■ HOPE 第九話 「BEAST」




「状況は芳しくないわねぇ……」

ミサトは発令所でモニターを見つめている。

スクリーンには第3新東京市の地面に体を埋めている使徒が映し出される。

底部の節足で土砂を犬掻きのように掻き出し、後方には土砂の山ができあがっていた。


「18番シャフトから進行中です。シャフト内にベークライトを注入したので足止めにはなったでしょう。

 MAGIの計算では32時間後に全ての特殊装甲板を破壊して、ここジオフロントに到達する計算です」

マコトが報告する。


ミサトはマイクのスイッチを押す。

「リツコ?弐号機の状態は?」

「……ひどいものね。外部装甲の32%以上が融解。生体部品の神経系統にダメージがあるわ」

リツコの前には半分解けて黒焦げの弐号機が修理ドッグに格納されている。

 
「装甲は交換できたとしても生体部品はここじゃ調達できない。

 とても32時間でどうにかできる状態じゃないわ」


今度は青葉に顔を向ける。

「パイロットのほうは?」

「……一瞬ですが、シンクロカットが遅れました。

 神経パルスはようやく安定してきましたが、意識が戻りません。

 ファーストチルドレンとサードチルドレンはブリーフィングルームで待機しています」

「そう……」

ミサトは一瞬目を伏せた。


ミサトはもう一度マイクのスイッチを押す。

「で、マヤちゃん?服のほうはどうなの?」

「急増仕上げの突貫工事ですからね。でも32時間以内には十分間に合います。

 剣と銃のほうも。テスト段階には入っていましたから」

マヤが顔を上げる。

そこには白い光沢を放つ布のようなものを、包帯のように巻かれている初号機の姿。

「結構。日向君、わたしはリツコのとこ行ってくるから、あとよろしく。

 初号機の準備ができ次第作戦開始よ!」

















ブリーフィングルーム。

一度シャワーを浴びたシンジとレイは、新しいプラグスーツを着て隣同士に座っている。

シンジはやや俯き加減で手元のジュース缶に視線を落とし、

レイはまっすぐ背筋を伸ばして前を見ている。


「トウジとケンスケ……どうなったのかな」

「…………」

レイは同じ姿勢のまま何も答えない。



「これから、どうなるんだろ……」

シンジの顔は暗い。


「使徒は依然進行中。葛城一尉が作戦を立てているわ……」

「また、アレと戦うのか……、こんな思いしてまで……」

「そうね」

「…………」

レイの言葉は素っ気無く、感情が感じられない。



「いやだ………」

シンジは俯きながら呟く……。

「……怖い……」

両手で肩を抱く……。


「もうあんな思いしたくない!!」

感情を爆発させるシンジ。


「……なら、逃げればいい。あなたには選択権があったのでしょう?」

『選択肢があるというのは幸せなことなんだよ』

シンジはハッと目を見開く。



「…………」

「…………」



















「アスカ……大丈夫かな……」

シンジがぼそりと呟く。

「……弐号機は中破、パイロットは意識不明。集中治療室にて治療中」

まるで何かの報告書のようなレイの答え。

もちろんシンジが期待していたのはそんなものではない。

シンジは手の中の缶をカコっと少しヘコませる。


あの時……あの時僕が躊躇なんかしてなければ……。

アスカは僕を庇って怪我をしてしまったんだ………。


トウジ達に気をとられたシンジは躊躇してしまった。

トウジに自分がパイロットと知られることを恐れた。

その結果がこれだ……。

アスカは未だ意識が戻らず、予断を許さない。


…………。

後悔。

あの時僕がもっとうまくやっていれば……



シンジの脳裏に加持の顔がフラッシュバックする。

『君に後悔して欲しくないからだ。あの時こうしていれば……ってね』


「くっ……」

グシャ

ジュース缶を完全に握りつぶす。


僕はバカだ……。

自分のことばかり考えて、逃げることばかり考えて……

加持さんの言葉の意味もよく考えずに……、アスカも傷つけてしまった。

今だってそうだ。

恐怖に駆られてただ震えているばかり……。

綾波の言うとおり、選んだのは僕だったはずなのに……。

後悔しないためにここにいるはずなのに……、今は後悔することばっかりだ……っ!!








