■ HOPE 第六話 「訓練」






「エヴァンゲリオン初号機リフトオフ!!」


ガクンと軽い衝撃の後、背中あたりが自由になったのを感じる。

「シンジ君、まずは歩いてみて」

「ど、どうやって?」

声が上ずる。

長身のエヴァ。そのコクピットからの景色はなかなかのものだが、同時に慣れないと怖さも感じる。

「エヴァはあなたの思考をトレースして動くわ。歩くことだけ考えて、歩くことに集中するのよ」


ゴクリ……。

唾を飲み込む。

「歩く……」

シンジの思考を読みとったように、初号機は右足を軽くあげると一歩を踏み出す。

ズゥウン……


「やった!歩いたわ!」

ミサトは声をあげる。


「歩く……」

左足を上げ、踏み込む。

ズゥウン……


「いいわ、シンジ君。その調子よ」


ズシィン……ズシィン……

三歩、四歩と前に進む初号機。

しかし次に足をあげた瞬間、姿勢を崩してしまう。


「わ、うわ!」

咄嗟にシンジは両手を顔の前でクロスさせる。

初号機も同じように両手を胸の前あたりでクロスさせた。


ズシイイイン……!


盛大に土煙を上げて初号機が転ぶ。


「あちゃー!」

ミサトが顔に手を当てる。


「神経接続、全回路正常。ダメージなし」

「当たり前よ」

マヤの報告にリツコが口を挟む。



「……ってて」

シンジが顔を上げる。

それに反応するように初号機も上体を起こす。

「痛いんですけど……」

「そう、それがフィードバック。

 シンクロ率が上がればエヴァの能力もそれだけ引き出せるけど

 それと同時にエヴァの感覚もパイロットに返ってくるわ。」

リツコが答える。

(じゃ、エヴァが受けたダメージが僕にも返ってくるってこと?……最悪だ……)


「ほら、シンジ君立って!転んだら即起き上がる。

 使徒戦においても基本中の基本だから、意識的にすぐ立ち上がるようにして!」

初号機は緩慢な動作でフラつきながら立ち上がる。

「続きよ。向こうに丘が見えるでしょ?あそこがゴール。そこまで行ったら戻ってきて」


初号機はまたフラフラと歩き出すが、少し歩くとすぐに転んでしまう。

「うう……」

「ほら、シンジ君!」

「……あ、そうだった」

今度はすぐに起き上がることができた。


「シンジ君、ちゃんと集中してるの?」

「してるんですけど、なんか厚底ブーツ履いてるみたいに、すごくぎこちないです」

「ぎこちない……?」


ミサトはリツコを見る。

「……もしかしたら今この瞬間にもシンクロ率が変動してるのかもしれない……。

 マヤ、レギュレーター側のフィードバックの値、調整できる?」

マヤが手元のコンソールキーを叩く。


「どう?シンジ君」

「あ、かなりマシになりました」


多少フラつきながらも、シンジは指定された丘まで歩き通すことができた。


「OK。それじゃ次のステップ。そこから最初のエヴァ射出口まで、今度は走って戻ってきて」

「やってみます」

そう言うと初号機はクラウチング・スタートのように体を屈ませる。

「スタート!」


ゴワッ!!


地面を蹴って走り出す。

「……くっ…速い……」

乗っているシンジが不安になるほど速い。


「今どのくらい出てる?」

ミサトがマヤに尋ねる。

「250kmから300kmほどです」

「へえ〜、初めてにしては上出来じゃない」



あっという間に射出口までたどり着く。

「と、止まれ〜!」

シンジは手元のレバーを力一杯引く。

が、自分の足につまづいて、背中から転んでしまった。


バシュッ!バチバチッ!!


