■ HOPE 第八話 「使徒襲来」




シンジは更衣室でプラグスーツを装着している。

「…………」

あの時のトウジとアスカの様子を見れば、屋上でなされた会話の内容はある程度推察できる。

アスカは僕もパイロットだって言ったんだろうか……。


視界の片隅にぶ厚い書類が目に入る。

極秘のスタンプが押されたチルドレン用の教本。

『シンクロ率はパイロットの心理状態に左右され……』


そうだ……、今はこんなことを考えている場合ではない。

本物の使徒が来ているのだ。


「集中しないと……!」

シンジはスーツのフィットボタンを押した。




















「ただいま東京地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。

 すみやかに指定のシェルターに移動してください」

次々とビルが地面に沈み、戦闘体制に移行する第三新東京市。

その中を紫色の巨大なイカのようなものが、宙に浮きながらゆっくりと向かってきている。


その様子を腕組みしながら、ミサトは発令所のスクリーンで見ている。

「まったく……この忙しい時に。こっちの都合はお構い無しなのかしら」

「前回の海上戦から、たった4日しか経ってませんからね」

マコトが言う。

「……女性に嫌われるタイプだわ」


山腹に偽装されていた兵器ポットからミサイル群が発射され、ロープウェイからは対空兵器が火を吹いている。

しかし使徒はまるでそんなものは存在しないと言わんばかりに、悠然と爆風の中を前進する。


「やはりATフィールドか。税金の無駄使いだな……」

冬月がボソリと呟く。


ミサトはサブモニターに目をやる。

そこにはエントリープラグに入った三人の少年少女。

レイは静に目を閉じ、アスカは余裕のある微笑を湛えている。

シンジは緊張しているようで、右手を開いたり閉じたりしている。


「いい?あなた達。もう少ししたら殲滅作戦が始まるわ。アスカが先鋒。シンジ君とレイはライフルでバックア
ップ。いいわね?」

「「了解!」」

「ま、当然よね。あんた達、あたしの足ひっぱるんじゃないわよ」


「戦略自衛隊指揮権をこちらに譲渡。エヴァの出動要請が出ています」

マヤの報告が入る。


「……うるさいやつらね。言われなくても今出すとこよ」

チラっとマコトに目線を送る。マコトが頷く。



ミサトは目を閉じ、一度大きく深呼吸をした。

「エヴァンゲリオン、発進!!」




















第334地下避難所シェルター。

シンジのクラスメイトはここに収容されている。

第3使徒襲来以前から定期的にここで非難訓練を行ってきたためか、第壱中の生徒達はどこか危機感が足りない


各々好きな人同士が集まって、トランプゲームをしたりして雑談に花を咲かせている。


トウジとケンスケは壁によりかかって座り、浮かない顔をしている。

『あんたの言ってることは甘々なの!こっちは命かけてんのよ!』


「………はぁ」

トウジは溜息とつく。


「……やめろよなあ、人の隣でそんな顔するのはさー」

ケンスケがジト目でトウジを見る。

「そない言うてもやなあ……ん、ケンスケお前何しとんのや?」

「んー?」

ケンスケはビデオカメラを覗きこんでいる。

「これTVチューナー内蔵なんだよ。なんとか外の様子見れないかなと思ってさ」

「な、なんやて!」

「あ、ちょっと!」

トウジはケンスケから強引にカメラを奪って覗きこむ。

「なになに……? 詳しい情報は入りしだい……何やこれ!外の様子映ってへんやないけ!」

「そう。俺ら一般人はカヤの外ってことさ」

ケンスケは残念そうに息を吐く。

トウジも不満そうに腕を組んでいる。


……

ケンスケはそんなトウジを横目で見る。


「……なあトウジ」

「なんや」

トウジは不機嫌そうに答える。

「外に出てみようぜ…」

「な!なんやて!!……ん、むぐ」

ケンスケは慌ててトウジの口を手で塞ぐ。

「シー!声がでかいって!」

ケンスケは手を離す。


「だってそうだろ?このままここにいて、トウジは納得できるのかよ?」

「…………」

ケンスケの言葉に、トウジは腕を組んだまま少し上を見る。


「……な?ロックボルトはずすの手伝ってくれって」

トウジは頭をポリポリと掻く。

「ほんまうまいこと言いよるでケンスケは。自分の欲求に素直なやっちゃの……」

トウジは立ちあがる。

「何言ってんだ。大事な親友のためだろ」

ケンスケも笑いながら立ちあがる。



「イインチョー!」

「……なによ?」

トランプに興じてたヒカリは不満そうに声を出す。

「ワシら二人、便所やっ!」

「んもうっ!ちゃんと済ませておきなさいよね」




















ゴォォォォ………ガゴン!

