ミーン ミン ミン ミン ミン ミン ミン ・・・・・・・・






     耳障りな蝉の鳴き声。

     肌を焦がすような真夏の太陽の熱視線。



     「・・・ココだな。」


     ドデカイ建物の前。




     「あのクソ教師・・・・何が「君の家から少しの場所だ!」だ・・・。」




     一人の少年。





     「ならどーして二時間もかかるんじゃあああああ!!!」











 真心が胸を・・・、<前編>














     「・・・・。」


      白を基調とした清潔感のある広い部屋で、なぜかTVはないがキッチン、トイレ、エアコン完備の快適そうな一室の中。
      青い髪の上にヘッドホンを着けた中学生位の少女が一人、真っ白なベッドに横になっている。
      ・・・何かの病気だろうか・・・痛々しく両目が包帯でぐるぐる巻きにされてあるのが目に入る。
      彼女がリモコンに手を伸ばした時、不意にヘッドホンから流れてくる音楽とは別に音が響く。
      ・・・誰かがノックしているのだ。

          コンコン。     


     「どうぞ。」

     消え入りそうに小さく、そして無感情な声。しかしこれが彼女にとっては普通。いつも通りの反応
     朝に来た看護士も静かにドアを開け中に入り食事を台に置き「後で回収しに来ます。」とだけ言って部屋を出るだけ。会話など一切ない。
     もちろん何人かの看護士も当初は彼女の心を開こうとした。しかし、全て無駄だった。彼女は人と関わる事に何の興味を持っていなかった。
     拒絶ではない。ただ見切りをつけていたのだ。

     昔の彼女は目に包帯をしていなかった。する必要がなかったのだ。そう・・・・彼女は盲目ではない。ただ眼が赤かっただけであった。

     彼女は感覚的な物が敏感だった為、幼い頃から他人が自分に寄って来る人間は全て
     その青い髪、病的な白い肌、そして真っ赤な瞳。その異常な容貌から来る好奇心、または哀れみからであると気付いていた。
     人が自分を見る時まるで動物を見るような眼である事も肌で感じていた。
     自分はなぜこんな姿なのかと思った事も少なくなかった。しかしその疑問に答えてくれるはずの親は、彼女に意識が芽生える頃の歳に消えていた。

     しかし、母親は消える前までは・・確かに彼女を愛していた。
     いつも優しく笑いかけていてくれた。
     頭をなでてくれた。強く抱きしめてくれた。
     この髪も瞳も肌も全てを愛してくれていた。
     この僅かな記憶と、確かな感覚だけは残っていた。

     他の記憶をいくら辿っても自分を煙たがる義理の母親だけ。何かの事情なのか、それとも本当に捨てられたのかも彼女は知る術がなかった。
     しかし彼女は信じていた。目を閉じれば思い出せる、母親の温もりを。感覚を。
     その母が与えてくれたその何よりも大事な絆である、この髪を、この瞳を何故に世間体などというくだらない理由で変えなければならないのだ。
     彼女が一度たりとも髪を黒に染めたりカラーコンタクトにしたりしなかった理由である。
     それほどに大事なこの髪を中学校の入学式に、たちの悪い男子生徒に馬鹿にされた。引っ張られた。
     「親はどうゆう神経をしてるのかしら。」と何も知らない大人に何よりも大切な母が侮辱されたのだ。
     ・・・こんなくだらない世界に人間に母との絆を汚されてたまるものか。

     翌日から彼女は原因不明の全身の痛みという理由で入院した。
     それは外界との関係を断ち切る一つの誓いとして、そしてその目には汚い世界の光景で汚さない為に両目に包帯を巻いた。
     父親の唯一残してくれた莫大な遺産のお陰で完全個室の生活を今も送っている・・・・それが、彼女である。
     音楽と本を音読したテープを聞き、毎日決まった時間に出される食事を食べて過ごすだけの一日。今日もそれが繰り返されるだけのはずだった。
     彼女はそんな生活に何も感じてなかった。寂しさも。むなしさも。そして今も毎日行われる食事という儀式がくりかえされるだけである。
     しかしいつもゆっくり静かに開かれるはずのドアが、何故か今日は、動きが豪快だった。      
             

        





      「チワースッ!!」







      (・・・・・・!?)
      