電源ソケットに無理な力がかかったため、安全装置が作動して爆砕ボルトがはじけ飛ぶ。

普段この機能はOFFになっているが、今日はジオフロント内での演習のためONにしてある。



シンジは機体を立て直し、すぐ立ち上がる。

「なんだ?」

プラグの中ではALERTやら緊急やらの文字が飛び交っている。


「すぐ立ち上がったのは良いわね。褒めてあげるわ。

 ちょうどいいから今説明するわね。

 ……今のは演習用の安全装置が作動して電源ケーブルがはずれたの」

「ケーブルですか?」


今度はリツコが答える。

「そう。通常エヴァは有線での電力供給を受けて稼動しています。

 それが何らかの原因で供給が止まると、内臓されてるバッテリーのみで動作しなければならなくなるわ。

 内部電源は高機動モードで約90秒。ゲインを利用しても5分弱しか持たないわ。

 左上あたりにあるパネルに残り稼動時間が表示されてるはずよ」


「残り3:24って書いてあります」

「ええ、こちらからも確認できるわ。」

ミサトが答える。

「マヤちゃん、ソケット出して」


マヤが操作すると、数箇所から電源ユニットが地下から飛び出す。

それと同時にシンジのスクリーンにも、電源ユニットの場所が地図と共に表示された。


「その青い点が電源ユニットよ。内部電源が切れる前に繋ぎなおして。

 残り3分もあるから急がなくていいわ」


全力で走るとさっきの二の舞になりそうだったので、やや小走りで電源ユニットに移動し、ソケットを掴む。

「よっと……」

三点式のソケットを背中に装着。


プラグ内の警告が消えて、残り時間が88:88を示す。

「上手じゃない。慣れてきた?」

「ええ、まあ……。でもすごいですね。エヴァって走るの速いんだ」


「走りだけじゃないわ。サイズは違えど、人間の運動能力を大きく上回る性能が出せるの。

 慣れてくればバク宙だってできるようになるわ。例えシンジ君ができなくてもね」

リツコがやや自慢気に口を挟む。


「すごいんですね」

シンジは素直に感心する。

「ま、その前にもっとうまく乗れるようにならないとね。次いくわよ」

シンジの前方に分厚い鉄板が出てきた。


「あれを使徒と見立てて攻撃してみて」

「攻撃……ですか?どうやって?」

「殴ったり蹴ったり。好きにやっていいから」

「わかりました」


右手に意識を集中する。初号機が右手を握り締めるのがフィードバックでシンジにも伝わる。

大きく振りかぶってそのまま突き出す。


ゴバッ!


派手な音を立てて鉄板が歪む。

右足に意識を集中して、体をひねりながら後ろ回し蹴りを叩き込む。


バキッ!


鉄板がくの字に曲がる。

「うあ!」

体勢を崩して倒れてしまった。

「いてて…」

今度もすばやく立ち上がる。

ジーン……と足がしびれている。

「だいじょうぶ?シンジ君」

「すみません、足がしびれちゃって……」

「いいのよ。そのうち格闘訓練も始まるから、そしたらもっとうまく蹴れるようになるわ。

 次は肩に内臓されてる基本装備、プログレッシブナイフよ。右手のパネルで出せるわ」



初号機から遠くはなれたジオフロントの一角。

零号機と弐号機がリフトに固定されたままたたずんでいる。

「なーにやってんだか……」

アスカは腕を頭の上に組んで眠そうにしながら、望遠モードでシンジの様子を見ている。

「暇ねぇ……アタシの番はまだかしら……」




シンジの横に武器が満載された箱のようなものが出てきた。

ライフルや剣や槍のようなもの。バズーカまである。

「それは全部エヴァの武器。次は射撃を重視するインダクションモードについて説明するわ。

 そこにあるライフルを取って」


言われた通りライフルを持つとコンソールに「induction」の文字が点灯し、スクリーンにマーカーが出てきた。

「そういう重火器系の武器は、持つだけでインダクションモードに入るようになってるの。

 じゃあ練習よ。鉄板に向けて撃ってみて」


ライフルを鉄板に向け、右手ハンドルレバーのトリガーを引く。

バババッ!

「うわっ!!」

発射の反動で銃口が天井を向く。


「落ち着いて。反動が激しいから、ちゃんと左手で抑えるのよ。

 今日は演習だから三発までしか連射できないようになってるわ。弾も模擬弾。

 目標を真ん中のセンターに入れてスイッチ。いいわね?」


「……目標をセンターに入れて……スイッチ!」

バババッ!

