もどる

Wounded Mass - ss:24

死せる加持のメッセージにより

 人の悲しみはあらゆる形態を取り得るものだ、とレイは思った。
 加持リョウジの死は公式にされることはなかったが、レイは葛城ミサトの思考から
その事実を知った。また、誰のものともしれない特務機関ネルフ内部の空気からも
その事実を裏づける思念が染み出して来ていた。
 レイは葛城ミサトの、感情を押し殺す様に驚きよりもむしろ恐怖を感じた。
人の心とはここまでも操れるものなのか、自制心とは愛する者の死をも
許容しうるものなのか。
 葛城ミサトの表情には、加持リョウジへの悲しみも読み取れず、ただ周囲からの
接触は職務以外の全てを拒絶する冷たさだけがあった。葛城ミサトはその朝も
前日の朝と同じように糊のきいた制服に身を包んで作戦司令室に現れた。
 レイはいつものように起動試験の数値あわせのために赤木リツコにつきあわされ、
やっと解放されて最後の確認のために作戦司令室に呼ばれていたのだが、
白蝋のような葛城ミサトの表情から流れ出るとめどのない悲しみに、
その場に凍り付いてしまった。
 詳細は葛城ミサトも知らされていなかった。
 ただ、諜報部が昨日の朝から夕方まで葛城ミサトの身柄を拘束し、暗くなった頃に
解放されて帰宅すると、留守番電話に加持リョウジからのメッセージが残っており、
それが加持リョウジの最後のことばになったということだけが葛城ミサトの知る
情報の全てだった。
 葛城ミサトは加持リョウジが特務機関ネルフ以外のために働いていたことには
気づいていたが、それが処刑という代償をともなうことまでは予想していなかった。
予想していなかったがいざその場になってみると、その事実を受け入れるしかない
自分がおり、自室で朝まで泣き明かしたあとこうして日常に戻って来たのだった。
 レイは徹夜明けで、通常なら仮眠室で昼まで眠り、それから帰宅するはずだった。
 どうしよう、とレイは思った。
 葛城ミサトが気になる。人の心は愛するものを失ったときには悲しむのではないのか。
それとも、葛城ミサトはもう加持リョウジのことを愛していなかったのだろうか。
 それは違う、とレイは思った。
 はからずもレイはふたりが三日前の週末に密会していたことを知ってしまっていた。
例によって葛城ミサトの心から染み出して来ているのだ。葛城ミサトはその時の情景を
何度も反芻するようにくり返し思い出していた。
 それはレイにとってすでに経験済みのことといえ、チルドレン以外の人物による
性行為の情景を見させられてしまうというのはあまり気分のいい体験ではなかった。
 気になったのは葛城ミサトと同様、その時に加持リョウジから渡されたカプセルだった。
 「どう思う?」レイはシンジに思念を送った。
 「多分、加持さんが集めた情報が全部はいっていると思う」シンジはすぐに応答した。
「トウジ、ヒカリさん、今回だけは汚い手段を使ってでも、カプセルが何だか知る必要が
あるんじゃないかな」
 「内容もな」トウジがぽつりと言った。「ワシら、もしかすると必要な情報を全部は
与えられとらんのではないか、そういう思いが取れん。のぞきは趣味やないが、
今回だけは別や」
 「ミサトさんが起きている間はだれかがミサトさんの意識を監視するんだ」
 「わかった。私はこれから少し眠りたいの。だれかお願い」
 「私が」
 「ヒカリさん、じゃ頼んだよ」
 「殺されるとわかった時点で、それまでに集めた情報…きっとそうに違いない」
 「どんな思いで記録したのかと思うと、つらい気分になるな」
 「そうね」
 「問題はどうやってミサトさんにカプセルの内容に興味を持たせ、内容を
取り出させるかだ」
 「任せて」
 レイはそれまでチルドレン自身に課していた禁をやぶり、葛城ミサトの心に接触した。
そして、慎重に慎重を重ねながら、葛城ミサトの、カプセルに対する関心を少しずつ
刺激した。