     少女はビクッとして手にもったリモコンを落とした。     
     彼女がこんな人間らしい反応をするのはごくまれである。きっと包帯の奥の瞳は見開かれているだろう。     
     彼女が入院をしてから、この病室のドアを動かすのは病院関係者と今でもたまにちょくちょく来る長身白髪の教師を除いたら皆無であった。
     義理の両親でさえ最初に一度来たっきりである。
     そういった他人と接触する事のない一年を過ごし、免疫の弱っていた彼女にはそれだけ強烈な出来事であったのであろう。
     そして訪問者の少年は彼女が固まっているのを良い事に初対面の人間の病室だというのにズカズカと乗り込んでくる。  




     「うっわ、涼しっ!しかもオレの部屋より広いし!」



    少年は挨拶もせずに何よりも早くすぐさまエアコンの前に行き、手に持っていた買い物袋を床に置いて汗でビッショリの体を冷ましている。
    初対面にも関わらずはっきり言って図々しさ全開の行為であるが暑いんだもの。しょうがないじゃんと背中で語っている少年には全く知ったこっちゃない。    
    しかし少年がエアコンの前で「あ〜気持ちいい。」と言って活動を停止している時間。これは一呼吸して彼女にとって気を落ち着けれる時間となった。





    (この声かなり若い・・・それにこの病院の医師でも看護士でもない・・・。)


     音と気配で判断したのか彼女は見えないはずの彼のその小さい子供には見せたくない背中の方に体を向ける。
     ・・・しかし年頃の女の子が普通知らない男が部屋に突然乗り込んできたのならもう少し慌ててもいいのではないだろうか。
     彼女はそういった事に対してもどうも無頓着に見える。そして少女は先程と変わらず抑揚のない何事も無かったかのような口調で少年に尋ねる。         
         

    「・・・・あなた誰・・・。」

    病院の人間でもない。あの教師でもない。それでは一体誰なのか。
    もしかしたら部屋違いではないか。どう考えても身に覚えのない彼女は素直にそう聞いた。
    そこで、さすがに少年も状況を理解し「あっわるいわるいっ!」と言って少女の方を向き直す。


    「オレは夏休み後の新学期から同じ第一中学校に転入する碇シンジな!」    

     少年の名は碇シンジ。背は中学二年生にしてはなかなか高く170cmくらいと言った所であろう。
     しかし体格はさほど大きくなくスラッとした感じでその軽い口調とは裏腹に中性的かつ優しげなオーラを持っている。
     そのシンジは軽く手を上げ、「同じクラスだから退院したらヨロシク!」とシンジは男でもキョドリそうな綺麗な笑顔で笑いかける。
     両目を包帯が遮ってなければ冷めた感じのある彼女も何か反応してくれたかもしれなかったが、やはり特に反応はない。
     ただ部屋間違いではないなと思った程度であろう。



    「・・何しに来たの・・・?」




    彼女の当然の問いに「ほあ?」と何故かかシンジがマヌケな声を出して大きな目をパチクリさせる。そして一歩後退し回れ右をする。
    そして小刻みに震えながら「いや、まさかな・・。」「もしかしたら変態に思われ・・。」と何かブツブツ呟き始める。
    独り言が聞こえなくなってからしばらくするとシンジはギギギギと音がしそうな堅い動きで顔だけ少女の方を向ける。顔も軽くひきつっている。
    
   
    「綾波レイ・・・だよな?」
 
    
    少女の方の名は綾波レイというようだ。
    シンジはレイが小さく頷くのを確認すると何が言いたいのか次は「もしかして・・・・聞いてないん?」とレイに尋ねる。
    もちろんレイにとってシンジは名前すら聞いた事がない完全な初対面である。
    全く訳が分からないレイは当然こう答えた。
   

        「・・・何を?」



   たっぷり10秒程時が止まったかのように沈黙が流れる。心なしか密室のはずの部屋に冷たい風が通り抜けた気がする。
   レイはただ少年の反応を待っている。
   少年に至っては引きつった笑顔を保ちながら一見固まっているように見えるが、何故か心の中ではどこか見覚えのある白髪の中年が
   主人公となった様々な殺戮の場面が駆け巡っている大激動の状態であった。
   そして突然シンジの笑顔が消えたこの瞬間・・・病室に一匹の般若が生まれた・・・。
 
