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Wounded Mass - ss:10

白熱

 熱愛はすべての感情を凌駕する。
 今、レイは自室の寝台に全裸でうつぶせになり、あごの下に手を組んで、傍らで
アスカがシンジと愛しあいながら絶頂を迎えるのをながめていた。
 外は午後の日差しが強く、建設機械の規則的な騒音がうるさかったが、室内は遮光
カーテンが日差しと音の両方をやわらげていた。それでも規則的な振動は小さく床を
揺らした。窓を閉め切った室内の空調が人いきれに負けて、室内の空気は汗ばみ、愛液の
刺激臭でむせかえるようだった。天井灯は消えて、ものを見るには不自由しないが
それでも薄暗い部屋で、薄暗い床にはレイの制服と白いシャツと下着が散らばり、
黒い靴下が影を添えていた。その向こう側の小さなテーブルに向いた椅子の背には
アスカの衣類が掛けられていて、向かい側の椅子の座面にたたまれたシンジの衣類が
乗っていた。そして、窓際に一つだけ置かれた寝台に三人が寄り集まっていた。
 自分自身の身体のほてりがようやくおさまり、今ふたたびアスカの喘ぎ声が
レイの身体の奥底にまだくすぶる愛熱の炎に息を吹き込もうとしていた。
 「ああーっ、シンジ、シンジ」アスカが感極まって声をあげた。そして背を丸め
両肩を寝台の床から離し、汗ばんで上気した両手でシンジに力一杯抱きつくと
あごを引いてきつく目を閉じ、全身をふるわせ、上半身の動きを停めた。腰だけが
がくがくと動いてシンジを貪欲に捕らえていたが、その動きが唐突に止まり、それから
ゆっくりと上体を伸ばし、頭と肩をぐったりと床につけた。身体の力が抜けて両腕が
シンジから離れた。片方の手がレイの背中に乗り、冷えた背中にまだ熱い体温が
伝わった。シンジを挟み込んでいたひざが曲がったまま開いて片方のひざがレイの
ひざの裏に乗った。アスカは満足そうな微笑を浮かべて大きく息をはいた。
「シンジ、最高よぉ」
 「僕も、よかったよ」シンジはゆっくり腰を引いてアスカから離れた。
 「あぁん」
 レイはその一部始終を黙ってながめていた。言うべきかどうか少し悩んだが、結論は
決まっていた。
 「碇君」レイはものうげな口調で言った。
 「綾波、どうしたの」シンジはアスカのひざの間から身を離しそのままの位置に足を
組んで座った。
 アスカのひざはレイからシンジのひざの上に移った。
 「なんだかやっと昨夜のことが知識として整理できたみたい」
 レイは片ひじをついて半身の姿勢になり、ふたりを見つめた。
 アスカの片手はレイの背中から滑り落ちて寝台をおおったシーツの上に乗った。
 「そう、よかった」シンジは微笑した。
 「諜報部員のおぞましい記憶操作、どうしてあんなことを人間が同じ人間に対して
できるのか、それは今だにわからないわ。行為自体許せないし恐ろしい。でも、碇君が
愛してくれて、やさしい言葉をかけてくれて、気持ちのいいことをしてくれて、それで私、
あの時の絶頂感のおかげでこの世のことすべてを忘れ果て頭の中が真っ白になって。
確かにまだ悲しみはもどってきたけれど、でももう知識として、受け止めることの
できる事実として認識できるみたい」
 レイは身を起こしアスカの身体越しにシンジに顔を近づけ、口付けして言った。
「碇君ありがとう」
 「感謝はアタシにもしてよね」下から二人を見上げていたアスカが言った。「中学
仮病でサボったアンタにプリント届けるっていう口実でシンジを連れてきたのアタシ
なんだから」
 レイはアスカにも微笑してうなずいた。「セカンドも、ありがとう」そしてまた
アスカの隣に寝そべった。
 シンジの片手がのびてきて、レイの裸の背中と尻の境界のあたりに乗った。
 その部分がとても敏感なことをシンジは知っている。
 レイは腰を動かしてシンジの手の刺激を楽しんだ。
 「黒服はアタシ達のこときちんと護衛してくれているのかしらね」アスカは自分の髪の
毛を一房つまんで顔の上にかざしながら言った。「中でこんなことしていると知っているの
かしら」そしてひじをついて上体を起こしひざを閉じた。「のぞいてみようか」
 「やめて」レイは躊躇なしにアスカを止めた。「だめ」
 「何故よ、ファースト」アスカは目を細めた。「どうしてアンタならよくてアタシは駄目
なのよ」
 レイは首を振った。「ちがうわ、私もしない」
