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Wounded Mass - ss:04

心のむこう 悦びのむこう #2

 休み時間、レイはいつものように自分の机に向かって座り、ひじをついた手に頬を乗せ、
窓の外をながめていた。
 霧雨のたれ幕が景色のりんかくをぼかしていた。
 その光景はレイの目にはいっていたが、レイは見ているわけではなかった。
 シンジとの目くるめくような記憶の交流の後、レイは独りでいるときには自分の心の中
のシンジと会話を交わすようになっていた。心の中のシンジはいつもは眠っているように
静かだったが、レイが話しかけると返事をした。最初のうち、返事はまるでレイがしてい
るかのように肯定や否定の一言だけだったが、対話を続け、返事の理由を問うたりその根
拠を説明させたりするうちにだんだんと饒舌になっていった。それはあたかも言葉を知ら
ない者に言葉を教えているようで、まるで育児のようだとレイは気づいた。同時に自分自
身の語意も多くなっているような気がしてレイはうれしかった。
 レイとシンジはふたりが交際している事実を誰にも秘密にしていた。シンジが提案し、
レイは承諾した。
 交際を誰かに話せば、きっとどこまでいったか聞かれるだろうとシンジは言った。最後
まで行っていることはやはり話したくないから、口裏を合わせたらどこかで破綻するかも
しれない。だったら黙っていようとシンジは提案したのだった。
 レイにとっては告白して自慢したい相手はひとりもいなかったし、そもそも質問される
か発言を指示されていない事柄について、自分の意志で話す必要性を理解していなかった
から、レイがシンジの申し出を拒絶する理由はなかった。
 そういうわけで、教室では、ふたりは以前と同様互いに口をきくことはめったになく、
あってもネルフに関係する内容がほとんどだった。
 そして今、いつものようにやることのないレイは、いつものように窓の外を眺める姿勢
を取っていたが、何も考えず何も見ず、五感からはいってくる情報を処理していなかった
以前とは違って、レイの心の中のシンジと対話を交わしていたのだった。
 心の中のシンジとの対話は、初めてシンジと心を交わしたときの感情を想起し、さらに
その最中に交わしていた肉体的な状況も記憶の中に再現した。レイはその感情に肉体も反
応することを止められなかったし、むしろその快感を歓迎していた。
 だが、その結果はある意味悲惨なもので、レイはしかたなく生理用品を初めて買い求め
た。それは赤木リツコからも、中学校でも教えられていたことなので、知識として知って
いたが、全く実感の伴わない情報だった。
 知る意味がないという感想を述べたのだった、とレイは思った。その時、赤木リツコの
答えは「今は、生理が来る可能性について論じているのではないわ。これは、生理が来た
ときにあなたが適切な対応を取るために必要な知識なの」というものだった。それは徹底
的に実利的な回答でレイは反論できなかった。
 役に立つ知識もあるということだ、とレイは思った。役に立つ知識はシンジがたくさん
教えてくれた。そして思い出した。今はシンジのことを考えていたのだった。
 レイは、シンジが初めてレイを見たときの光景をシンジの目から追体験していた。そし
て、あの時はまったくわからなかったシンジの心がよく分かり、初対面だったにもかかわ
らずレイのことをどれほど気づかい、心配してくれたのかにおどろき、感謝もした。
 あの時、レイは医療用の移動寝台に乗せられ、エヴァンゲリオンの前に運ばれてきたの
だった。形成外科医は事故で叩き潰されたレイの腕を慎重に処置してくれたが、余りに細
い毛細血管は手術でも処理しきれず、止血フィルムを浸潤してじくじくと出血していたた