 何だろう、何かしら。何故あの時に渡されたのだろう。内容はなんだろう。
どうやったら内容を知ることができるのか。
 レイは葛城ミサトとの接触を断った。
 後は葛城ミサトがこの刺激にどう反応するかで、それには半日はかかるし、作業は
自室でしかできない。
 「仕掛けは夕方、葛城三佐が自宅に戻るころには動き出すと思うわ」
 そしてチルドレンは思念の会議を終え、ヒカリは葛城ミサトの監視を続けた。
 レイはシャワーを浴びに、作戦司令室を後にした。
 シャワー室でプラグスーツを脱ぎ、軽くシャワーを浴びてLCLの残りを流すと、
レイはいったん第壱中学校の制服に着替えて仮眠室にはいった。そして、あらためて
制服を脱ぎ下着も全部取って寝台のシーツにくるまった。
 よかったのだろうか、とレイは思った。
 あんな風に他人の心に働きかけて、相手を自分の思うとおりに操ったのは初めての
ことだった。それが可能であることはなんとなくわかっていたが、やってはいけない
ことなのだと自分に対してきつく戒めていたので、とても後ろめたい気分になった。
 眠りは浅く、昼前には目がさめてしまった。
 寝入り直す努力はしなかった。そのかわりに服を着、第壱中学校に向かった。
 今日も暑かった。雲一つない青空の太陽から送られて来る光と熱は容赦なくレイを
打った。
 道すがら、レイは葛城ミサトの心をそっと観察していた。ヒカリもまた観察を
続けていた。そしてレイの心はシンジと、ヒカリの心はトウジと接触して、全員が
葛城ミサトの心を知ることになっていた。
 葛城ミサトは眼前の業務に集中していて、加持リョウジのことは考えていない
時間のほうが長かった。しかし、ふとしたきっかけや仕事の切れ目の、集中力が
途切れる瞬間には、その心のすき間は加持リョウジの思い出でいっぱいになるのだった。
 しかし、その感情は決して表情に現れることはなかった。
 この、特務機関ネルフに対する絶対的ともいえる忠誠心の理由なんだろう、
とレイは思った。
 「ほかに、よりどころにできるものがないからじゃないかな」とシンジの思念が
はいった。「ご両親も亡くなって、特にお父さんがセカンド・インパクトの犠牲に
なっている。使徒の殲滅はミサトさんの自分に課した使命だと思う。そしてそれを
実現できるのは特務機関ネルフにいるからだ」
 「ミサトさんにとってはネルフは人生そのものちうことか。つらいな」
 「うむ、もし当っていればだけどね、それを覗いてまで知りたいとは思わない」
 「そう、復讐だけのための人生なのかしら」
 「わからない」
 レイの心はゆれた。「私…知りたい…でもがまんする」
 「そうか、そうだね」シンジは賛成した。「世の中には知らないほうがいいことも
たくさんある」
 レイは黙って歩いた。第壱中学校の校舎が見えた頃には、景色は陽炎の立ったように
揺らいでいた。
 教室にはいると、三人のチルドレンは何気ないしぐさでレイを迎えた。
 「綾波さん、大丈夫なの」ヒカリが心配そうに聞いた。
 レイはだまってうなずき、自分の席について次の時限の準備をした。
 けだるい授業が終わると、四人はレイの部屋に向かった。
 「ミサトさん、センセイのこと気にせぇへんか」
 「メール送っといたんだ」シンジはうなずいた。「今夜はもどらないから心配しないで、
って」
 「は…」トウジは目をむいた。
 「綾波の部屋に泊まるよ。ミサトさんには今夜、うんとがんばってもらわないと
いけなくなるかもしれないからね」
 「自分ら、そんな発展しとったんかいな」
 「そういうわけでもないよ。アスカのことがあるから」
 「アスカさん、まだ目を覚まさないのかしら」
 「疲れてるんだよ。もう昏睡状態じゃないと聞いている。気の済むまで寝かせといて
あげようよ」
 「そうね、あなたたちはこれまで本当に大変な任務をこなしていたんだから、
少しくらいの休暇はあってあたりまえだわ。あたしたち二人でアスカさんの穴を
埋められればいいのだけど」
