうでもいいねん!

 ワシもケンスケもお前らがエヴァの中で苦しんでんの見とったからな。

 お前らはよう戦ったやないか!それをワイは……。

 殴ってくれ!シンジ!頼む!」


「…………」

トウジに押されて困った顔をするシンジ。



「殴ってやれよ碇」

ケンスケが口を開く。



「こいつはこういうやり方じゃないと納得できない恥ずかしい奴なんだよ」

ケンスケが微笑む。


「じゃ、じゃあ一発だけ……」

「おう!思いっきりこいや!」

トウジは胸を張って腕を組む。

シンジはおずおずと拳を振りかぶった。



「待ったぁ〜〜!!」

突然声を上げるトウジに、シンジの動きが止まる。


「手加減はナシや!!」


「……わかった」

シンジはコクンと頷くと思いっきりトウジを殴りつけた。



尻餅をつくトウジ。

そのままゆっくりと立ち上がると口元を拭う。


「ありがとな、碇。これでワシら友達や」

笑顔で右手を差し出すトウジ。

「うん!」

シンジも笑顔でその手を取った。





「「「おお〜〜〜〜!!」」」

パチパチパチパチ!!

見守っていたクラスメイト達から拍手と歓声が巻き起こった。





それを自分の席から遠めで見ているアスカ。

「アホらし……」








その後シンジはミサトとのことをトウジとケンスケに問いただされることとなった。

その際、トウジはアスカとシンジが同棲状態にあることをクラスにバラしてしまい

結果的に希望通りアスカの鉄拳制裁をもらうことに成功。

おしとやかで才色兼備な美少女というイメージのアスカの暴行とシンジとの同棲は、またクラス中に波紋を呼んだのだった。


























それからというものシンジ達は平穏な生活を送っている。

昼は中学、夜はNERVで訓練。

レイは機体の修理が不完全なのでテストが中心だが、弐号機はようやく修理の目処が立ち、シンジと共に訓練にも参加している。

シンジはアスカと組み手をしたりもしたが、毎回アスカにノされている。






普段と変わらぬ朝の葛城邸。

「ねぇ〜、ミサトさん起きてくださいよ〜」

シンジはゴミの散乱するミサトの部屋でミサト起こしに奮闘している。

「今日ミサトさんが朝食当番なんですよ〜」

「ん〜……あと五分……」

「んもうっ!」



当初抱いていたカッコイイお姉さんというイメージはどこへやら。

普段家にいるミサトは信じられないほどズボラだった。

葛城家の食事は当番制なので三人で回している。

ほぼ一人暮らしと変わらない生活を送っていたシンジ以外は、料理はまるでダメなのだが

シンジが根気よく教え、それでもなんとかかんとかやっている。



「今日朝食僕が変わりに作りましたから、お願いしますよ〜」

「え、ほんとっ!?」

そういうとミサトはシンジの腕を取って布団の中に引きずりこんだ。

「うわ!」


「あ〜ん、うれしぃ〜。シンちゃんご褒美あげるわ♪」

そういうとシンジの頭を胸の谷間に押し込む。

「わ!あわわわ」

「赤くなっちゃって、シンちゃんかっわい〜!」

ミサトはシンジの頭をぎゅっと抱きしめる。

「や、やめてくださいよぅ」




ガコッ!

「んげっ!」

突然飛んできたビール缶がミサトの頭を直撃した。




「朝っぱらから何やってんのよ……」

そこにはミサトの部屋の前で仁王立ちしているアスカ。


「いたた……あによ!ビール缶投げることないじゃないのよ」

ミサトは頭をさする。

シワだらけ寝巻き姿のミサト。シンジを離してしぶしぶ起き上がある。

「早く食べないと学校遅刻しちゃうんだから早くしてよね」

アスカはブツブツ言いながらリビングに戻る。

こうして三人はようやく食卓に座るのだった。








今日の朝食は本来ならばミサトの当番だったので、スクランブルエッグにトーストという味気ないものだった。

「そういえばミサトさん、夕飯はどうします?」

朝食を食べながらシンジが口を開く。

「ああ、わたしは今夜いらないわ。リツコとちょっと旧東京のほうに行ってくるから」

朝からビール片手に食パンにかぶりつきながらミサトが答える。

「え、旧東京って沈没してるんじゃないの?」

テレビの芸能ニュースを見ていたアスカが口を開いた。

「そうなんだけどねー。物好きがお披露目会やるみたいなのよ」

「お披露目会?」



ピンポーン!