「……碇君」

内罰的思考に陥っていたシンジにレイが声をかける。

シンジが顔を上げてレイを見る。

「余計なことは後で考えればいいわ」

紅い瞳はまっすぐシンジの瞳を見つめている。

「余計……な……こと……」

シンジは少し俯く。



更衣室でも見た教本。シンクロ率について……。

今のシンジに迷いがあれば、初号機とのシンクロ率に影響が出るかもしれない。

レイの余計なこと、という物言いは、シンジにとって気持ちのいいものではなかった。

だが現にその余計な考えがアスカを窮地に追いやってしまったのだから。

「……考えることは、後でもできるわ……」



死んでしまえば考えることさえできなくなるのだから。

シンジはなんとなくレイの物言いが加持の言葉と重なる気がした。



「そういえば……」

シンジが顔を上げる。

「綾波に聞きたいことがあったんだ」

レイが視線をシンジに向ける。

「……なに?」

「あのさ、綾波は……」


プシュ

軽い圧搾音を上げて扉が開き、ミサトとリツコが入ってきた。


「作戦が決まったわ」


























部屋はその持ち主の心を映すという。

この部屋の持ち主の心も、この部屋と同じように薄暗い闇が覆っているのだろうか。


NERV総司令司令室。

暗い部屋の天井には神への道を示すというセフィロトの木が青白く浮かび上がっている。

だだっ広いその部屋に一つ置かれた大きな黒い机。

ゲンドウは白い手袋を口の前に組み、まっすぐ前を見据えている。

手元には何枚かの資料が広げられていた。

「君には借りができたな……」

目的のためには手段を厭わず、己の息子さえ利用する。

サングラスをかけた瞳の奥には、一体どんな感情が隠されているというのか。



「返すつもりもないんでしょう?」

男は余裕のある微笑を湛えたまま、窓の外を見ている。

ゲンドウの前で彼のように冗談めいた口調で話をできる人間はそうはいないだろう。

「……彼らが情報公開法をタテに迫っていた資料ですが、ダミーを混ぜてあしらっておきました。

 政府は裏で法的整備を進めていますが、近日中にこちらも頓挫の予定です。

 例の計画のほうもこちらで手を打ちましょうか?」

「いや、君の資料を見る限り問題はないだろう」

ゲンドウは手元の資料、そこに写っている白黒写真に目を落とす。


「ところで……」

窓の外を見ていた男、加持リョウジは目線をゲンドウに向ける。

「よろしいんですか?こんな所にいらっしゃって……」

こんな所、などと言うのも無理はない。

使徒は未だ殲滅には至らず、弐号機は中破しているのだから。


「使徒殲滅は葛城一尉に任せてある」

ゲンドウは同じ姿勢のまま、気に留めた素振りも見せない。

「殲滅作戦は失敗し、第五使徒は未だ進行中とのことですが?」

加持はどこかゲンドウを試すような口振りだ。

「この程度で躓くようなら、人類は未来など手に入れるべき存在ではないのだよ」

「…………」

加持はまた視線を窓に戻す。

その表情は険しい。



















シンジとレイはモニターを見つめる。

そこには土砂に体を埋もれながらも潜行を続ける第5使徒。


リツコが口を開く。

「MAGIの解析によると、使徒の体の80%は発電器官で構成されていることがわかりました。

 その発電電圧は約5億ボルト。アスカが切断した使徒の腕を解析した結果

 光のムチはプログナイフと同じ高振動粒子であることがわかったわ。

 現在使徒は18番ゲートから潜行中。約24時間後にはジオフロントに到達する計算よ」


今度はミサトが口を開いた。

「アスカはまだ意識が戻らないの。

 だからシンジ君とレイで殲滅作戦を実行してもらうことになったわ」

シンジがゴクリと唾を飲み込む。


「まず当面の問題はあの電撃。そこでこれを用意したの」

リツコは手元のキーボードを叩いてモニターを操作する。

モニターには宇宙服のようなものを着ている初号機。

顔のあたりに空いている覗き窓からは白い布状のものでぐるぐる巻きにされている初号機の顔が見える。



「弐号機以降のプロダクションモデル用に開発されたD型装備を改造したものよ。

 D型装備の外装自体は電気を通すけど、初号機を強力な絶縁体でコーティングしてあるわ。

 さらにスーツの中にも液化した絶縁体を循環させる。