 
    (あはははは・・・あの冬月っていう教師・・どうやらオレをなめてるみてぇだな・・・・
            現代都会からやって来た中学生の恐ろしさをその田舎ボケした頭にしっかりメモリーさせてあげなきゃ・・・。)
                     


    一瞬鬼のような表情を浮かべたシンジだがすぐにまた笑顔を浮かべフフフと怪しく笑い出す。
    時折{アルゼンチンバックブリーカー}や{悪・即・斬}等という単語が聞こえるのは気のせいであって欲しい。



   「何かの事情で連絡が行かなかったっぽいから説明するぞ。とりあえず・・・最近ダンボールが一箱届かなかったか?」

    
    何かの、と言う部分をいやに強調して言ったがこの際そこには触れないで置こう。
    レイはダンボールと聞いて四日前に突然届いた重たい箱を思い出す。学校からと聞いてすぐに興味を無くし、触りもしなかった物であるが。                             



    「・・・もしかして隅っこにあるこれか?」

    「・・・多分・・。」

    シンジはどれどれ言いながらダンボールに貼り付けられた詳細書を覗き込む。
   
   
    「えっーと・・・あーこれこれ!送り主も学校からで日付けも一致しとる!」

   レイはまだいまいち状況が飲み込めていないようなのでシンジは補足するようにレイに、苦笑いを浮かべながら自分が何故ここに来たのか説明する。


    「これなーオレの教科書なんだ。引越した時間違えて持ってた教科書も全部一緒に捨てちまってさぁ・・。
                                         しょうがないから担任に言って買い直したんだよ。」
    レイは黙って相付ちを打つ。

   
   「で!頼んでから結構経つのにいつまで経ってもぜんっぜん送られる気配なくて、おっかしいなとか思って担任に電話したんだよ!
                                        そしたらあの冬月って野郎・・・いきなり何て言い出したか分かるか!?」

   段々ヒートアップしてゆくシンジ。血管が浮き出る位力を入れて、何故か手をグーパーグーパーしている。


   「いやーすまんシンジ君!教科書はな、ちょっと住所を見間違えて同じクラスの綾波レイさんの宅に行ってしまったようなんだ!
    彼女は少し事情があってNERV病院に入院していて宅配物は全てそっちに行くようになっとるから間違いないだろう!    
    この辺ではたった一つしかない病院で、君の家からすぐの場所だ!自分で取りに行ってくれ!それじゃ!!」
   これだぜ!?この辺の地域じゃ二時間がすぐって言うんか!?このクッソ暑い中地図持って走り回させやがって〜!!」
  

    もう説明というより、ただのグチをブチ巻き始めるシンジを抑えるかのようなタイミングで、部屋にコンコンとノックの音が響いた。


    カチャ。

   「珍しい事があるもんねぇ〜面会人なんて・・しかもこんな元気良い子が!あっ、じゃあ食事置いとくからね。」

   じゃ、ごゆっくり。とシンジに言い残し看護士は部屋から出て行く。



   「ごゆっくりって言われてもなぁ・・・。」


   ようやくシンジも落ち着きを取り戻し、ふと今持ってこられた彼女の食事に目をやる。おかゆと魚の切り身。そしてサラダにオレンジ。
   栄養バランスを第一に考えている病院食ならではのメニューだ。しかしやはり簡素で食を楽しむ為の物ではないと感じる。
   そして何より・・それにもう熱は無く、冷めていた。

   
   
 
   
   「・・・・毎日、これと似たような物食ってるのか・・?」





    シンジの問いかけに彼女は何も答える事無く、食事の乗ったトレーを自分の手前に持ってくる。
    その彼女の慣れた手つきを見たシンジは、ハアと大きく溜め息を吐き出す。
    レイは一瞬シンジの方を向いたがすぐに病院特有のフォークの付いたスプーンを持ち、ゆっくりと動き出した時。