ビルに偽装されたリフトから弐号機が飛び出す。

そのまま天井に手をかけ、体を振って反動をつけると逆上がりするようにビルの上に飛び乗った。


日差しを浴びて光を反射する紅い機体。

まるでスポーツカーのような、洗練された美しさがそこにはある。


ビルの上に立った弐号機の手には大型の槍、ソニックグレイブが握られている。



ガゴン!ガゴン!


ほぼ同時に初号機と零号機もビルから飛び出す。

その手にはパレットライフルが握られている。

使徒を中心に三角形に使徒を取り囲む三機。

使徒もそれに気がついたようで、鎌首をもたげるように体を起こす。

体の下から隠されていた大きな二本の前肢が露になる。






「はぁはぁ……ケンスケ、お前早過ぎるで……」

裏山の中腹にある神社へと続く階段を、ヘロヘロになりながらトウジは上る。

「うわー!見ろよ、本物のエヴァンゲリオンだ!」

ケンスケは目を輝かせて飛び跳ねている。とても全力疾走の後とは思えない。

「げー、あれが使徒ちゅうやつか。気色わるぅー…」

トウジはゲンナリした顔で言う。

「ん……?おい、ケンスケ、エヴァって三体おるぞ?」

「待ってくれ、今いいとこなんだ!」

ケンスケは撮影に夢中だ。

「パイロットは惣流と綾波やろ……?あと1人は誰や?」

ケンスケはカメラから目を離す。

「そういや……そうだな……?」










アスカがレバーを両手で握り締める。

「よーく見てなさい。誰が一番なのか、教えてあげるわ!」

そういうと弐号機はソニックグレイブを手に大きく跳躍する。

昨日の訓練で見せたような、高い高い跳躍。

「でぇぇーーい!!」

空中でくるりと前転すると、そのまま使徒に襲いかかる。

「真っ二つにしてやるわ!!」


しかし使徒もそれに気がついたように、上空を見上げる。

前肢からしゅるりとピンク色に発光する光のムチのようなものが出てきた。


な……に……!?

アスカは本能的にその危険を察知した。

「くっ!!」

左手のトリガーを引く。

エヴァの両肩に装備されている平たいウェポンラック。

その側面から姿勢制御用の補助スラスターが起動する。

バシュッーー!!

空中でわずかに軌道が変わる。



シュパン!!

弐号機の体をかすめるように光りのムチが通り過ぎた。


手にしていたソニックグレイブが真っ二つに分断されている。

スラスターを点火していなければ胴体が切断されていただろう。


この切れ味、高振動粒子か……!


使い物にならないグレイブを空中で投げ捨てると、そのまま着地する。

……しかし使徒に斬りかかろうとしていたため、着地した場所は使徒の目の前。


武器は折れてしまっている。

その上今いる場所は使徒の懐、あのムチの射程圏内だ。


「チッ!先読みされてた!!」

アスカは舌打ちをする。



「アスカ!!」

シンジが叫ぶ。

目標をセンターに入れて…………

「スイッチ!!」

ズガガガガガガッ!!

ライフルの強い反動が、フィードバックを介してシンジにも伝わる。

フルオートで弾頭を撃ちこみまくる。

「うおああああ!!」



「シンジ君、落ち付いて!」

ミサトが叫ぶ。

「うあああああ!!!」

興奮したシンジの耳には届かない。


ズガガガガガッ!!