その時インターホンが鳴る。

外から元気のいい声が飛んでくる。

「「おはよう!碇くん!惣流さん!ミサトさ〜〜ん♪」」

「あ、もうこんな時間か」

シンジがカバンを取って立ち上がる。


その際、振り返ってミサトを見るシンジ。

そこにはシワだらけの寝巻き、寝癖のついた頭、ビール片手にテレビを見ているミサト。


「……ミサトさん、その格好でケンスケ達の前出ないでくださいよ」

「わかってるって!」

ミサトはおどけて胸を寄せてみせる。

「んもう!」

シンジは少し顔を赤らめて玄関に向かった。

アスカもその後に続く。



「……皮肉か。でも表情が増えてきたのはいい傾向かな。友達もできたみたいだし。

 これで前向きな性格になってくれたらいいんだけど」

ミサトの表情は穏やかだ。

「さあってわたしも着替えないと……」





















四人は通学路を並んで歩く。

先頭を行くのはアスカ。その後ろに並んでケンスケとトウジ。一番後ろがシンジだ。

「なんやシンジ。わざわざ迎えに来とるんやから、ミサトさんの顔ぐらい見せてくれや」

「ミサトさんってほーんとかっこいいよなあ。美人だし。あの歳で作戦部長ってのがまた凄い!」


「……二人は普段のミサトさん見てないからそういうこと言えるんだよ。

 ほんとずぼらだし、だらしないし!見てるこっちが恥ずかしいよ!」


ケンスケは歩きながら振り返る。

「それって俺達には見せない普段の、ほんとの姿ってことだろ?家族ってことじゃないか」

シンジは一瞬きょとんとした顔をしたが、やがてはにかむように微笑んだ。



「あんた達ミサトミサトって、あんなののどこがいいのよ。

 ここにこんなにかわいい女の子がいるってのにさ〜」

アスカは赤い髪を掻きあげる。

朝日を浴びたアスカの横顔は確かに美人としか言いようがない。


「アホか!おまえみたいな根性ババ色の女のどこがええねん!」

「いや、でも惣流は美人だよ。写真の売り上げも、うなぎ上り!もう大助かりさ」

そう言ってケンスケは写真のネガをバラッと広げた。

そこには明らかに盗み撮りしたと思われる笑顔のアスカ。

スクール水着やブルマ姿のアスカも写っている。

「な!?なにやってんのよこのヘンタイ!!」

バキッ!!

朝の通学路にケンスケの悲鳴が響き渡るのであった。












一部まじめな生徒を除き、普段の学校の授業は退屈極まりない。

以前のシンジもそうであったが、ここ最近は授業に集中している。

NERVの訓練でなかなか授業に参加できないので、その遅れを取り戻すためでもあるのだが

こうして何気ない普段の日常というのがとても貴重なことのように思えるからだ。



命をかけて戦ったあの使徒戦が嘘のようだ。

隣を見るとやや退屈そうにしながらもマジメにノートPCに向かうアスカ。

よく見ると授業の内容よりも、使われている漢字に苦戦しているようだ。

窓際のレイも静かに座り授業を聞いている。

廊下側の席には机に突っ伏して夢の世界に旅立っているトウジ。

その横で明らかに授業とは関係のなさそうなソフトに熱中しているケンスケ。

至極当たり前。日常的な景色……。


でもこうして中学生してるの時間てすごく大切なことなのかも……。

これが加持さんが言ってた失ってわかるものってことなのかな……。

今日の授業もあっという間に終わりそうだ。

























旧東京都心、第28放置地区。

そこに建設された国立第三試験場。

そこの式典にリツコとミサトは参加していた。

リツコはスーツ。ミサトは仕官用のNERVの制服を着ている。


パーティー会場にかけられた横断幕には「祝 JA完成披露記念会」と書かれていた。

会場ではいくつかの円形テーブルに大勢の招待客が来ているが

「ネルフ御一行様」と書かれたテーブルにはリツコとミサトのみ。

明らかに形式上の招待だと言うことがわかる。



「………というわけで、JAは非常に優れた性能を持っていることをご理解いただけたかと存じます。

 何か質問はございますか?」

ここの責任者、時田のスピーチが終わった。


「はいっ!」

リツコは立ち上がり手を高く挙げた。


「これはこれは赤木リツコ博士。わざわざご来場いただき光栄の至りです」

「質問、よろしいですか?」

皮肉めいた物言いにもリツコは動じない。


「内燃機関内臓とありますが、格闘戦を前提とした兵器にリアクターを搭載することは、リスクが大きすぎると思われますが?」

「長時間作戦行動可能なのもJAの優れた特徴の一つです。五分しか動かない決戦兵器よりは役に立つと思いますよ」

「敵生体を殲滅するにはNERVの主力兵器以外ありえません」

「ATフィールドですか?我々が何も知らないとでも?