    「ストップ。」



    シンジは彼女の手を取りスプーンを置かせる。
    そして先程エアコンの前に置いた買い物袋を持ってくる。



    「キッチン借りるぞ。」


    シンジは一言そう言いながら手を洗い出す。


    「何をするの・・・・。」


    「あーうっさいうっさい。黙ってちょっと待ってな。あ、食うなよ、それ。」


    シンジは棚を開け取り出したナベに水をいれ火にかけている。



   「オレも一回入院した事あるんだけど、もーそん時に出た飯とかやっぱホンット最悪だよな!いや味気ねぇ味気ねぇ!
                                                    まったく、病院の奴らも何考えてんだか!」


    トントントントンと包丁が小気味良いリズムで袋から出された野菜を細かくみじん切りにしていく。


   「おーい、食えないものってあるか?」


   「えっ・・・・?」


   「何・・驚いてんだよ?何かこれだけは無理って物は無いかって聞いてるんだよ。」


   「・・・・・肉が・・・ダメ。」


   「肉がダメっても珍しいわな〜。」

   「血の・・・味がするもの・・・・。」

   「ふーん、焼かないで生で食っただけ・・・とかないわな!」

   シンジはケタケタいたずらっぽく笑う。
   そして何も言わないレイを見て微笑み、「任せとけって、肉入れなくてもできる料理だから。」と言いナベに視線を戻し、時々かき混ぜる。

   そんな感じで、しばらく特にこれと言った会話も無く時が過ぎる・・・。






    ・・・ふーっ・・ふーっ・・・ズズッ。


   「オッケー!良い味出てるよぉ!!」

   シンジは最後におたまで味見をして満足そうな笑みを浮かべる。
      そして鼻歌を歌いながら料理を盛りつけ机におく。

   コトッ

   あつあつ野菜ゴロゴロクリームシチューってとこだ。」

   「・・・・。」

   「何料理とにらめっこしてんだよ?早く食えよ、冷めちゃうだろ。」
 

   「・う・・・うん・・・。」
 
   カチャ・・ずずっ。

   レイはスプーンでシチューをすくって口に入れた。食事の際も、見えないのにも構わず無駄のない動作だった。
   一見完璧に見えた彼女だが、一つ・・・忘れていた事があった。

   「熱っ・・・!」

   「馬鹿かお前!いきなり食ったらそうなるに決まってんだろ!」

   舌をヤケドしそうになったが何とか飲み込むレイ。
   舌を冷やす為水を飲むレイにシンジは「あつあつって言っただろ。」と空手チョップをおみまいする。
   チョップをくらった髪を直し気を取り直してもう一度シチューをスプーンですくう。


   ・・・・ふーっ・・・ふーっ・・・ずずっ。


   「うまいか?」

   レイが頷く。

   「そうか、よかったよかった!将来オレは絶対!有名な料理人になるからその時自慢にしろよ!!」

   「だけど・・・。」


   シンジは次の瞬間、固まることになる。・・・・レイの思いも知れない才能によって。





   「・・塩、コショウが少し多いわ。」




  「・・・へっ?」


  「牛乳はもう少し多い方が口当たりがまろやかになるわ、クリームも少し・・粉っぽいわ。白ワインを使ったのね、でも・・・。」


  レイは口調こそ静かだが怒涛のように料理についての注意を上げる。
  シンジは「あ・・は、はい。わかりました。」とは言っているが耳には入っていないようだ。


  「すごいなお前・・・。」

  「・・・何が・・・?」


  レイの感覚はもともと鋭敏であった。先程の血の味というのもこれのせいである。
  そして更にそのレイは視覚を捨てる事により他の感覚がより研ぎ澄まされていたのだ。
  もしかしたら塩が何粒入っているかも解るのではないのだろうか。


  「結構へこむなあ〜オイ!オレ的には自信作だったんだぞ〜!」

  シンジは目頭を抑えあちゃーと言って溜め息を吐く。


   「でも・・・。」


   「ん?」


   「・・・暖かいわ・・・・。」



   ようやく安堵した表情を浮かべるシンジ。
   しかしそれとは対照的にさっきまで心なしか穏やかな表情を浮かべていたレイの表情が険しくなる。
   レイがブロッコリーを口に入れ一噛みした所であった。