 スーツで電流を地面に逃がした上で、この絶縁体で絶縁すればあの電撃にも耐えられる……はずよ。理論上はね。

 先の戦闘でパレットライフルじゃ破壊力が足りないことがわかったの。

 そこでシンジ君にはこれを使ってもらいます」

リツコがキーボードを叩く。

そこには大きな片刃の剣。

「これはアクティブソード。原理はプログナイフと同じ高振動粒子よ。

 試作品として開発してあったのを無理矢理完成させたの。

 プログナイフと同等のパワーで使徒の外皮を破壊することができるのは、アスカが証明してくれたからね。

 シンジ君はこの剣とD型装備で近接戦闘。コアを破壊してもらいます」



レイが手を挙げる。

「……私は何をすれば」


モニターに映し出される零号機。

右肩のウェポンラックが外され、肩パーツと一体になった白い銃火器が装着されている。


「これはEVA専用試作20型陽電子砲。

 これで使徒に致命傷を与えることはできないかもしれない。

 でも加速した陽電子は使徒の放電を妨害する効果が期待できるわ。

 レイはこれで使徒を足止め。シンジ君をサポートしてもらいます」


リツコは一度言葉を切るとシンジを見る。

「D型装備は本来プロダクションモデル用に開発されたもの。

 それをステーなどで無理矢理初号機に取り付けたの。だから機動力はかなり落ちてると思ってちょうだい」


「あの……質問いいですか?」

シンジが手を挙げる。

「言ってごらんなさい?」


「その、D型装備っていうので使徒に攻撃する役のほうが重要そうに見えるんですけど……。

 動きが鈍くなるなら綾波のほうが適任なんじゃないんですか?」


「いいえ。今回高い技能が必要とされるのはサポートのほうよ。

 零号機でも初号機でも、D型装備で動きが鈍くなるのは避けられない。

 だから使徒と戦うには、使徒を足止めできるだけの腕のいいサポートが必要不可欠になるわ。

 シンクロ率も射撃の腕もレイのほうが上。だからレイにはサポートにまわってもらうの。

 レイの射撃が命中して、使徒が怯んだ隙を逃さないようにね。

 結局の所、使徒の懐に入ってソードかナイフであのコアを破壊することが目的になるわ」


「他に質問は……?」

ミサトがシンジとレイを見る。


「…………」

「…………」


「じゃ、さっそく始めるわ。ケージむかってちょうだい」





















日はすっかり沈み、夜の闇が覆っている。

時間は深夜0時を回って、日付が変わってしまっている。

月は出ていない。






ゴォォォ……ガゴン!!

ビルの中から不恰好なダイバースーツのようなものを着た初号機が姿を現す。

その右手には無理矢理溶接したような巨大なアクティブソード。

同時に使徒を挟んだ対角線上にも大型の陽電子砲を装着した零号機が飛び出す。

ちょうど使徒を挟み撃ちするようなフォーメーションだ。


使徒は自身の空けた巨大な穴からゆっくりと這い出ると、鎌首をもたげて右手だけになったムチをくねらせる。


発令所のミサトが使徒を睨む。

「さあ、いくわよ…………!作戦開始!!」




初号機が使徒に向かって突進する!

「くっ……動きにくい!」

時速300kmを超える俊足とは程遠い、もたついた足取り。

一歩踏み出すごとに緑色の絶縁液がタプンタプン揺れる。


零号機は素早く機体を横に移動させ、初号機を射線からはずす。


ズバッ!

夜の闇を切り裂く陽電子の光。

使徒の体がくの字に曲がって吹き飛ばされる。



「やった!効いてるわ!」

「しかしやはり致命傷には至らないようです」

マヤが報告する。

「構わないわ。あれで足止めになればいいんだから」



ピピピピッ……

レイのプラグ内で陽電子砲のチャージ・インジケーターが点滅している。

エヴァのケーブルから直接電力を取り入れているが、陽電子の加速時間が必要なため、連射がきかないのだ。



使徒は緩慢な動きで立ちあがると、ムチを零号機に飛ばす。

レイはそれを大きなサイドステップで避ける。


そこに使徒のもとに到着した初号機が、背後から袈裟懸けに斬りつける!

「うあおお!」

ズシャァー!!


使徒の背中から体液が噴き出した。

「いいわシンジ君!そのままコアを破壊して!!」



しかし使徒はくるりと初号機のほうに向き直ると初号機の首にムチを巻きつけた。

ブゥゥン……


バチバチバチバチッ!!