 「アスカは目を覚ますよ、次の使徒の襲来までには、きっと」
 四人はいつものコンビニエンス・ストアで思い思いの食料を調達してレイの部屋に
はいった。調達した食料はとりあえず冷蔵庫に入れた。
 「今、どこにいる?」シンジがヒカリに聞いた。
 「今、アルピーヌで駐車場を出たわ」
 「じゃ、すぐに部屋に着くな。ミサトさん一人だと運転荒いから。作戦をもう一度確認
しよう」
 シンジは食卓を持ち上げた。「トウジ、反対側持ってよ」
 「ナニするんや」
 「寝台の脇に置けば、ふたりは寝台を椅子の代わりに使える」
 「なるほど」
 レイとヒカリが椅子を持って後に続いた。
 レイとシンジが寝台に座り、トウジが古い椅子、ヒカリが新しい椅子に座った。
 「カプセルに興味を持っていて?」
 「運転よりカプセルのことばかり考えているみたい。帰宅したらすぐに作業を
始めるつもりよ」
 「よし、いいぞ。綾波、トウジ、みんなで直接ミサトさんの意識を観測するよ。
人の記憶っていいかげんなものだから、ミサトさんの得る情報は全員が自分で覚えて
ほしいんだ。そしたら、後で確認して勘違いとか誤解とか解けると思うから」
 「わかった」
 「ええで」
 「ミサトさん、帰ってきたわ」
 「早っ」
 葛城ミサトは早足で駐車場から自室にもどった。呼び鈴を押し、返事がないのを
確かめると鍵を出して玄関を開けた。靴を脱ぎ捨て、背後に自動施錠の音を聞きながら
シンジの部屋の扉をたたく。扉を薄く開いて中を覗き込み、だれもいないことを確認した。
 続いて自分の部屋にはいり、コンピュータに電源を投入。起動を待つ間、加持リョウジ
から渡された白いカプセルに見入った。
 カプセルは、直径二センチ程度、高さが約五センチあり、コンピュータの外部記憶装置
として普及しているメモリと同じ大きさだった。どちらか一方にふたがあり、はずすと
接点があらわれてコンピュータと接続できる。
 問題はふたの位置と思われた。
 カプセルは全体が真っ白でつなぎ目も突起もなく、もう少し小さければ医薬品の
カプセルにも思えるようなものだった。
 葛城ミサトはカプセルに目を凝らした。
 そして、カプセルの白い色は、素材の色ではなく塗装されたものだと気づいた。
 葛城ミサトはカッターナイフを取り出し、慎重にカプセルの表面を削った。
 塗装がはがれていき、本体と蓋の間の細かいすき間に慎重に目地をほどこした部分が
現れた。
 葛城ミサトはさらに慎重に目地の物質をこそげ落とした。
 そして蓋を取った。
 それは典型的な外部記憶装置で、葛城ミサトが私的に所有しているコンピュータと
直接接続することができた。
 葛城ミサトは初めてシンジからのメールに気づいた。そして、その内容に
眉をひそめたが今は記憶装置に対する興味のほうが勝っていた。
 葛城ミサトは一時的にコンピュータをネットワークから切断し、記憶装置を
コンピュータに接続した。
 それは情報の宝庫だった。
 私的なあいさつなどは一切なく、ただ加持リョウジがこれまでに収集した情報の
すべてがつめこまれていた。
 その量に葛城ミサトはめまいを感じたが、気を取りなおして端から順番に目を
通していった。
 ゼーレと呼ばれる組織についての簡単な記述があった。特務機関ネルフは表向き
国際連合の下部組織という形態を取っているが、最高責任者である碇ゲンドウの報告先は
国連本部だけでなくゼーレでもあった。そして、国連本部とゼーレに対する報告の内容は
全く異なっており、国連本部に対しては、特務機関ネルフではなく、ゼーレが指示した
内容しか報告されていなかった。ゼーレからは命令だけでなく資金も提供されており、
国連本部からの資金の流れとは完全に別系統で管理されていたが、経理部はこのことを
把握しておらず、国連からの特別枠で報告不要の予算であると認識していた。
 ゼーレの構成員は完全には把握されていなかった。しかし、その一人一人が
先進諸国の政府どれか一つまたはそれ以上のほとんどの中枢に対して影響力を