吸いこまれる様に使徒に次々と着弾する、劣化ウラン弾の弾幕。



「止めなさいバカシンジ!!着弾の煙で目標が見えない!!」

爆煙の中から弐号機が飛び出してきた。

アスカの怒鳴り声にはっと我に返るシンジ。



煙が立ち込め、使徒の姿は見えない。





が、次の瞬間。

煙の中から光のムチが飛んできた。

「う、うわっ!!」

シュパン!!


初号機のパレットライフルが真っ二つに分断される。

突然の攻撃に、初号機はそのまま尻餅をついてしまう。

「あ……あうう……」

腰が抜けたようにその場で動かない。



「な、何やってるのシンジ君!転んだら立ちあがる!昨日やったばかりじゃない!」

ミサトが怒鳴る。


その様子を見ていたトウジとケンスケ。

「なんや、やられてもうたで……?」

「いや、まだまだこれからさ!」

ケンスケが舌舐めずりする。



初号機に追い討ちをかけるように光りのムチがシンジを襲う。

シュパン!!

「うわあ!!」

辛うじて機体を横転させるが、ケーブルが切断されてしまう。

バチバチバチッ!!


ビーッ!ビーッ!ビーッ!!

シンジのプラグの中に警報音がけたたましく鳴り響く。

『活動限界 4:48』

プラグのスクリーンに地図と青い点が表示された。


「ああ……う……」

シンジの顔には恐怖が張り付いている。

「シンジ君!シンジ君!早く立ちあがって!」

(怖い……)

「あと4分半しかない!」

(い……いやだ……)

「はやくソケットを繋げないとまずいわ!」

(死にたくない……!!)



「チッ」

ミサトは口の中で小さく舌打ちする。

シンジは恐怖で動けなくなっている。使い物にならない。



「レイッ!援護して!」

「了解」


ズガガッ!

使徒に向けて、横方向に機体を移動させながら射撃を行う零号機。

ズガガッ!ズガガッ!

まるで教科書のお手本のように、三連射しては移動、を繰り返し行う。

しかしATフィールドを完全に中和しているにも関わらず、使徒に怯んだ様子はない。


「だ、ダメです!パレットライフルでは目標の外皮を突破できません!!」

青葉が叫んだ。


ミサトはぎりっと奥歯を鳴らす。

「レイ!ライフルを捨てて接近戦で勝負よ!」

「了解」

ライフルをその場に捨てて全力疾走で駆ける零号機。

が、使徒はそこまで待ってはくれなかった。



しゅるる……

ムチで初号機の足首を掴む。と、裏山のほうに大きく放り投げる。

その様子を見ていたケンスケとトウジ。



「う?」

「へ?」

見上げればこちらに向かって降ってくる巨大な初号機の背中。

「「うわああああーーーーーー!!!!」」


ズシィーーン………。




「神経接続、全回路正常、ダメージなし!」

マヤが叫ぶ。

「うう……」

シンジは頭に手を当て、軽く頭を左右に振っている。

「くっ……シンジ君、落ち付いて聞いて、まずはソケットを繋ぐのよ」


ミサトはできるだけ穏やかな声でシンジに話しかける。

「転んだ時はどうするんだったかしら?」

「そうだ、立ちあが……」

シンジが機体を起こそうとしたその時、左手の指の隙間に何かを見付けた。

「え……?」

シンジの視線に合わせて、自動的に画像がズームされる。

「トウジ……と、ケンスケ……?」


発令所にも瞬時に二人のデータが照会される。

「ええーーーー!?シンジ君のクラスメイト!?」



その間にも使徒はムチをくねらせながら、ゆっくりと近づいてくる。

「何やってんのよもうっ!!」

アスカは弐号機を走らせる。



「使徒が来てるわ!シンジ君立ちあがって!」

「そ、そんなこと言ったって、下手に動いたら二人踏みつけちゃうかもしれませんよ!」

「くっ……」


ミサトは瞬時に頭を回転させる。

どうする……?