め、白い包帯は赤く染まっていた。腕の包帯と添え木のために袖を通せなくなったプラグ
スーツは急場の改造で袖を切り落とし、プラグスイッチは首の斜め後ろに移動してあった。
全身の痛みは大量の鎮痛剤で鈍磨した神経によりほとんど感じなかったが、神経ブロック
をかいくぐって脳髄に到達する波の一部は残り、レイは歯を食いしばってその痛みに耐え
ていた。
 そして、突然襲った衝撃にレイは傾いた寝台から滑り落ち、ついに悲鳴をあげて抗議し
たがそれは声にならなかった。
 シンジはレイに手を差し伸べ、抱き上げて驚愕し、恐れと怒りと同情と憐憫と、そして
最後にその感情のるつぼから精練された急ごしらえの使命感に駆られてエヴァンゲリオン
に搭乗することを申し出たのだった。
 あの時のレイの身体は冷たく柔らかかった、とシンジの記憶は言った。余りに弱々しく
て今にも折れてしまいそうだった。
 今はどう、とレイは訊ねた。今の私は冷たくて柔らかくて弱々しくて折れてしまいそう
かしら。
 今は暖かい、とシンジの記憶は言った。暖かくて柔らかく、外見は弱々しいかもしれな
いけれど本当はそうではないと分かった。綾波は暖かくて柔らかくて強くて好きだ。
 レイの心はこの言葉にじんと震え、全身が暖かくほてった。そして身体は心に敏感に反
応した。
 レイはふとももの内側に力を入れて身体を緊張させた。濡れた暖かい刺激がからだの一
番内側を伝って昇ってきた。ぞくりとする快感にレイは思わず上半身をびくりとけいれん
させた。半袖の腕の、しっとりと輝く銀色の半透明のうぶ毛までがぴんと伸びたような気
がした。
 レイは目を閉じた。元々何も見ていなかったがそうせずにはいられなかった。その姿勢
は、誰からも声をかけられたくないという強い拒絶の表現だった。
 一方レイの心の中と身体はその姿勢とは裏腹にシンジへの愛であふれていた。心の中の
シンジは単なる存在から変化して、生身の肉体を備え、レイに向かって両手を差し伸べて
きた。そして、微笑しながら近づき、レイの脇に両手を差し入れてそっとレイを抱いた。
レイの唇はシンジの唇の柔らかさ、湿った暖かさを思い出していた。首筋はシンジにそっ
と触れられる感触を、胸はもっと強くつかまれる快感を、そして下半身は接合の刺激の記
憶を呼び起こしていた。レイは口をかたく結んで自身の感情を悟られまいとした。しかし、
机についた手は蒼白になるほど強く握り締められ、小刻みに震えだしていた。それでもレ
イは心の中のシンジがレイの今の心境を察し、その感覚をもっと鋭敏に、もっと子細に追
体験できるよう協力してくれていることもあり、その状況をみずから変えようとしなかっ
た。
 やがて心の中のシンジは変化して、より現実味を帯びてきた。「綾波」シンジは呼びかけ
てきたが、それは、レイが心の中のシンジと交わしていた時のシンジの言葉ではなかった。
 もっと直接的にひびく、もっと強いイメージだった。
 レイは虚を衝かれて思わず小さく声を出した。「碇君…」
 「声を出さなくても伝わるよ、綾波。思い出して、あの感覚」
 では、これは生身のシンジなのだとレイは混乱した頭で結論した。
 「碇君、どうやって」その思考は淀みなくシンジに伝わったことが分かった。理由はと
もかくレイにはそう分かったのだった。
 「ずっと練習していたんだ、綾波とこんなふうに話しができるはずだっと思って」シン
ジの声がはずんでいた。「やっとうまくいって、嬉しいよ、綾波」
 レイは思わず薄目を開いて軽く顔の向きを変え、横目でシンジを見た。
 シンジは次の授業に使う教科書を開いてうつむき、読んでいるふりをしていた。
 「それにしても綾波、その姿勢はまるでトイレがまんしてるみたいだよ」シンジが笑い
をこらえている感情をこめて伝達してきた。「額の縦じわやめて、もっと全身リラックスさ
せたほうがいいよ」