保持しており、ゼーレが隠したいと望む情報がマスコミやその他の経路を通じて
一般大衆に知られることは決してなかった。
 ゼーレの委員と呼ばれる人々は最大でも二十人程度、そしてその全員が一同に会して
協議をこらし、決定する、その方法もさまざまだった。
 現在の委員会は音声会議や画像をともなう仮想会議で、委員自身はそれぞれの
執務室から動くことはなくなっていた。ゼーレの技術陣が、盗聴に対するある程度の
信頼性を持つ情報の伝達方法を確立できたからそうしているのだ。それまでは、
委員は実体が集合して直接会い、協議していた。そして、その方法は信じがたいことに、
物質の瞬間移動によるものらしかった。そのような技術は一般には知られておらず、
また、研究機関の存在も知られていなかったが、ゼーレはその技術を持っていたし
現在も保有していて、必要ならいつでもこの技術により移動することが可能だった。
出発と到着にはそれぞれに専用の装置が必要であり、それらの出入り口の一つは
ネルフ総司令の執務室に直結していた。 セカンドインパクトの本当の原因は
まだ解明できていなかった。
 しかし、小惑星の衝突でもなければ使徒の襲来でもなく、別の現象であったことは
確かだった。
 その証拠に、当時ゲヒルンと呼ばれていた組織の長であった碇ゲンドウは、偶然にも
セカンドインパクトの前日にただ一人南極を離れていた。南極での研究は基本的に国連が
先導し、ゲヒルンは情報収集の一翼を担っていただけだったが、その研究の裏では
ゼーレが全てを操作し、碇ゲンドウに避難をさせたのは確実なことだった。
 つまり、セカンドインパクトは人為的に引き起こされた事故だったというのが
加持リョウジの結論だった。
 それがどんな実験だったのかは不明だった。
 しかしそれが原子力に取って代わることのできる新しい動力源に関するものであった
ことは確かで、そのために実験は産油国とみられる勢力からたびたび妨害を受けていた。
 実験の失敗がそうした妨害の成果なのか、それとも全く別の原因なのかは特定されて
いなかった。
 マルドゥック機関に関する情報もあった。マルドゥック機関は全世界からエヴァの
操縦ができるチルドレンを捜し出すのが任務の、ネルフの下部組織とされていた。しかし、
加持リョウジの懸命の情報収集にも関わらずマルドゥック機関の全貌はまったく
明らかにならず、おそらくは存在していないと考えられた。マルドゥック機関に流れる
予算はネルフのどこか、おそらくは次に記されている人類補完計画のために流用され、
偽造された収支報告書が毎月作成されているのだと思われた。
 そして人類補完計画。
 この計画は、特務機関ネルフの表向きの任務である使徒の殲滅と同じだけの重要度を
持つとされながら、その内容はまったく判明していなかった。ゼーレからの特務であり
ネルフ内部でこの計画に精通する人物はわずか三名。加持リョウジはそのうちの一人、
もっとも消極的協力者であった冬月コウゾウからこの計画の存在だけを知らされていた。
 レイは、初号機の記憶バンクから読み出していた情報を思い出した。
 人類補完計画。
 「ヒトの意識の再統合」
 レイを含む全員がこの計画の内容に強い興味を持ったが、加持リョウジからの情報は
それで終わりだった。
 続いてセントラルドグマ、これはレイにとっては秘密ではなかったが他の仲間に
とっては新しい情報だった。セントラルドグマへの入場ができるのは、特定の鍵を持った
人間だけであり、それは碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、赤木リツコ、そして綾波レイだった。
加持リョウジはセントラルドグマの内部に侵入したことはまだなく、情報はその鍵に
関するものが続いたがこれはレイにとっては既知のことだった。
 「何故教えてくれなかったの」シンジはレイに軽い、本当に軽い非難の感情を込めて