歪んでいた鉄板がさらに歪んだ。

「いいわ!シンジ君はそのまま続けてて。レイ?準備して」


待機していた零号機がリフトからはずれ、ゆっくりとシンジの元まで近づく。

武器の箱からハンドガンを手にとった。



「次はちょっち実戦的なものをやるわ。

 これからレイとゲームをしてもらいます。先に相手に五発当てたほうが勝ちよ」

「え、大丈夫なんですか?こんなのを当てちゃって」

「ええ。模擬弾だからね。多少痛みはあるかもだけど、これぐらいじゃエヴァの特殊装甲はビクともしないわ。

 ATフィールドの使用は禁止。ハンデとしてレイは単発式のハンドガンを使ってもらうわ」



零号機と初号機はお互いに距離をとって対峙する。


「スタート!!」

開始と共に零号機は素早く横方向に移動を開始する。

シンジはライフルを構える。

「目標をセンターにいれて……」

零号機とセンターマーカーが重なる。

「スイッチ!!」

バババッ!


しかし零号機にはかすりもしない。

その隙に零号機は左の脇の下からハンドガンを発射する。

パンッ!

初号機の肩口に命中する。

「くっ……結構痛い」


「……碇君」

零号機から通信が入る。

「……止まっていてはただの的だわ」

「あ、そうか!」


シンジも零号機とは反対側に機体を走らせる。

走りながらも零号機をセンターに捕らえる。

「スイッチ!!」

バババッ!

またもや零号機には当たらない。


「……この距離で移動してる物体に当てるのには、相応の腕かスナイパーインダクションが必要」

「じゃあどうすれば?!」


パンッ!

零号機が発砲する。

それは初号機を狙ったものではなく、初号機の足元。土煙が舞い上がる。

「わっ!」

驚いたシンジは思わず足を止めてしまう。

パンッ!

「いてっ!」

初号機の左膝に命中する。

膝が崩れた。

瞬時に機体を立て直そうとするが、痛みでうまく立てない。

パンッ!

初号機の胸あたりに命中する。

「……当たらないなら止めろってことかっ……!」


「……動きを止めてはダメ。動けないなら相手の攻撃の瞬間を狙うの」

「くっ!」

シンジは機体を横転させる。横転しながらマーカーを零号機に合わせる。

バババッ!

「きゃっ」

一発零号機に命中したようだ。

「ああっごめん綾波さん!!大丈夫?!」



パンッ!

バシュッ!バリバリッ!!

シンジの心配をよそに、レイの発射した弾は無常にも初号機の電源ソケット、安全装置の作動に成功させる。

「碇君、作戦に集中して……」


ビーッビーッ!

また警告音が鳴り響く。カウンターが「残り4:43」と表示されている。



「へえ、レイったら上手に先生してるじゃない」

「シンジ君にわかるように、わざとやってるんですかねー?」

ミサトとマヤが見せ物でも見てるかのように言う。



どうしよう……。こっちは後一発当たったら終わり。

残り4分であと四発当てるのは難しい。でもソケットを取りに行ったら間違いなく撃たれる。


「……ソケットは無しだ。後り4分でケリをつける!」


初号機は体を縮めるとクラウチングスタートの姿勢をとる。

ドッ!!

地面を蹴って真っ直ぐ零号機に向かう。

「……この速さなら真正面からしか撃たれない。綾波さんが撃つ前にこっちが撃つ!」

案の定零号機は銃をこちらに向けて、構えようとしている。

「今だっ!」


バババッ!!



が、そこにいるはずの零号機の姿がない。

「え、ど、どこ?!」

機体を急停止して首を左右に向ける。



弐号機から突然通信が入る。

「ああ、もうじれったいわね!バカシンジ!上よ上っ!! 」

「上?! 」


シンジが上を向くと、初号機の頭上を大きく跳躍している零号機。

体をひねり、銃口がこちらを捕らえている。


「あっ……」


パンッ!

上を向いた初号機のこめかみに見事にヒットしたのだった。










「お疲れ様二人とも。レイの勝ちね。でもシンちゃんもすごかったわよ?

 後半なんて今までやった動き全部取り入れてたし、ちょっちびっくりしちゃったわ」

「そうなんですかね……。僕は実力の差ってのをひしひし感じましたけど」


「……碇君……」

振り向くと零号機が電源ソケットを持ってきてくれていた。

「あ、綾波さん」

ソケットを接続する。

「……最初からうまくできるはずなんて、ない」

「うん……、そうだね。ありがとう」



「ま、でもかなり参考になったのは確かでしょ?