 「そ」レイは従った。この状態では何一つ隠し事ができないことをレイは知っていた。
だったら素直に従うのが一番だとレイは思った。
 そして、開いた薄目をそのままに、ぼんやりと外の風景を見るふりを続けた。
 「碇君、どうやって練習したのこの…状態を」
 「あの時の気持ちをもういっぺん思い出して、その時の状況を再現しようと何度か試し
てみたんだ。ゆうべから。最初は全然うまくいかなくて…ああ、その、気分があっち…こっ
ち行っちゃったけど、一晩寝てやりなおしたら今朝はもっとうまくいった」
 レイはシンジが口に出さなかったことを了解して肩まで赤くなった。その情報に身体が
また反応した。
 「ああ、ごめん、綾波。もう止めよう。でも、最後に一つ。この状態は、セックスとは
無関係だ。練習して慣れればもっと簡単にできるようになるよ、じゃね」
 シンジはレイの返事を待たずにレイの中から消えた。
 レイはまたシンジを見た。
 シンジは今度はうつむいた姿勢のまま、横目でレイを見ていて、視線が合うと軽く片目
を閉じた。
 その日の午後、レイは授業も上の空で練習をくりかえした。最初のうちはうまくいかず、
ただ身体だけが反応した。ライナーを着けていてよかったとレイは思った。やがてふとし
たはずみでその状態を自由に呼び出せるようになったことにレイはおどろいた。
 それはまるで、それまで何度練習してもできなかったこと、そう、逆上がりだとレイは
思った。あれは半年くらい前の蒸し暑い放課後、洞木が手伝ってくれて、ふたりで鉄棒と
格闘したのだった。そして、何度目か何十度目か、もう試した数も忘れた頃に、洞木から
姿勢を直され、尻を押されて挑戦した試みで、ふとしたはずみでうまくできた。その後は、
それまでの失敗がうそのように簡単に上がれるようになったのだ。
 あの時、洞木はまるで自分のことのように喜んでいた。それが、委員長としての義務感
なのだと理解していたのは間違っていたのかもしれないとレイは思った。
 終礼。洞木の声が教室に響いた。
 レイはかばんを持ちながら、心の触手をそっとシンジに伸ばした。それは伝達ではなく、
シンジの存在を確かめるだけのごくごく控え目で軽い接触だった。
 シンジは鈴原トウジ、相田ケンスケのふたりと冗談を言いあうのに忙しいとみえ、レイ
の接触に気づかないように思えた。
 そこでレイはそのまま心の触手を引っ込めたが、その時、シンジの心にかすかなメッセー
ジを残しておいた。
 そして一人で席を立ち、教室を出ると後も見ずにげた箱に向かい、靴をはきかえて自分
の傘に手をのばした。それは以前下校途中で雨に降られた時、通りかかったコンビニエン
スストアで調達した白い柄の透明なビニール傘で、いつ別の生徒のものとまちがえられて
もおかしくないものだったが、レイはそれが自分のものだと漠然と信じていた。
 レイは傘を開き、校門を後にした。
 めずらしい霧雨だった。雨は、もっと激しく、滝のように降る。そして、数分から数十
分の後、跡形もなく晴れ上がるものだ。こんな、しとしと降る雨は、レイは記憶がなかっ
た。
 濡れた路面がレイの姿を写しだした。レイは傘を持って歩き、レイの足元の影はその姿
を忠実になぞった。
 どちらが本当の私なの。レイは自問自答した。特務機関ネルフにとって必要な私、碇司
令の期待する私、碇シンジを愛している私、私自身を一番大切な私。
 その発想は自分自身驚愕するようなものだった。レイは、自分が何者なのか、自分の存
在価値がどこにあるのか、自分の生存する意味が何なのかを考えたことがなかったことに
気づいた。
 今は碇シンジの事だけを考えようとレイは思った。碇シンジは言ったのだ。レイを守る
ためにエヴァに乗り、レイを守るために戦うのだ、と。その庇護にあまえることの何がい
けないのか。それは、セントラルドグマの保育槽から取り出されたあと、ずっと一人で成