使徒は倒さなければならない。動きの鈍い初号機が標的にされている。

零号機は遥か後方。弐号機もまだ到着しない。

シンジが戦うのがベストだが、その結果トウジとケンスケが死ぬことになったら……。

シンジの性格を考えたらその後の結果は芳しくないだろう。


ミサトは手元のキーボードを軽く叩くと、初号機の外部スピーカーに繋いだ。

『そこの二人!乗りなさい!』


「なっ!許可の無い一般市民をエントリープラグに入れることはできないわ!」

リツコが驚いた顔でミサトに言い寄る。

「私が許可します。今くだらないこと言い合いしてる暇はないの」

「何を言ってるの葛城一尉!越権行為よ!」

ミサトはそれには構わず初号機へのマイクを開く。

「いいわね、シンジ君。二人を収容するから、現行モードでホールド。プラグを半分エジェクトさせて!」


「りょうか……」

言いかけたシンジだが、そこで躊躇してしまう。



……脳裏を過ぎる屋上の風景。

トウジとケンスケは僕がパイロットだって知ってるんだろうか……?



焦点が定まらない目で、正面を向いたまま固まるシンジ。

「何をしてるの!シンジ君!」

ミサトが怒鳴る。

その声で我に返り、顔を上げるともう目前にまで迫った使徒。

ゆっくりとムチを振り上げている。

「う、うわああ!!」



その時使徒の真横から巨大な赤が体当たりする。

全速力で駆けつけてきた弐号機だ。

ふっとばされる使徒。常に浮遊しているが押せば倒れるらしい。


「やっぱり足ひっぱってんじゃない!バカシンジ!

 さっさと回収しなさいよ!」

初号機を守るように使徒の前に立ちはだかる弐号機。


シンジは慌てて初号機をホールドし、二人を回収する。


ドボン!!

「うわ!なんやこれ!水やないか!」

「カメラカメラ」

「二人とも、集中できないから黙ってて!」

「「へ?」」

その声に二人は前方のインテリアシートに座る少年を見る。

「碇……?」

「な、おまえ、パイロットだったんか!?」

シンジは真剣な顔で前を向いたままだ。



「初号機、シンクロ率低下!」

「あたり前だわ、異物を二つも入れたんだもの……」

リツコはうらめしそうにミサトを睨む。



ゆっくりと起きあがってくる使徒。

「バカシンジ……この貸しは高くつくからね……」

アスカは舌舐めずりする。


肩のウェポンラックからナイフを取り出す。

カッターナイフ状のそれは、手に握り締めると自動的に高振動を始める。


弐号機は一度体を屈まれると、一気に上空にジャンプした。

最初に見せたような大きな跳躍で使徒に迫る弐号機。


使徒も光のムチで応戦するが、ギリギリの所でスラスターを点火して避ける。


「でぇぇーーい!」

ズバアッ!!

ナイフが使徒の左腕を、根元から切断した。


ブシュアアア!!

派手に体液が飛び散り、声にならない声でもがく使徒。


「ナイスアスカ!!シンジ君今よ!ルート18番から退却!」

「了解!」

初号機はクラウチングスタートからのダッシュで昇降口に向かう。



が、その時。

しゅるる

残った右手のムチが弐号機の首に巻き付く。

「しまった!」

アスカが声を上げる。



ギリギリと弐号機の首を締め上げながら、そのまま弐号機を高く持上げる。

「ぐ……あ……」

首元を締め上げられる苦しみに、アスカはナイフを落としてしまう。

足をバタつかせながら両手で首を押さえ、なんとかムチから逃れようともがく。

しかし首を締めるムチの力は想像以上に強い。

ブゥゥゥン…………

その時、不気味な低い音が辺りに響いた……。



「この音は……まさか!」

ミサトだけがその音の正体に気付く。

「弐号機、全シンクロカット!急いで!」




「ぎゃあああああああ!!!」

バリバリバリバリバリッ!!!

弐号機から激しく火花がスパークする!