 さ、いよいよ本日のメインイベントいくわよー。

 アスカ準備して。レイはもうあがっていいわ。34番シャフトから回収します」



「やーっとアタシの出番がきたのね!」

リフトオフされた弐号機は、軽く屈伸運動をする。

そのまま機体を屈ませると、次の瞬間大きく跳躍した。


……高い高い。信じられないほどの滞空時間。


ドォオン!!


シンジの目の前に着地する。


「アスカ……すごい……」

シンジは目を丸くする。


「とーぜんでしょ!アタシを誰だと思ってるの?エースパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよっ!!」

シンジの目の前で紅い弐号機が、両手を腰にやり大きく胸を張る。




「これからATフィールド展開実験を始めるわ」

「ATフィールド……ですか?」

「そう。ATフィールドこそエヴァがエヴァがたるゆえん。

 この前見せた映像にもあったでしょ?」

「あの、光の壁みたいなやつですよね?」

「そう。普段は肉眼では見えない力場。バリアーのようなものだと考えてもいいわ。

 使徒はATフィールドを展開していて、通常の攻撃はまったく受けつけません。

 それに対抗するためにエヴァもATフィールドが展開できるの。

 互いのフィールドを重ねて位相空間を中和すれば、使徒にも攻撃が効くようになるってわけ」

「そうだったんですか」

「さっそくやってみるわね、アスカ」


弐号機が軽く片手を前にかざす。

しかし特に何も変化は見られない。


「じゃ、シンジ君。弐号機に向かってライフルを撃ってみて」

「え、でも……」

「いいから!」


弐号機をセンターに捕らえる。

バババッ!



ガキィーーン!

着弾の瞬間だけオレンジの光の壁が見えた。

「どうシンジ君、これがATフィールドよ。次はシンジ君もやってもらうから」


弐号機が武器の箱からハンドガンを取り出す。

「いい?シンジ」

「あ、うん……」

初号機が軽く片手を前にかざす……。



パンッ!

模擬弾が見事にシンジのこめかみを捕らえる。

「いてっ!」


「……ちょっと、シンジ!真面目にやってる?!」

「やってるさ!でもどうやったらいいかわからないんだよ!」

初号機が右手で頭部を擦る。


ミサトがリツコを見る。

「……こっちを見られても困るわ。ATフィールドの原理はよくわかってないし

 感覚的なモノみたいだから、言葉では伝えられないわ」

ミサトはスクリーンに向き直る。

「アスカ、シンジ君に教えてあげて」


「教えるったってねえ……」

弐号機が腕を組む。

「そだ、あんた、アタシのフィールド中和してみなさいよ」

「……中和?」

「そ。習うより慣れろよ。身の危険を感じれば火事場の馬鹿力でできるようになるわよきっと!」

「そ、そんな!」

シンジに嫌な汗が流れる。絶対アスカは楽しんでやっている。

「いっくわよー……バカシンジ!」



弐号機は初号機に接近すると両手を前に突き出す。

ドカンッ!!


初号機は後ろにふっとばされる。

「いてて……」

「何ぼやっとしてるのシンジ。ちゃんと中和しないとぶっ壊れちゃうわよ!」

アスカはニヤリと笑う。

「そ、そんなこと言ったって………うわっ!」

見えない壁にグイグイと押される。


「ほらほら。ちゃんと中和してみなさい!」

「ぐうう……」

シンジは何とか押されまいと力をこめて踏ん張る。



その時発令所から囁くような声が入る。

「……力で返そうと思ってはダメ」

いつの間にかレイが発令所に戻ってきていた。

髪が少しLCLに濡れている。

マイクに向かって話し続ける。

「…… 壁のイメージ。拒絶の壁…」



「……壁?」

アスカのATフィールドに押されながらもシンジは壁をイメージする。


壁……拒絶の……

……来るな……こっちへ来るな!


キィン……キィーーン!!

その瞬間押されていた、見えない壁の感覚が消える。


「初号機、ATフィールドを展開。位相空間中和しています」

マヤが報告する。


「やったわシンジ君!ちゃんとできたじゃない!」

「え、ほんとですか!?今できてます?」

意識がATフィールドからミサトの声に移る。


ドカンッ!