長してきたレイにとって、初めての経験、初めての発想だった。
 過去の知識と経験に照らし、レイはこんなことを考えた。もしこの事実を赤木リツコが
知ったらこう言うだろうと。「レイに自我の芽生える兆候があるわ。これが何を意味するの
か、今の時点では何も言えないわね」
 レイはうつむいて口元をゆがめた。赤木博士、必要なことは教えてくれるけれど、私を
愛してはいない人。そしてレイは気づいた。赤木リツコが愛していないのはレイ自身だけ
ではないこと、愛している者が誰一人いないことを、赤木リツコ自身を含めて。
 レイはうつむいたまま涙ぐんだ。それは赤木リツコに対する憐憫ではなく、それまでの
赤木リツコと同じ人生を歩みながらそれに気づかなかった自分自身に対する決別の涙だっ
た。
 もう、ちがうのよ、私には。碇君がいるから、とレイは思った。
 風景は涙と霧雨でかすみ、レイは片手の甲で涙をぬぐいながら歩いた。反対側の車線を
トラックが轟音を残して走り去り、巻き起こった風であおられた雨粒がレイの全身を包ん
だ。雨は暖かく、レイはその湿った感触を楽しんだ。
 傘をさしてレイは一歩一歩ゆっくりと進んだ。毎日通う道。その見なれた風景が今日は
違ってみえる。レイはそれが自分が変わったためだと思った。
 いつもはレイが先に帰宅してシンジが来るのを待つ。今日、レイはシンジの心の中に、
ある情景を残してきた。やがてその場所が見えてきた。信号機のある交差点。特徴的な電
飾で装飾された広告塔。レイはいつもその角を右に曲がる。曲がったところでシンジはきっ
と待っていてくれる、レイはそう信じていた。
 シンジは微笑してレイを迎えた。「帰ろうか、綾波」
 レイは黙ってうなずいた。
 ふたつの傘はひとつになり、ふたりは軽く口づけを交わした後、肩を寄せ合って歩いた。
 「濡れるよ」シンジは言い、レイの肩を抱き寄せた。
 レイは首を振った。「いいの」
 そして、シンジの腕を抱き寄せ、身をあずけた。
 シンジの身体の温もりが半袖のシャツを通して伝わってきた。
 突然レイは自分の心の奥底からわきあがってきた感情の大波に息が詰まり、たえきれな
くなってうつむいた。そしてシンジに添えた手に力を入れた。肩が小刻みにふるえた。
 シンジが心配そうに聞いた。「綾波、どうしたの、大丈夫」
 「わかったの。これが幸せという状態だって。幸せすぎな状態だって」
 レイはそれだけ言うのがやっとだった。
 「僕もだ、綾波」シンジはささやくように答えた。「もう、綾波のいない生活なんて考え
られないよ」
 「碇君、私も」
 シンジはぽつりと言った。「使徒、倒さなくちゃね」
 「ええ」
 ふたりはレイのアパートまで帰ってきた。雨のせいか、規則的な建設機械の音は、今日
は響いていなかった。
 勝手なものだ、とレイは思った。日頃はうるさいだけの騒音なのに、こうして平日に聞
こえないと何だか物足りない。
 シンジは玄関で傘をたたみ、レイはエレベータを呼んだ。
 扉が開きふたりはエレベータに乗り込んだ。
 エレベータが上昇を始めた。
 レイはシンジの脇に両手をいれて軽く抱いた。
 シンジはレイのひじに手を添えて答えた。
 ふたりは唇を重ね、互いの舌をからませた。
 レイは目を閉じていたが、まぶたの裏の視界は、ふたりの舌の鮮やかな桃色で埋めつく
された。レイはシンジに上体を押しつけ、自らの胸を刺激した。敏感になっていた身体は
すぐに反応し、乳首が固く盛り上がった。レイはさらにその胸をシンジにこすりつけるよ
うにして揉んだ。胸は全体が張ってますます刺激に敏感になるのが分かった。
 エレベータはレイの部屋の階に到着し、小さなベルが鳴って扉が開いた。
 ふたりは身体を離し、レイが先に、シンジが後からエレベータを降りた。エレベータは
ふたりの背後で音もなく扉を閉じ、かすかなひびきを残して降りていった。