「なっ!電撃!?」

マコトが声を上げる。

弐号機を捕らえた使徒は、その体から高圧電流を放ったのだ。


バチッ……バチッ……

放電が終わると、黒焦げになった弐号機は手足をダラリと下げ、動かなくなった。

関節の隙間からはプスプスと煙を上げている。

使徒は動かなくなった弐号機に興味を失ったかのようにムチを緩めた。

ズゥウン……

地面に落とされた黒焦げの弐号機は、ピクリとも動かない。



「状況は!?」

ミサトが叫ぶ。

「パイロット安否不明!40%以上の回路がショート、モニターできません!」

「装甲融解!生体部品にもダメージが!」

マヤとマコトが報告する。

「パイロット保護を最優先に!プラグ射出して!」

「だ、だめです!回路が死んでいて受けつけません!」

「なんですって!?」

ミサトの目が見開く。




……使徒はゆっくりと振り返る。

その先には、今まさに昇降口に飛び乗ろうとしている初号機。

使徒は逃がさないと言わんばかりに光のムチを振り上げた!




しかしその時ようやく到着した零号機が、使徒の背後からタックルをかます。

ズウゥン!!

使徒は前のめりに転倒した。


レイは機体をすばやく立て直すと、黒焦げの弐号機を脇に抱きかかえる。

そのままバックステップで距離を取った。



「レイ!ナイス!」

ミサトが握りこぶしを作る。


昇降口に沈んでいく初号機。

「初号機、収容完了です!」

青葉がミサトを振り返り叫んだ。


ミサトはコクンと頷く。

「レイ!一次撤退よ。回収するからアスカを放さないでね!」

弐号機を抱えた零号機の足元。エレベーターの出口が割れて、零号機も地面に沈んだ……。



















「パイロット意識不明!心音微弱!」

「生命維持装置最大!LCL緊急排水!アスカのとこに行くわ。日向君、あとお願い」

ミサトは赤いジャケットを翻し、発令所を後にした。






黒焦げのエントリープラグから出されたアスカは、すぐにストレッチャーに乗せられた。

白衣を着た医師団がアスカのストレッチャーを押しながら、慌しく医療室に入っていく。


「…………」

廊下の片隅でそれを見守るシンジ。

プラグスーツを着て、体はLCLでびしょ濡れだ。


医師団の体の隙間から、チラリとアスカの顔が一瞬見えた。

何の表情もないアスカの寝顔。

安らかさとは程遠い、死んでいるか生きているのかさえわからない、そんな顔だった。


「…………」

シンジは右手を開いたり閉じたりする。

昨日まで寝食を共にし、バカシンジと自分を罵っていた同居人。

チルドレンの先輩、天才少女。

彼女自身がいつか言っていた。

『死ぬわよ』


「………これが使徒との戦い……」

ポツリと呟いた。



















トウジとケンスケはNERVの作業服を着て、両脇を黒服の保安職員に固められ、廊下を歩かされている。

「…………」

「…………」

エントリープラグを出ると、シンジと会話することさえままならずに、この黒服たちに連行されたのだった。

服と所持品を没収され、この作業服に着替えさせられた。



初号機の中では発令所の通信も聞こえていた。

黒焦げになった弐号機の姿……。


シェルターを抜け出した上、あのエヴァンゲリオンに乗ったのだ。タダでは帰してもらえないだろう……。

「…………」

「…………」

トウジとケンスケの顔は暗い。



突然両脇の黒服達の動きが止まった。

不審に思い二人が顔を上げると、そこには白いプラグスーツを着たレイ。

髪はLCLで濡れ、首からタオルを下げている。

レイも同時にこちらに気がついたようで、少しだけ目を見開いてこちらを見ている。

「綾波……?」



レイはしばし二人を見ていたが、少しだけ表情を引き締めて二人のもとに近づいてくる。

「あ……お前もパイロットなんやってな」

「良かった。無事だったんだな!」





パンッ!

パンッ!


レイの白い手が、ケンスケとトウジの頬を捉える。

「………」

二人は一瞬何が起きたのかわからない。

レイは何も言わず二人を睨んでいたが、踵を返して行ってしまった。


残されたトウジとケンスケ。








頬に残る痛みが


ひどく現実的だった……。





















巨人達が消えた第三新東京市。

使徒はしばし立ち尽くしていたが

初号機が消えていった昇降口、18と大きく書かれたその上に移動すると、体を横に伸ばした。


コアを包むように生えている5対10本の小さな節足がカサカサと蠢く。

するとその節足がムチのようにピンク色に発光し出した。

まるでエビが土を掘り起こすように、10本の足が昇降口を壊し始めた。













+続く+






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