聞いた。
 「誰も聞かなかったから」
 情報は延々と続いた。
 チルドレンは葛城ミサトの意識を経由してそれぞれに情報を記憶していった。
 そして最後の情報を読み終えた。葛城ミサトはとりあえず全ての情報を自分の
コンピュータに複写した。そして、記憶装置を慎重に取りはずし、蓋をせずに机に置いた。
続いて席を立ち、台所の専用冷蔵庫から冷えた缶ビールを2本取り出して席に戻って来た。
 葛城ミサトは一本の缶ビールのせんを抜き、大きくあおって大半を飲み干した。そして、
しばらく情報装置をみつめたあと、飲み差しの缶ビールの中に落とした。果たしてこれで
読み出しが不可能になるかどうか葛城ミサトには確信が持てなかったが、他に適当な
処分方法を考えつかなかったのだ。
 二本目のビールを飲みながら、葛城ミサトはまた加持リョウジとの最後の邂逅の場面
を思い起こしていた。
 「ミサトさん、ホンマに加持さんのこと愛しとったんやな」
 「そうかしら」
 「決っとるやないか、ああやって暇さえあれば思い出して悲しんどる」
 「そういう意味では確かに愛していたのかもしれない」
 「どういう意味や、それ」
 「あの人は加持さんを、父親として愛していたことに気づいたから、身を引いたんだと
思う」
 「恋人ではのうて、父親か…」
 「あの人の心は私達と同じ、まだ大人じゃないのよ」
 「ああ、そうかもしれないわね…わかるわ、それ」
 「ミサトさんは誰かに守ってもらいたいんだ」シンジは言った。「だから家族もいない
境遇で、ネルフに忠誠を誓って、その見返りとして守ってもらっているつもりになって
いるんじゃないかな」
 「さびしい人なのね」
 「僕たちもそうだった…みんなさびしかったんだ」
 「ま、ワシらについては、過去形やがな」
 「ええ」ヒカリの片手はトウジの手の甲に乗せられていた。「私達お互いにもう一人一人
じゃないもの…」
 「!」
 ヒカリの発言に全員が気づいた。
 「人類補完計画…人の意識の再統合とはこういうことなんだ」
 「全人類がたった一つの人格に統合されるということなのね…なんて…恐ろしい」
 「うむ、全人類がみんな同じ意識を共有し、そこには一つの感情しかなく、一件の
反対もなく、異論もない、そんな世界はまちがってる。十人の人間がいたら十の異なった
意見があっていいんだ、それから話しあったり投票したりして結論を出せばいい。それを、
むりやり統合して一つの意見しか出て来なくするなんて考えは無茶苦茶だ」
 「せやな、そう説明してもらえればワシにも分かる。そういう考えは危険や」
 「ネルフではエヴァの開発と同時にこの人類補完計画も進めているということ
なのかしら」
 「多分」
 「二重構造かいな、ワシら単に使徒殲滅のための組織と思うとったんが、とんだ
喰わせ者やな」
 「むしろ、使徒殲滅は人類補完計画を発動するための口実ではないかしら」
 「綾波、なぜそう思うの」
 「碇君が使徒に取込まれたとき、私その使徒の心と接触したわ」
 「ああ…そうだったね…そうか…」
 「使徒は、作られているの。育成槽の中で。どこで、誰がやっているのかは
わからなかったけれど、それだけは間違いないわ」
 「ちうことはアレか、ゼーレとかの連中は、人類補完計画を仕掛けるために使徒を作り、
こっちに送り込んで来とるというかいな、マッチポンプやというんか…」
 「トウジ、まだそれ決ったことじゃないわ、可能性の一つなんだから決めつけはよして」
 「ああ…すまんヒカリ…つい逆上してもうた」
 「いや、トウジのいうことももっともだよ。僕たちはもう少しくわしく知らなければ
いけないことがあるんだ」
 四人は誰ともなく窓の外の光景をみつめた。
 暗闇はあたかも四人を閉じ込めようとするように東の空から迫って来ていた。
 セミの声は物悲しく響き、少しずつ消えていった。





+続く+




◆マイクさんへの感想・メッセージはこちらのページから◆