 レイは早く部屋にはいりたくて足早に歩いた。いつもより少し大きな足音がせわしなく
廊下に反響した。レイはがまんできなくなって口で息をした。後ろからシンジの足音がつ
いてきた。ふたりの足音はからみあい、あるいはそろい、全体として不協和音をかなでた。
 その音さえもレイを興奮させた。レイは玄関のノブに手をかけてあえいだ。
 「綾波、大丈夫なの」シンジが少し心配そうに聞いた。
 レイは首を振った。「心配ない」そしてシンジのシャツの袖を引き「早く、はいりましょ」
 「わかった」
 ふたりは玄関の扉を開いて中にはいった。
 レイは後ろ手に扉を閉め、傘もカバンも床に落としてシンジの背中に抱きついた。そし
て、だまって背中に頬を押しつけ、両手をシンジの胸にまわしてしばらくじっと立ちつく
した。
 動悸は一層早くなり、レイは荒く息をついた。レイの両手は見えないままにシンジの胸
をまさぐり、汗と雨で濡れた生地ごしにつたわるシンジの身体の感触で、レイはぶるぶる
と全身を震わせた。
 シンジは傘を玄関のたたきに立てかけ、カバンを床におろしてそのままの姿勢で靴を脱
いだ。シンジの両手は後ろにまわってレイをぎこちなく抱いた。
 レイも靴を脱ぎ捨て、ふたりはそのままの姿勢で中に進んだ。
 居間にはいると、まだ降っている霧雨で薄暗い居室の風景がふたりを迎えた。家具のほ
とんどない割りに雑然とした部屋だったが、ふたりには一番安らぐ場所だった。
 レイの視界はシンジの背中にさえぎられていたが、光景ははっきりと想像できた。
 左手には小さな流しと台所。並んで料理したまな板が立ててある。その向こう側にはふ
たつの椅子が向きあう食卓。今はひとつの椅子の背にレイが今朝脱いだ寝間着がかけてあ
る。なにもない床を見回し、カーテンのない窓を過ぎ、そしてふたりを待つ寝台。寝乱れ
たシーツ。
 碇君が来る前に交換しておけばよかったとレイは思った。
 ふたりは寝台の脇で立ち止まった。
 シンジは振り向き、あらためてレイを抱いた。
 レイもシンジの腰を抱き、頬を重ねてすり合わせた。そしていったん上体をそらすとシ
ンジの両頬をはさんで口づけした。唇と舌とがまとわり合い、暖かい唾液が混じり合った。
息をつき、姿勢を変えるのにあわせて小さな音が響いた。建設機械の規則的な騒音のない
部屋で、小さな音はいつもの何倍も大きく聞こえるような気がした。ふたりの汗の匂いが
混じり合って鼻腔を刺激した。湿った空気で嗅覚もいつに増して敏感だった。興奮した身
体からの分泌物の匂いまで感じられるようだった。そのあまく刺激的な匂いは情熱をいっ
そう高め、ふたりは固く抱き合い、少しでも多くの部分を直接感じ合おうと全身でからみ
あった。
 レイは胸を強くシンジに押しつけた。生地を通してシンジの体温がつたわり、固くふく
れた乳房はつぶれまいとしてますます乳頭を強く刺激した。そこからじんと痺れるような
快感の信号がレイの全身に流れ出した。
 一方レイは下腹部にシンジを感じていた。シンジの腰はレイとぴったり密着し、スボン
の下でシンジが完全に臨戦態勢を整えていることがまざまざと感じ取れた。レイはそこか
らも快感を引きだそうと腰をうごめかしてシンジを刺激した。
 シンジはそのままの姿勢で腰をゆらし、さらにレイに押しつけてこすりあげた。
 レイの下腹部をシンジが移動していくのがどきどきするような興奮を呼び起こした。レ
イはさらに強くシンジに自分の腰を押しつけていった。身体が反応して下半身が熱くほて
り、ライナーとこすれる皮膚の感触がぬめってきた。もう、ライナーがあふれ出る体液を
処理しきれなくなって悲鳴をあげているのだとレイは思った。ライナーだけではなかった。
レイの心も身体もシンジを求めて悲鳴をあげているのだった。
 それでもレイはその思いを口に出さず、もっと情熱的にシンジに身体をあずけた。レイ