   「・・・ど・・・どうした?」

   「何故・・・。」

   「エッ?」


      「何故・・・こんな事をしたの・・・見えない私には必要ない・・・。」



   よく見るとブロッコリーやじゃがいもが星型やハート型等キレイに細工されてある。

   
   「お前はオレの真心がわからんのか!見えようが見えまいが関係ねえよ!」   

    と、シンジは又もやレイに空手チョップをおみまいする。



   「そう・・・・。」

   
  「何殴られてニヤニヤ笑ってんだよ。さっさと食っちまえ。」



   この時のレイの呟きはシンジには届かなかった。


   「笑った・・・私が・・?」

   「ん?」

   「私は笑ったのね・・・。」


   しかし確かにそう言った。








   ・・・・かちゃ。


   レイがスプーンを置く。


   「はい、食い終わったら言う事があるだろ?」

   シンジニヤニヤ笑いながらレイに言う。

   「ご・・・ごちそうさま。」



   「・・・・・よっしゃ!そろそろ帰るか!まだ組み立てなきゃいけない家具もあるしな!」




   「あ・・・・。」

   レイが何か言いた気な感じである。

   「どした?」




   「・・・何故・・・・。」




   (どうもコイツはこの言葉が多いな〜・・。)と少し思いながらも黙ってレイが喋るのを待つ。



   「・・・・。」


   「・・・・。」


   しばしの沈黙。そしてレイが口を開いた。






   「何故・・・私を見ても驚かなかったの・・?」





   レイは意を決してシンジに問い掛けた。
   シンジがこの部屋に入ってきた、その瞬間から引っかかっていた事であった。

   「・・・はあ?何に驚けと?」

   その大真面目の質問にシンジはこれである。



   「包帯・・。」

   「病院なんだから珍しくないじゃん。」


   「肌・・・。」

   「白くてキレイじゃん。女は白い方が良いんだろ?」



   「・・・・この髪・・・・。」



   レイは髪を軽く引っ張りながら静かに問うが、シンジはチッチッチと指をふる。



   「甘いな!それ位でオレを驚かせるとでも思ってんのか〜?オレの回りには濃〜〜いキャラで溢れてんだよ!!
     真っ赤の髪の凶暴女に!まゆは黒のくせに髪だけ金色の冷血天才女に!紫髪のスーパーズボラ牛女に!
      更に女みたいな顔で「君みたいな人間は初めてだよ・・・。」とか言って初めて会ってから二時間でいきなり告ってきた変態銀髪ホモ男まで!
       あいつらに比べたらお前は性格も何も普通の一言しかない!!」



   「・・・・。」

   「聞きたい事ってそれだけか?そんじゃな〜!」



   バタン!!


   「・・・・・・。」












・・・・・・
・・・
・・












・・
・・・
・・・・・











   夜の病院。ある一室。
   ベッドの上で人影がもぞもぞしている。


   ・・・・・。


   今は12時位であろうか。彼女にとってこの位の時間は何の問題もない。・・・とゆうか眠れない。
   不眠症なのではないがいつも空がかすかに白んできた位の時間帯からしか寝付けないのだ。
   いつもその時間帯が来るまでひたすらゴロゴロしているか音楽を聴いているのだ。
   そして今日もいつものようにヘッドホンをつけ横になっている。しかし今回は何故かあまり音楽に集中していなかった。





  ・・・あの人を、何故・・私は拒絶しなかったの・・・。

 
  あの時・・・あの人が病室に入ってきた瞬間、絶対にあるはずの違和感がなかった・・・。でも・・それに気付けなかった・・・。

  驚き、哀れみ、憎しみ・・・拒絶・・・あの人から何も感じなかった。

  視線や口調、振る舞い・・・全てが自然だった・・・


  だから・・・忘れていた・・。


  拒絶する事も、余計な事を言わないようにする事も・・・。               (塩、コショウが多いわ・・・。)

  そして・・・・ほとんど初めて自分から声をかけたとゆう事に気付く事も・・・・。      (何故・・・・。)







  彼女は寝返りを打つ。
  そしてしばらくするとスースーと寝息をたて始めた。時間は深夜1時頃。いつもより何時間も早かった。



  そして、いつも体を抱え込むように小さく丸まって寝るはずの彼女が今日は体を伸ばし横になった自然な格好であった・・・・。










+続く+





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