・・・チュンチュン・・チュンチュン
午前9時。今日もいつもどうりの快晴。
ぎらついた太陽の強い光がカーテンの隙間から無数の筋として差し込む。
「ん・・・・。」
カーテンが大きくまくれちょうど光が顔に当たったこの瞬間、レイは小さく声を上げゆっくり体を起こした。
まるで光が人形に命を注いだのかという錯覚を覚えるような光景であった。
レイはここでふと机にもう既に食事が置かれている事に気付く。
食事が運ばれてくるのは毎日8時30分ごろである。レイの睡眠は短く朝方から寝るにもかかわらず看護士が部屋をノックをする前には必ず起きていた。
ところが今日はもう既に食事が置かれているという事はノックの音にも看護士が入って来た事にも気付かず眠り続けたと言うことである。
こんな事は初めてである。
いつもなら水滴が床に落ちる音ですら自然と起きてしまう程の神経質であったはずだが、まさか看護士に自分を起こさないように気を使わすマネまで
されたとは。レイはここまで自分が無防備になったという事にむしろ小さな感動すら覚えた。
レイはさすがに少し戸惑ったが、まあこんな日もあるだろうと考え起きぬけであまり食欲がなかったがさっさと食事を始める事にした。
おかゆを一口。スープを一口。トマトを一口。
淡々と進んでいく食事。食事は栄養補給の為。味など求めていない。
レイはそう考えていた。だからこそ昨日や体調の悪い日以外は何が出ようがもくもくと口に入れた。残さなかった。
だが今日。今。いつもだったら再びおかゆに手を伸ばす所。ここから動けない。箸が進まない。体調は良いのだが食べる気が出ない。
(・・・おいしくない・・。)
何故そう思うのであろう。
自分が不思議であった。ここの食事はおいしいとは思った事は無いにしても不満を持った事は一度たりとも無かった。
不満に思うという事があるのはなまじ期待を持つからである。つまり最初から期待などしてなければ良いのだ。
ここは病院であり今食べているのは病院食である。期待などする方が愚かであると言うものだ。
・・・それにも関わらず今自分は不満を洩らした。
(何故・・・?)
気を取り直し今度こそはとおかゆに手をのばす。が、又もや手が止まる。
・・・何か音がする。しかも・・近付いてくる。
「あああああああああああああああ!!あけろおおお綾波!!重い重い重い!!ビニールちぎれるちぎれる!!」
真心が胸を・・・(中編)
「じゃあな!=じゃあ又明日な!っちゅー意味だろが!お前に指摘する所は無いって言わせるまで毎日来て・や・る・か・ら・な〜!」
グリグリグリ〜と今日は空手チョップではなく新しい攻撃を仕掛けているシンジ。レイは痛いのかシンジの手から逃れようと珍しく暴れている。
「という訳で皿やら食材置いてくから冷蔵庫とこの使ってない棚借りるぞ!」
「置いてく・・・。」
「ん?ダメか?」
シンジが少し顔をしかめ残念そうな表情を浮かべる。
「あ・・いいわ・・。」
「おっしゃ!いやオレの部屋さぁまだ冷蔵庫やら洗濯機とか無くてさ!だから保存に困ってたしここに置かしてもらえれば一石二鳥なんだわな!
ああー早くバイト見つけなきゃな〜一人暮らしはツライわな〜!」
「一人暮らし・・?」
レイは少し驚いた様子でシンジに聞きなおす。
それもそうである。レイとシンジは同じ14歳。まだ中学生なのだ。一人で暮らしてる等ほぼありえない事であった。
「あ?そういや言ってなかったわな。」
シンジは視線を落とす。
「・・・オレの家の両親昨年離婚してさあ・・親父に引き取られてたんだけど・・・・・親父は・・消えた・・。」
「ご・・・ごめんなさい・・・。」
レイはシンジにとってツライ話だったのだろうと思い謝る。自分から素直に謝るなんて滅多にない事であるとも気付かずに。
「・・つーか逃げた。」
「えっ?」
「逃げたんだよ・・・達者で暮らせ!って置手紙残して海外行きやがったんだ!よりにもよってハワイだと〜!!?
更にだ!あっちでの生活金をどうするか悩んだあいつはどうしたと思う!?あいつこれはマジ人間かどうか疑うような行動したんだぜ!?」
シンジは昨日と同じように勝手に一人で盛り上がり手をグーパーグーパーと怪しく動かし始めた。
「売ったんだよオレを!!朝起きて回り見渡したら化粧した男・・・男!男!?意味不明でパニくってたらありえねえ面した男共の一人が・・・
「大事な商品様だけどちょっと位つまみ食いしても・・・」っとか言って・・・うわあああああ!思い出しちまった!!」
内股になって肩をゴソゴシとこすりだすシンジ。・・・こんな仕草が妙に似合ってしまう事からそんな事態になるのであろう・・・。
「とにかく!その場は何とかダッシュで逃げ出したんだけど・・もう家とかばれてた訳で・・身の危険を感じて引っ越し・・つーか夜逃げだな〜ありゃあ・・・
で、今は沖縄の婆ちゃんの簡単な仕送りでこの秋田県でひっそり生活していますっちゅー訳・・・。」
シンジはああと溜め息を吐き出す。
「まったく・・・さすがにグレる暇もなかったぜ・・って笑ってんじゃねえよ!!一応マジな話なんだぜ!?おいってば!お前なぁ人・・・・・・!」
暖かい・・・・・心が・・・何故・・・・・・。
昨日と同じ・・・・・。
この人のせい・・・?・・・この人は何・・・・?