の全身が唇や胸や下腹部やふとももから流れ出る快感の衝動で満たされた。レイはシンジ
だけを感じシンジだけを愛した。
 シンジはレイの制服に手をかけた。
 レイは両手をシンジから離し、シンジのベルトをゆるめた。
 ふたりの制服とスボンは互いにからまるようにして床にならんだ。
 ふたりはあらためて互いのシャツに手を伸ばし、上から順番にボタンをはずしていった。
ぽつ、ぽつと小さな音が聞こえた。やがて全部のボタンがはずれ、ふたりは自分でシャツ
を脱いだ。
 レイは窓を背にしてたつシンジをまぶしそうに見つめた。レイは両手を背中にまわして
ブラジャーのホックをはずした。ぷちっという音が響いて胸が解放され、レイははずした
ブラジャーをシャツの上に落とした。汗と雨でしめった衣類は不快だった。衣服と供にそ
の不快な気分が脱ぎ捨てられ、レイは深呼吸してシンジに抱きついた。
 じっとりと湿った膚が今は心地よかった。レイはシンジの肩につめを立てた。
 シンジはレイの背中を両手のひらでこするようになでさすった。両手は肩から円を描い
て背中を下っていった。
 レイはその刺激にぞくぞくするような快感を覚えた。
 シンジの両手はそのままレイの下着にかかり、親指が内側にはいり、下着をおろした。
下着が尻を過ぎていき、続いて身体の前もあらわになった。
 シンジの手はそこでいったん止まり、あらためて全部おろそうと体勢を変え、腰をかが
めた。
 レイはシンジの下着をおろそうとしたが、前がひっかかってうまくおろせなかった。そ
こで、シンジの両手をシンジ自身の下着に誘導し、レイは自分で脱ぎかけの下着をおろし
た。内側のライナーが分泌した体液を収容しきれなくなっていて、布の部分まで濡れてい
た。汗だけでないのは明白だった。
 レイは下着を片足ずつぬくと、さきほど脱ぎ捨てた衣類のとなりに落とした。
 シンジが下着を脱ぎ終わるのを待って、レイはシンジの腰に片手をまわし、片手でシン
ジ自身をくるんだ。
 それはレイの手の内側で激しく反応し、みるみるうちに頭をもたげて膨張した。レイは
愛おしそうになで上げた。そしてあっという間に体液でうるんだ指でそっと刺激した。シ
ンジはますます固くなり、レイの掌の中で腰の動きにあわせて前後動した。レイはシンジ
のぬめった表面の敏感な部分をまさぐって軽く爪を立てた。
 「あうっ」シンジは思わず声をあげ、レイの両肩に手をついた。そして上目がちにレイ
を見ると歯を見せて微笑し、右手でレイの左の乳房をつかむと、乳頭を指の間にはさんだ。
 レイはそれだけで十分な刺激になり目を閉じて喘いだ。「碇君」それでもシンジの下半身
への刺激はやめなかった。
 シンジの左手はレイの腰にまわり、ふたりは汗ばんだ全身を寄せ合い、膚を密着させた。
シンジの男らしく硬くなりはじめた筋肉でおおわれた身体がレイの女らしく柔らかくなり
はじめた身体にぶつかった。シンジは片手で自分のわき腹をおさえると軽くかがみ込んだ。
 「碇君、どうしたの…」レイは喘ぎ声に心配そうなニュアンスをこめるのにかろうじて
成功した。
 「あ、いや、綾波の肋骨がね、当たって」
 「悪いわね、やせっぽちで」レイは少し呼吸を整えながら答えた。「でも、今月も数字増
えたわ。身長、それに胸囲も」
 チルドレンは学校だけでなく、特務機関ネルフ独自の身体検査を毎月受けていた。レイ
はその検査の数字の事を言ったのだった。
 「僕もだ」シンジは早口に言った。「体重はどうなの」
 「意地悪ね」レイは言った。「伊吹二尉が言ってたわ、プラグスーツは毎月のように仕立
て直さないといけないって」
 シンジはレイの耳に口を寄せて軽く噛んだ。
 レイは切なそうな喘ぎ声をあげた。「ああ…碇君、もっと」そして掌の中のシンジをつか
む指をすべらせた。レイの指はシンジの暖かみを感じながらぬめってよくすべった。