 「綾波、僕も理由を知りたいよ」シンジはレイの背中に置いた手のひらをゆっくりと
動かしながら言った。
 「あの人たちの心は危険」レイはどう説明しようか考えながら言った。「見て」
 レイはふたりに昨夜接触した情報部員の心をもう一度見せた。
 ふたりはしばらく何も口に出さず、渡された心の情報を吟味していた。
 やがてアスカは言った。「安っぽい心ね」
 「記憶が途切れるところをよく見て」レイは構わずに答えた。「とても自然なの。
電気治療を受ける場面のかすかな記憶がなかったら、誰も気がつかないと思うわ」
 「この場面が電気治療で、電気治療は副作用として一時的に記憶が失われることを
知っていなかったら意味のない情報だと思うよ」シンジは念を押すような口調で言った。
「さらに薬品で一時的な記憶喪失状態を固定するなんてこと、僕には思いもつかない」
 「この処置をしたのは誰だか知らないけれど、人の記憶にとても詳しい誰かに
ちがいないの」レイはつぶやいた。「私達は人の心をのぞくことができるようになってから
まだほんの少ししかたっていない。人の心の動きなど何も知らないも同然だわ」
 「不用意に相手の心の中に何かの情報を残しているかもしれないし、それを誰かが
気づくかもしれないというのね、ファースト」
 レイはうなずいた。「だからあの人たちは危険、もっといろいろと調べて、心の扱いに
なれるまでは接触しない方がいいと思う」
 「そう、か」シンジはうなずいた。「そうだね綾波、それがいいね」
 「碇君」レイはシンジに向かって片手を伸ばした。「もう一度、お願い」そしてその
手のひらでシンジ自身を包み込んだ。
 シンジはレイの手の中で敏感に反応した。
 レイはそっとなで上げた。シンジはまだ汗と混じったアスカの愛液が乾ききっておらず、
レイの指は抵抗もなくシンジを刺激した。
 「アンタ本当に好きねえ、ファースト」アスカの声には皮肉が感じられたが、
それ以上にシンジから受け取った愛で疲れ果て消耗しきっているのがわかった。
 「情報部員の事思い出したら、また忘れられなくなりそうだから」レイはぽつりと
言った。
 シンジは困ったような顔で微笑した。そしてうなずくと、腹這いのレイに後ろから
身体を寄せた。
 レイはそのままの体勢でひざを広げ、シンジが間にはいれるようにした。
 シンジは誘われるままにレイの足の間にひざを落とし、両ひじをレイの両脇について
腹から両手を差し込むと胸を包み込んだ。
 「ああ…」レイは思わず声をあげた。
 「いいわあその感じ」アスカは力のはいらない声で言った。「またうずいてきちゃう」
 レイは目の前にあるアスカの口に顔を近づけた。そして「気を散らせる悪い口に
おしおきよ」と言い、自らの口でアスカの唇を押さえつけた。
 アスカは思ってもいなかったレイの口づけに目を大きく見開いたが、唇から伝わる
快感の刺激に抵抗できなかった。そのかわりにアスカは両手を伸ばしてレイの肩を
つかんだ。
 レイはシンジの両手が愛撫する胸の刺激に耐えながら、いざるように姿勢を変えて
片足を上げ、まだほてって皮膚に赤身の残ったアスカにまたがった。そしてアスカを
潰すようにのしかかり、両手をアスカの頬にそえて口づけを続けた。
 アスカが舌を突き出してきた。
 レイは応えて舌をからませた。味蕾でアスカの口の中を覗きこんでいるような錯覚が
あった。真っ白な歯と真っ赤な口内が目にまぶしかった。
 レイの胸はシンジの手をアスカの胸と協力してはさみ込んでいた。レイの腹はアスカの
汗で濡れた腹とこすりあっていた。レイの下腹部はアスカ同様大きく開いた股の間で
愛液にまみれ、敏感に相手を求めていた。
 ふたりの広げられたひざの間にシンジがはいって、今はレイの胸から両手を抜き、
ふたりの腰を押さえて態勢を整えていた。
 レイの両胸とアスカの両胸が直接触れ合い、互いに押し合って潰れ、その刺激で
乳頭が勃起した。充血が始まり、乳房自体が硬くなるのがわかった。アスカの両胸も
固く張り始めていた。シンジからとは違った快感の刺激だった。レイはアスカの
誘いに応じてますます舌を強くからませ、吸い上げた。
 アスカの両手はレイの背中にまわり、首の後ろで強く組み合わされた。
 レイは片手をアスカのわきの下にまわし、腰にかけてさすった。
 レイの下腹部とアスカが触れ合い、ふたりの腰がより強い刺激を求めて上下動
しはじめた。レイは全身がしびれた快感に包まれ、もしかしたら全身が性器になって