そのまま初号機に電撃を放つ!


D型装備の外装から激しく火花がスパーク。

「く……う……」

シンジのプラグ内で照明が明滅する。

しかし……短時間なんとか耐えられそうだ。


「碇君ッ!」

零号機が陽電子砲を放つ。

使徒がふっとばされ、その拍子に初号機からムチが外れた。

ズシィーン……

盛大に土煙があがる。


「その調子よ!今度レイの射撃が命中したらその隙を狙って!」

「了解!」


シンジはレバーを握りなおし、アクティブソードを目の前に構えた。



その時突然土煙の中からムチが飛んでくる。

シンジも十分注意していたのだが、使徒のムチは目で追うのも辛いほど速い。

「う、うわ!」

回避を試みるもD型装備では動きが拙い。

しかしそのムチは初号機自体を狙ったものではなかった。

シュパンッ!!


アクティブソードが付け根から切り落とされた!

「しまった!」



陽電子砲でも致命傷にはならない硬い外皮。

アクティブソードがナイフで直接コアを破壊するしかない。

だがアクティブソードは使徒によって切り落とされてしまった。

かと言ってD型装備ではナイフを取り出すことができない。



「ミサトさんどうすれば!?」

「レイ!ナイフをシンジ君に渡して!」

「了解」

零号機が駆け出す。




使徒は初号機を上から見下ろすような格好。

シュパンッ! シュパンッ!!

右から左から。ムチの洗礼で初号機を追い詰める。

「くっそ!」

シンジは体をくねらせ、ギリギリのところでかわしている。




ズバッ!

零号機が走りながら陽電子砲を発射した。

使徒はそれをひょいとよける。



すると使徒は目の前に転がっている初号機の足首にムチをかける。

「う、うわ……」

そしてこちらに向かって駆ける零号機に向かって軽々と投げ飛ばしたのだった。



「うわああ!」

「きゃああ!」


ドドドドォォンン……。


絶縁液で満タンのD型装備初号機が零号機に激突する。

キリモミ状態で地面を転がる二機のエヴァ。

今度はエヴァのほうが土煙を上げて地面に伏す。




使徒はその煙の中に横たわる零号機、その首にムチをかけ引きずり出す。

そしてそのままゆっくりと、以前の弐号機のように持ち上げた。

締め上げられる苦痛にレイの顔が歪む。


ブゥゥゥン……

辺りに響く低い音……。


「使徒の放電来ます!!」

青葉が叫んだ。


「綾波ぃッ!!」

「まずいわ!!プラグ射出!!」

零号機の脊髄からロケット噴射でプラグが緊急射出された。



バリバリバリバリ!!

零号機の体から激しく火花がスパークする。



間一髪。

レイの脱出はなんとか間に合ったようだ。

プスプスと黒焦げになった零号機。

まるで壊れたおもちゃに飽きたかのように、使徒は零号機をポイと投げ捨てる。

そして足元に倒れこんでいる初号機のほうを振り向く……。

「う……うわあ!」

「シンジ君落ち着いて!電撃なら耐えられる。予備のソニックグレイブを出すから受け取って!」

ミサトが手元のパネルを叩く。

すると兵装ビルの一つが開いた。

シンジのプラグの中でも地図でその場所が表示された。


「シンジ君!ほら立ち上がって!早く!」

発令所にいるミサトがせかすようにパンパンと手を叩く。


立たないと……。

初号機は緩慢な動きで立ち上がろうとする……。






その時、初号機に電撃が効かないことを学習したのか、使徒は今までにない動きを見せ始める。

ムチをくるくると螺旋状、まるでバネのような形にムチを巻く。

そして一度そのバネを縮めると……


ズガンッ!!

一気に初号機の頭に撃ちこんだ。



「ぐわああ!!」

シンジが両手で目の上あたりを押さえる。

「シンジ君!」

ミサトの顔が歪む。



ズガンッ!!ズガンッ!!!

使徒のバネのパイルは止まらない。


バキン……。

D型装備の頭部、覗き窓のに亀裂が走る。

「シンジ君まずいわ!D装備が破壊される!お願い!逃げて!」


ズガンッ!

ズガンッ!!


使徒は一際大きくバックスウィングすると、頭部の亀裂を目がけ……



ズガンンッッッッ!!!!!