 「うっ」シンジは軽くうめいた。「綾波、お手やわらかに…がまんしきれないよ」
 レイはうつむいた。口元がゆるむのを見られたくなかった。しかし、口元はゆるむかわ
りにきつく閉じられた。
 シンジの指が後ろからレイの下半身に近づいてきた。
 その、背中からすべるように降りてくるシンジの指先の刺激がレイの全身をぶるぶる震
えるさせ、さらに尻のわきをなでて下がってくる指先にレイは激しく反応して片手でシン
ジの肩にもたれかかった。そしてシンジの胸に顔を埋め、左右に振った。髪の毛が乱れて
シンジの頬を叩いた。シンジの頬と自分をたたく音が耳に響いた。レイは大きく息をつい
た。
 シンジの指はレイの足のつけ根に届いた。
 レイは応えてひざを少し開いた。
 シンジの指がふとももを割って進んできた。
 レイはふとももの内側の刺激に身もだえてシンジの指を締めつけた。
 シンジは親指でレイの尻の一番下の部分をくすぐった。
 レイはたまらずにひざを開いた。
 シンジの指は再び前進を始め、レイの秘部にとりついた。そして、両側から、軽く、軽
く、さわっているのかどうか分からないくらいの力でレイの秘部を刺激した。
 レイはシンジの指の動きにあわせて下半身から伝わる快感の波に、自ら腰を振って応え
た。下半身がじわっと潤ってくるのが分かった。あふれた愛液が内腿を伝わり筋を引いて
滴った。
 「洪水だよ」シンジが言った。「綾波、もうがまんできない」
 レイは、シンジのさそいにしたがって寝台に向かったが、一歩一歩足が震えて最後は寝
台にへたり込むように身を投げだした。そして、おおいかぶさるシンジの背中に両手をま
わして抱き寄せた。
 レイはシンジの耳元でささやいた。「碇君…来て」
 レイはひざを大きく開いた。
 シンジはそこに体重をかけないよう注意しながらわり込んできた。そして、片手で自身
をささえ、片手で目標を定めた。
 「はぁう」
 レイは大きくあえいでシンジを迎え入れた。レイの身体はもう十分に潤っていて、シン
ジを受け入れるのに何の抵抗もなかった。レイはすぐに両足をシンジの背後で組んで、そ
のままシンジの前進に合わせて腰を上げ、ひざを引いて姿勢を変え、もっと深い結合を求
めた。シンジの温もりと固さが直接レイの脳髄に届いて、レイは何も考えられずに力一杯
シンジを抱きしめた。脳髄の快感は全身に伝わってレイはぶるぶると身体を震わせた。そ
して、シンジの腰の動きにあわせて自らも腰を動かしそのたびに生まれてくる新しい快感
の波に身もだえした。レイは固く目を閉じ歯を食いしばって、シンジ以外何も感じるまい
とした。そして、歯の間から息をもらし、頬にシンジの膚を感じて部位も確かめずに舌を
のばして舐めあげた。シンジの汗と体臭の混じった匂いがレイの鼻腔を満たし、その刺激
でレイはめまいのような感覚にとらわれた。
 シンジは激しい勢いでレイに打ちこんできた。そして調子を取るように腰を前後してレ
イの内側をけずりあげた。
 レイは息づかいが荒くなり、口を開いてあえぎながらシンジに応えた。そして、シンジ
の背中で組んだ両足に力を込め、わきの下から肩にかけた両腕でシンジを抱きしめた。つ
ぶれた胸がシンジの胸でこねられ、下半身からの刺激と快感が増幅されるようだった。レ
イははげしく首を振った。「碇君、碇君」
 シンジはその言葉に反応するように腰の動きを止めた。
 レイは何がおこったのか分からないままに、ねだるように全身をうごめかせた。
 シンジはレイの腰と背中に手を差し入れると、そのまま後ろに身をそらしてレイのから
だを持ちあげた。
 「ああっ」レイは思わず声をあげた。そして、気がつくと結合したままで足を組んだシ
ンジのひざの上に座った姿勢で抱き合っていた。レイの自重でシンジ自身をますます深く
迎え入れて来るのが分かりレイはその積極的な姿勢に何もかもが分からなくなりどうでも