料理を作る人・・・たまに痛い事する人・・・違う・・・。
これから毎日・・来る人・・。
毎日・・来る・・・。
「・・・・ってそろそろ面接だ!もうそろそろ行くわ!!」
「帰るの・・?」
「ああ。ビシッとした服着てかないと落とされちまうからな!」
「そう・・・。」
「あっそうそう夕食食うなよ!俺が戻ってくるまで待ってろよ!いいな!」
「えっ・・・。」
「じゃあ又後でな!!」
バタンとドアが閉まり遠ざかる足跡。
「・・・又後で・・。」
小さい声だか病室に響いた。
「碇君・・・。」
・・・・・・・
碇君は・・・本当に毎日来た。
・・・・・・・
「・・・そういやすんごく今更なんだけど・・何の病気か知らないけど、オレ治療の邪魔してない?」
「問題ないわ。」
「いっつもそれだな〜。お前。」
「何が・・・?」
「問題ないわ・・・。そう・・・。何故・・・。こーんなんばっか!会話はキャッチボールが・だ・い・じ・な・の・!」
シンジはレイのほっぺたをつねくり上下に振る。
「わーかーりーまーしーたーか〜あーやーなっ、いでででで!!」
レイもシンジのほっぺたをつね返す。
「ほ、ほう・・ひゃ、ひゃっひゃと、はなし、といたほうがみのため、だぞ。」
「な、なせ・・?」
「お、おれは・・まだにじゅっふぁーせんとのちからしかだしふぇないぞ・?」
「そ・・そお。」
「あ・あえ〜、な、なみだめになってるんひゃないのか?」
「そ、ひょんなことないわ。」
「う、うるうるひてんぞ。」
「あ、あなたのほう・・・」
・・・・・・・・・
私は・・・笑うようになった・・・。
何故・・・?
心が暖かいから・・・。
暖かいと笑うの・・・?
そう・・・。
何が暖かいの・・・?
碇・・・君・・・。
他の人は暖かくないの・・?
そう・・・心が冷たくなる・・・。
何故碇君だけが暖かいと思うの・・?
他の人と違うから・・・。
何が違うの・・・?
・・・わからない・・。
・・碇君が好きなの・・・?
・・・・・・・・・・
「・・りんご!」
「ごりら。」
「ラッパ!」
「パントマイム。」
「む・・むかで!」
「でんぱ。」
「ぱ、ぱ・・」
「時間切れ・・・私の勝ち・・。」
「はあ!?もうかよ!制限時間三秒って短すぎ!!」
「短くしないと永遠と終わらないわ。」
「うぬぬぬぬ・・ほれ!来いや!」
「罰ゲームね・・。」
レイはそういうと何故か洗濯バサミを取り出す。
「い、痛い痛い痛い!!おぉいい!いきなり耳たぶに付けるか普通!?」
「・・分かったわ。」
「そうそう最初はダメージの少ない所からって・・痛い痛い痛ーい!!何故にマブタ!?何故にマブタ!?もう、もういい耳たぶでいいですいいです!!」
「・・罰ゲームだもの・・。」
「・・・て、てんめえ・・・次勝って絶対泣かす!!制限時間短くするぞ!二秒単位で・・・!」
・・・・・・・・
碇君が好きなの・・?
・・・・・・・・・
「今日、一応・・・検査をしなければならないから今日は何も食べてはいけないの・・・。」
「・・・そうか。まあしゃあないわな・・・。」
「・・・帰らないの・・・?」
「・・・帰ったほうがいいか?。」
「そ、そんな事ないわ・・・。」
「ここにいる理由がないって・・・?」
「・・・・・。」
「理由ないと・・・ダメか?」
「・・えっ・・?」
「オレがここに来る事に・・・理由・・なんか・・・。」
・・・・・・・・
碇君が好きなの?
・・・・・・・・・
「・・・おし・・オレそろそろ行くわ!!じゃあまた明日な!!」
「・・・・。」
「・・・どした?」
「何でもない・・・また明日・・碇君・・。」
いつから・・・?この言葉を言いたくなくなってきたのは・・・。
前は・・・この言葉を言うと心が温かくなった・・・。
また明日・・・約束の言葉・・・。もう一度会う事を確認する為の言葉・・・。
碇君が来てくれる・・・。 トクン。
でも・・・この言葉をいうと・・・碇君は帰ってしまう・・・温かさが消えてしまう・・・。
心が・・痛くなる・・・冷たくなる・・・。
何なの・・・この気持ち・・・。
碇くん・・・。 トクン。
碇君・・・。 トクン。
碇君・・・! ドクン・・!
碇君か好きなの?
そう・・・かも・・しれない・・・。
+続く+
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