 日々着実に解析は進んでいます。これを解明する日もそう遠くはないでしょう」


時田は極秘と書かれている資料を開いて見せる。

そこにはATフィールドを展開する零号機や、暴走する初号機の白黒写真。


「パイロットが精神汚染の危機に晒される兵器。

 さらに暴走の危険性があるとは……まったく手に負えませんね。

 ほんと……ヒステリーを起こした女性と同じです。手に負えません……」


時田の皮肉たっぷりのコメントに会場中から苦笑が巻き起こる。

リツコはワナワナと体を震わす。

「やめなさいよ〜……大人気ない……」

ミサトはとなりでストローを口に咥えて頬杖をついている。





質問会が終わり、公開起動テストに入るジェットアローン。

「見せてもらおうじゃない?あんだけ大口を叩ける実力ってやつをさ」

ミサトは双眼鏡で大きなJA格納庫を睨む。

格納庫が二つに割れ、クジラの歯をイメージさせる顔のついた巨大なロボットがあらわになった。



「動力臨界点突破」

「出力問題なし」

「歩行、微速前進」

「ヨーソロー!微速前進、右足前へ!」


やや緩慢だが、確実な動作で一歩を踏み出すJA。


「へぇ〜ちゃんと歩いてるじゃない」

双眼鏡を覗きながらミサトは本気なのか冗談なのかよくわからないコメントをする。



その時背後の司令室が慌しくなる。

「おかしいです!リアクターの内圧が急激に上昇していきます!」

「な、なんだと!?」

時田が慌てて振り返る。




リツコは密かに口元を吊り上げた。































シンジの中学では午前中の授業が終わり、昼休み。

「さあ〜メシやメシや!ケンスケ、売店行くで」

トウジは嬉しそうに立ち上がって手を鳴らした。




その時アスカの声が教室に響く。

「えええ〜〜〜〜〜!!!」

アスカは困った顔をしているシンジを睨みつけている。


「あたしのお弁当作ってないですって〜!?」

「だって、しょうがないじゃないか!

 今日はミサトさんが当番だったんだし。僕だってお弁当持ってきてないよ」

「バカシンジはやっぱり使えないわね!」


それを見ていたトウジが一言。

「なんや、夫婦ゲンカかいな……」

クラス中がドッと笑う。


「「そんなんじゃない(わ)よ!!」」

真っ赤な顔の二人のユニゾン。






ピピピピピッ!!

突然シンジの携帯が音を鳴らす。

慌てて携帯を取り出すとそこには「非常召集」の文字。


「なに!?非常召集!?」

アスカがシンジの携帯を覗き込む。


「みたい。……でもおかしいな。使徒ならアスカと綾波にも召集かかりそうだけど」

「そう言えば、そうね」


























NERVに着くなりシンジは初号機ごとウィングキャリアーで輸送された。

「いい、シンジ君。目標はこれ」

モニターには体から煙を噴出しながら早足で歩行する巨大なロボット。

「ロボット?」


「そう。名前はジェットアローン。起動テスト中に暴走を起こして第三新東京市のほうに向かっているわ。

 核融合炉を搭載していて、このままじゃ街の人達が被爆する可能性があるの」

「……どうするんですか?」

「中に入って直接止めるわ。責任者から全てを無効にするデリートパスワードを聞き出してきたから」


「……おやめなさいよ。葛城二尉」

リツコが口を挟む。

「ニイ?ミサトさんって一尉じゃ……うわあいててて」


ミサトはゲンコツでシンジの頭をグリグリと挟む。

「しばらくニイの話は禁止だから♪」

顔を引きつらせながらミサトは笑顔で言う。


「ミサト、もう融合炉は10分と持たないのよ?」

「あんたまだそんなこと言ってるわけ?このまま第三新東京市で爆発したらどうすんのよ?」

「…………」

リツコは答えない。

(それはないのよ葛城二尉……なにせあれを仕組んだのは他ならぬこの私なんですからね……)




「そ、そんな!直接だなんて危険ですよミサトさん!」

「大丈夫。エヴァにはATフィールドがあるからシンジ君は助かるわ」

「じゃなくって、ミサトさんが!」


「……ま、やれる時やれることやっとかないとね。後で後悔しても後味悪いだけだから」

その言葉にシンジはハッと目を見開いた。

















「初号機ドッキングアウト!」

低空から切り離された初号機は土煙を上げて着地する。

左手の上に防具服を着たミサトを乗せている。

ウィングキャリアがゆっくりと上昇し旋回していく。

初号機はJAに向かって走る。




ミサトを乗せているので多少加減はしているが、起動間もないシンジですら軽く300kmオーバーを叩き出すエヴァンゲリオン。

JAとの差はみるみる縮まる。




「もう少しで追いつけそうだ。ミサトさん、いいですか?」

「ええ、捕まえたらそのまま取り押さえてちょうだい。わたしはハッチに移してくれればいいから」




あともう少し……。

あと数歩で届く……。






ウィングキャリアではマコトの隣で、リツコが冷めた目でその様子を見守っている。






初号機の手がJAの背中にせまる。



「よしっ!届いた!」





だが次の瞬間、ミサトとシンジはもちろん、リツコでさえも予想していなかったことが起きる。











ガッキィーーン!!!







突然JAから展開される不可侵の絶対領域。








「なっ!? ATフィールド!?」


初号機の手を阻むように、オレンジ色に輝く小さな光の壁が、幾重にも重なって展開されていたのだった。












+続く+






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