よくなりシンジ以外は世界から消えていった。「いい…いいわいいわいいわいいわ碇君ああ、
あああああ」レイは組んでいた足を離し力を抜き、ひざを曲げた姿勢でシンジの背後の敷
布を強く、弱く蹴った。敷布の白の上を靴下の黒が動き、レイの視野の片隅でぼやけて尾
を引く染みに写った。黒い染みは白い大地に打ち上げられて瀕死の魚のようにけいれんし
ていた。
 シンジはレイの尻の下に両手を入れ、持ち上げて前後動を続けた。
 レイは両腕をシンジのわきの下からはずして肩にまわし、ひじを乗せて、両手はシンジ
の後頭部をつかんだ。そして自らの身体を引き上げてシンジに協力したが、すぐに全身の
快感に負けて両手を放してしまい、もう何もつかめないままに白い敷布をまさぐった。上
半身はぐったりとしてシンジによりかかり、あごをシンジの肩に乗せて喘いだ。シンジの
首筋の汗の匂いでまたむせ返るような興奮の波がレイの後頭部を叩きつけるように過ぎて
いった。一瞬頭の中が真っ白になり、次の瞬間シンジが下から突き上げてくる衝撃とレイ
自身が下に落ちる衝撃で全身の細胞ひとつひとつが爆発したような気がした。膚が火照っ
て汗がふき出した。レイは小さく泣くように声を漏らした。「ああ、碇君、碇君、いいわ、
いい…」
 「綾波」シンジは短く言った。歯を食いしばっているような切迫した口調だった。
 レイはますます興奮した。普段真っ白な身体が今はうすい桃色に内側から輝いているよ
うだった。頬はさらに上気して赤く、眉の間には縦にしわが寄っていた。目は大きく見開
かれていたが焦点は合っておらずどこも何も見えていなかった。レイの視野は、今はただ
汗を光らせたシンジの首筋の肌色でいっぱいだった。耳にはいるのはふたりのあたかも同
調したような心臓の鼓動と、レイの内側を前後に行き来するシンジとの摩擦音だけ。結合
部は血のように赤く腫れ上がり、びっしょりと濡れてふたりの前後動をなめらかに手伝っ
た。レイの内部でシンジの動く様子が手に取るようにわかった。シンジはますます硬く膨
張してくるようにレイには思えた。そしてレイはシンジを包み込みしっかりと捕らえ、侵
入に抵抗し、退去に抵抗した。
 レイの抵抗はシンジを強く刺激してシンジはますます興奮した。鼻孔をふくらませ、肩
で荒い息をついてレイの身体を持ち上げ、降ろした。かかとは小刻みに動いてレイの尻や
尻の間を刺激した。尻をつかむ両手も指が休まず動き回り結合部のすぐ近くまで押したり
なでたりしてレイに悲鳴を上げさせた。
 レイの身体の奥底から、これまでそんな場所があるとは想像もしていなかった程深い暗
い淵から快感の大波が沸き上がってきた。「はぁっ」レイは全身を硬直させた。次の瞬間両
手をシンジの背中に回してまだそんな力が残っていたのかと思うほどの力で抱きしめた。
「碇君、碇君、いかりくん、い、か、り、く、ん、っ」
 「綾波っ、もう」
 「ああーっ、碇君っ」
 さらに熱い衝撃がレイの内側を貫いて何度も何度も痙攣の余震が続いた。ふたりは座っ
たまま目をつぶり、硬く抱き合っていた。しばらくの間身じろぎもせず、やっとゆっくり
両手の力が抜けていった。
 レイはまだ寄せては返す波のように全身を包む快感の余韻にひたっていた。やがて皮膚
の感覚がもどり、汗をかいて少し寒い気がした。目の前にシンジがいた。
 「碇君」
 「綾波、よかったよ」
 レイはうなずいた。「こんなの初めて」
 シンジがそろそろと腰を引いた。萎縮したシンジがレイの胎内から退去していった。
 「うっ」
 レイは快感の最後の波を押し出した。
 ふたりは並んで横になった。
 「雨、止まないわね」レイは言った。
 「それもいいさ」シンジは答えた。





+続く+




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