使徒のムチのパイルはD型装備ごと初号機の後頭部を貫通した。

そしてさらに……


ブゥゥゥン……

不気味な低い音。


「シンジくんッ!!!!!!!!!」


バリバリバリバリバリッ!!!

絶縁体を突き破った使徒のムチが、激しくスパークしたのだった。









「頭部破損!損害不明!」

「生体部品にダメージ!制御神経次々と断線していきます!」

「パイロット応答ありません!」




動かなくなる初号機。

使徒はゆっくりとムチを引き抜く。

ガクリとコウベを垂れる初号機。


ブシュー!!

穴の開いたD装備の覗き窓から激しく体液を噴出する。


「リツコ!プラグ射出は!?」

ミサトがリツコに振り返る。

「だめだわ!D装備に阻まれて射出できない!」


使徒は興味を無くしたように初号機を離れると、体を返して18番シャフトへと向かう。






ミサトは自分の体が震えてるのを感じる。

強い……この使徒は今までものとは比べものにならないぐらい強い……。

早々にエヴァンゲリオン三機を配備することができた。

その中にはあのドイツのエースパイロット、惣流・アスカ・ラングレーもいた。

しかしながら、この現実……。

エヴァンゲリオンは三機とも沈黙。

そしてパイロットたる14歳の少年少女はファーストチルドレンを残し重傷。

シンジに関しては生死もわからない。

依然使徒は18番シャフトから進行中……。

シンジを助けたくても、使徒があそこにいられては近づけない。

助けようにも満足に動くエヴァももうない。


わたしは……無力だ……。

ここまでなの……?


ミサトは振り返って司令塔を見上げる。

そこにいるのは冬月のみ。いるべきはずの司令はいない。

冬月はじっとモニターを睨んでいる。



あの時、碇司令はわたしに全てをまかせると言った。

わたしはその期待には応えられなかった……。



「ふ……副指令……」

ミサトは俯き加減に搾り出すような声を上げる。

冬月は後ろに手を組んで、目線だけをミサトに向ける。

「殲滅作戦は失敗しました……。この上は本部ごと……」

ミサトがそう言いかけた時マコトが声を上げた。

「しょ、初号機再起動!!?」

ミサトが慌ててスクリーンを見る。





初号機がゆっくりと頭を持ち上げる……。

覗き窓からはゆらゆら揺れる絶縁液と体液が交じり合った液体……。

その中で初号機は……その顎を開放した……。










咆哮。





















グォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!



初号機は立ち上がると自分の左肩に右手をかけ、無造作にD型装備を破き捨てた。

辺りに初号機の体液と、緑の絶縁液が飛び散る。



「顎部拘束具を引きちぎってます!」

「シンクログラフマイナス!パイロット意識不明!!」

「信号拒絶!制御不能!」



「ま、まさか…………」

リツコが呟く。

ミサトがリツコを見る。

「暴走!?」


「し、信じられません!生体部品、次々と再生していきます!!」





「……勝ったな」

誰に言うわけでもない。冬月はポツリと一人呟いた。











初号機の咆哮に気づいたのか、使徒は振り返る。

しかしそこにあったのは、初号機の巨大な右拳。

ドガッ!!



中身を撒き散らして使徒の顔、右半分が消しとんだ。

吹き飛ぶ使徒を追って、初号機が走る。

地面にバウンドした使徒のコアに右足の踵を落とす。

バギッ!!

使徒がビクビクと体を痙攣させる。




そのままコアに右拳を叩きつける。



殴るというにはあまりに粗暴。

ただ握り締めた右手をぶっきらぼうに振り上げ、振り下ろす。

コアは二つに割れ、その輝きを失いかけている。

それでも初号機は止まらない。


暴行現場から数キロ離れた地点。

エントリープラグを出たレイが表情のない顔で紫の破壊を見守っている。

LCLに濡れた髪が風に当たり、夜空に雫を散らす。













叩く!叩く!!


圧倒的な初号機の力。

もう随分前から使徒はピクリとも動いてない。

あたりは絶縁液と紫色の使徒の体液で染まっている。

初号機はようやくその暴力に満足したのか、馬乗りになっていた使徒を離し、立ち上がり……






月のない夜空に吼えた。








絶縁体を包帯のように巻いたその姿は、何かの断罪者のようにも見える。

ミサトもオペレーター達も、言葉もなく、ただただ、その怒りの咆哮を見守るしかなかった。













+続く+






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