しまったのではないかなどと思ったがそれは一瞬のことですぐにより強い快感を求めて
アスカに自分の身体を押しつけた。
 アスカもレイの重みに耐えながら自分の身体を泳がせ、腰を振ってレイから快感を
得ようとしていた。
 レイはアスカの手を取り、指と指をからめて強く握り締めた。指のつけ根がアスカの
指のつけ根とふれあい、そこからも快感が湧き出た。さらには押しつけ合っている
手のひらまでが快感の源になった。
 シンジの両手に力がはいり、レイはそこからも得られる新しい快感に身もだえした。
 「綾波、行くよ」
 レイはアスカと唇を重ねたまま首だけ曲げ、視線でシンジを誘った。
 アスカのいる近くに、アスカのものではない熱い存在がシンジとしてあった。今それが
レイと一体になってより強いより深い悦びの種をレイの身体深く打ち込んできた。
 レイは全身をびりびりとけいれんさせた。そして、一掃強く腰を振り、アスカと
この快感をわかち合おうとした。
 「はぉう、ああっ」アスカが感極まってレイから口を放し、悲鳴を上げた。「ああ…ああ
…ファースト、ファーストあんたいいわあんたいいわアンタ最高よファーストもっときて
もっときてシンジすてきよぉ…」そして激しく腰をつき上げ局部をレイに押しつけた。
 レイは歯を食い縛り目を固く閉じた。アスカとシンジと自分自身からの感覚が全部
混ざって、誰のものともどこからともわからなくなった快感の大波がレイの全身を
揺さぶりレイは息もできない状態で頭の中が真っ白になっていき、自分が誰なのかも
分からず姿勢も分からず、ただ狂暴なまでの興奮に身を任せていった。「いいっ、碇君…」
歯の間から言葉がこぼれた。レイの首筋にシンジの熱い吐息が当った。同時にレイの
身体の中をシンジ自身がが貫き通してレイの脳髄まで届いた。
 レイはその衝撃を受けとめ、息を止め、全身の筋肉を硬直させた。この時間を一秒でも
長く感じていたかった。
 ゆっくりと世界がもどってきた。
 真っ白だった世界に色彩がまず表れ、それからものの形が本来の外観を取り戻し始めた。
心臓の鼓動だけだった世界は生活音で満たされた。体温と気温が息を吹きかえした。
 レイはあえいだ。そのあえぎ声は自分自身にもとても新鮮に感じられた。膚の汗が
冷たく、熱気のこもった部屋の中で妙に心地よかった。
 アスカがレイの身体の下で大きく息をついた。レイは自分の体を持ち上げてアスカに
負担がかからないようにした。
 「あ、綾波、ごめん」シンジが姿勢を変え、レイの中から後ずさるように出ていった。
 レイはアスカの上からすべるように降りて、半身の姿勢で横たわった。
 シンジはアスカの反対側に同じ姿勢で並んだ。
 レイは言った。
 「あの時の感じ、分かった」語尾が上がって質問になった。
 「うむ」シンジはうなずいた。
 「ええ」アスカもシンジと声を合わせた。
 「あれは私の錯覚じゃなかったのね」
 「綾波の意識が拡張されて、心を身体から解き放されたんだよ、きっと」
 「私、同じ能力を持つものの存在を二十人近く感じたわ。全員が同い年で、潜在的に
チルドレンの能力を持っている」
 「半分は世界中に散らばってるわね」アスカは確認するように言った。「北京、カラチ、
チュニス、マラケシュ、アッシジ、ポルト、アナハイム、ラパス、ヌメア、クライストチ
ャーチ」
 「残り十人は日本にいる」シンジは首を振った。「どういうことなんだ、地球の人口比
約二・五パーセントだよ日本人は。それなのに、潜在的チルドレンの半分は日本人だって
いうの、どうして」
 「みんな第三新東京市にいるのね」レイは目を伏せた。「その全員が第壱中学校に通い、
一人残らず私達と同級生なのね」
 アスカがぽつりと言った。「将来、あの中の誰かが新しいエヴァに乗るのかしら」
 三人は黙った。
 使徒との戦いはいつまで続くのか、新しいエヴァンゲリオンは建造されているのか、
誰も知らなかった。新しい、拡張された意識は、時間軸の移動はできず、未来を知る
ことはできなかった。
 何と残酷なことだろうとレイは思った。提示される事実は謎の断片ばかり。こんな
疑心暗鬼の状態で、どうして困難な戦いを続けていくことができるだろうか。
 レイの心は暗澹としていた。





+続く+




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