初号機がふっとばされる。


「気を抜いちゃだめよシンジ君。使徒戦では常に中和状態で戦うことになるから。

 意識しなくても展開できるようになるまで訓練するわよ」


「いてて……もうアスカ!何が火事場の馬鹿力だよ。最初から壁って言ってくれればいいじゃないか!」

「あら、あんたが自分で言ってたじゃない。光の壁って。知ってるのかと思ったわ」

アスカは笑って答える。


「まあ、いいじゃない。できるようになったんだから」

「そりゃそうだけど」


「でもね……、ATフィールドの真の力は防御のみに留まらなのよ…」

弐号機が赤い人差し指を上げる。


「……どういうことアスカ?使徒はATフィールドで身を守ってるんじゃないの?」

ミサトも初耳だ。

「あら?ミサトも知らなかったの?じゃ見てなさい」


弐号機はズンズンと、もうかなり壊れてしまっている、鉄板の前に立つ。

そのまま右手をすっと頭の上に上げる。


「あの……、アスカ…?」

「アンタは黙ってて!集中できないじゃない!」


アスカはLCLの中でスウッと息を吐く……。

次の瞬間カッと目を見開く!

「てりゃあーー!!」

弐号機が鋭く手刀を振り下ろした!



…………。
しーん…………



歪んだ鉄板…………がそのままだ。

何も起こらない。



「……アスカ?」

ミサトが怪訝そうな声をだす。



「い、今のはそう!練習よ練習!次が本番っ!!」

アスカは顔を真っ赤にして答える。

頬を両手でパンパンと二回叩く。

もう一度片手を上げて構える。

アスカ……集中よ……。


「弐号機、シンクロ率上昇!」

マヤが報告する。



「てりゃああーー!!!」

振り下ろされる手刀。その右手を包むようにATフィールドが纏わり付いている。



…………。

シーン……。



手刀を振り下ろしたまま固まってる弐号機。

鉄板には何の変化も見れない。



「……あの、アスカ……」



ピシッ…………。

「え……?」

その音にミサトが声を上げる。



ズズズズッ…………ズシンッッ!!


鉄板が真っ二つに割れた。

まるで分子レベルで分断されたような、鏡のように綺麗な断面だ。

ミサトとリツコが目を見開く。


「どう?!今の見た?!見たでしょ?!」

アスカは興奮気味だ。


「なっ……アスカ!何をしたの?!」

あまりのことにミサトは驚きを隠せない。


「ATフィールドを飛ばしたのよ!カッターみたいにね」

弐号機は右手の手刀を空振りさせて見せる。


「ちょ、ちょっとリツコ!」

「……私も初めて見たわ。ATフィールドにこんな使い方があったなんて。マヤっ、今のデータ取ってある??」

「え、あ、はいっ」


「アスカ、今までそんなことできるなんて、私聞いてなかったわよ?!」

「そりゃそうよ!」

アスカは胸を張る。

「……今やってみたら、たまたまできちゃったんだもの……」

ちょっと顔を赤らめて言う。





その後シンジもアスカを真似て手刀を試みるが、何度やってもアスカのようにはできなかった。

「無駄よ無駄。アンタの場合、圧倒的にシンクロ率が足りてないの。

 それにね、ATフィールドは感覚的なもの。何度も展開してその感覚に慣れないと、せいぜい中和程度にしか使えないわ」


それを聞いていたミサトが口を開く。

「じゃあ何?アスカは今までそれを練習してたわけ?」


「練習ってほどじゃないけど……。シンクロ率が上がれば展開できる距離が広くなるのはわかってたし。

 ATフィールドは慣れれば柔軟な形を取るようになるのは、感覚的にわかってたわ」

「じゃあなんで教えてくれなかったのよ」

「だって、今の見たでしょ?射程はせいぜい20メートルぐらいだし。

 発射まで10秒近くかかるもの。使徒が待っててくれるはずないわ」



ミサトは口元に手を当て、少し考えるようなポーズを取る

……これは使えるかもしれない。訓練ですぐに発射できるようになれば……。

ミサトは口元を釣り上げ、微笑んだ。












+続く+






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