僕と奥さんの馴れ初めを他人に話すのが僕は一番苦手だ。
第三新東京市以外の人に説明するのが特に。まず、僕らの中学生のころに話はさかのぼる。
僕が物心がついたころ父と母はそばにはいなかった。先生呼んでいた初老の男性が僕のすぐそばにいた。
14歳になったら僕は父に呼ばれて第三新東京市にやってきた。なぜ今頃になって父が僕を呼ぶのか、わからないまま僕は目的地に着いた。
そこでの目の前に女の子がいた・・・・ような気がした。
多分錯覚だったのだろう。

結局父が僕を呼んだのは、僕に会いたいからという父親なら誰もがもつであろう当たり前の感情ではないという事に会ってすぐ気づかされた。
わけのわからないロボットのようなものに乗り同じくわけのわからないロボットのような敵をやっつけろと父は言った。
僕のわずかな期待は打ち砕かれた。少しだけ親子の感動の再会を思い描いていた。
しかし、父は乗らないなら帰れという。約10年ぶりにあった息子に向かって・・・
僕はもちろん拒否した。乗りたくないというよりも父への失望が反抗につながった部分が大きかったと思う。

すると、父が命令したとおり別のパイロットがやってきた。白いノースリーブのパイロットスーツらしきものを着た重傷の女の子だった。
その女の子を見て僕ははっとした。今朝電話ボックスの近くで見た女の子だったからだ。
その女の子はまだ、点滴もはずされていなく、あちこち骨折していそうなのが嫌でもわかった。
父がその女の子に「乗れ」というと女の子は苦痛に顔を歪めながら起き上がろうとしていた。
すると、大きく揺れた。僕はたまらず女の子の元へ駆けつけた。倒れそうな女の子を支えるために僕の腕で抱えた。
すると、苦しそうな息づかい、体のふるえ・・・決して気持ちよくない感覚が僕の中に流れ込んできた。
この子がかわいそうというよりも父への反抗心の方が強かったのかもしれない。僕はわけのわからないロボットに乗って
わけのわからない敵ロボットと戦う事に決めた。


これが僕と奥さんとの始めての出会い。馴れ初めというよりも父への反抗が強く思い出に残っているから、
どうしても奥さんがメインの話が出来ない。色気もへったくれも無い話になってしまう。

だから僕は奥さんとの馴れ初めを人に話すのが苦手だ



第一章「別れの後の再会」

僕は運命の人と二回、いや、正確には三回始めて会っている。一回目が前述の通り、
そして二回目が彼女が零号機を自爆させ僕と初号機を守ってくれた後。そして今から語る三回目・・・
 
全ての敵を倒した。使徒と呼ばれる人類の敵。僕は全てのモノを呪った。
自分の存在、父親の存在、そしてエヴァンゲリオン初号機も。
この三年ほどの出来事を僕ははっきりと覚えていない。もはや第三新東京市は僕にとって苦痛でしかなかった。
誰に別れを告げたのかわからないまま、気がついたらまた「先生」のお世話になっていた。

先生のところでの話は面白いものではない。友達もいないまま高校を卒業し
僕は大学進学の為に再び先生の下を離れ、一人京都に向かった
高校時代は趣味のチェロと勉強ぐらいしかすることは無かった。
元来人付き合いが苦手な僕。そして第三新東京市での出来事 。
友人をつくろうなんて気はさらさらなかった。

西の横綱と呼ばれる京都大学。学校でもトップクラスの成績だった僕は難なく合格した。
学校で研究していれば人とも関わらなくてすむ。そう思った結果僕は京都大学に進路を決めた。
松代の第二新東京市から第三新東京市に移転された東京大学にはとても行く気になれなかった。

しかし、その京都で僕は三回目の始めての出会いに遭遇した。



第二章「運命の場所」

運命の出会いの前に僕はもう一つ驚いた再会があった。
着慣れないスーツを着て入学式の会場で受付の順番待ちをしていると前のほうでなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「ちょっと、入場できないってどういうわけ?ちゃんと入試にパスしてここに居るんだから何の問題もないでしょ?」
「でも・・・こちらのはがきは式の案内のはがきではなく、受験票ですので・・・」
「だったら照会しなさいよ!名前ちゃんとあるはずだから!」
僕はこの声の主を知っていた。
「お名前は何とよむのでしょうか?」
「ソ・ウ・リュ・ウ・ア・ス・カ・ラ・ン・グ・レ・ーよ!さっさとしてよね、だから日本は・・・」
周りの人がざわついている中僕はアスカのところに近寄っていた。
「アスカじゃないか!!」
「あーっ、バカシンジ!!ちょっとあんたなんでこんな所にいるの?あんたまさか京大なの???
こんな人間でも入れるなんて京大もレベルが落ちたものね。」
「ちょっと、4年ぶりにあった人間に開口一番バカはないだろ!」

とまあ、アスカに再会するなり中学2年生のときに「夫婦喧嘩」と呼ばれた掛け合いを始めてしまった。
こんなにしゃべったのは本当にあの時以来だった。忘れたい過去であったはずの4年前もアスカと再会できたことで、
ちょっとは抑えられていた。
「なかなか似合ってるじゃない。そのスーツ。しばらく見ないうちに男らしくなったんじゃない。」
「そういうアスカは変わってないね・・・」
「そういう時は嘘でも変わったって言うもんなのよ!やっぱり馬鹿シンジね」
照会がすんだアスカにつれられ僕は割り込みをして(正確には僕は並び直そうとしたがアスカが無理矢理・・・)
後ろに並んでいた人に会釈をして会場に入った。


式が始まるまでアスカは一方的に話していた。つまり自慢話だ。
アスカはドイツに戻った後に院に進み若くしてドイツを代表する研究者となったが、母親の故郷の文化に興味を持ち、
研究を一切後任の人に任せ、かつて日本の文化の中心であった京都にやってきたとのことだ。
その行動力が何ともアスカらしかった。

「シンジはなにやってたの?」
「よく覚えてないんだ。ネルフが解体されてからの事。気がついたら先生の所にいたんだ。
もう僕には何も残っていなかったからチェロと勉強ぐらいしかしていなかったんだ。」
「変わってないわね、あんた・・・」
「でも、今アスカと会えて嬉しいんだ。さよならも言わず別れたし、アスカもつらい体験ばっかりだっただろうけど、
こうして別の土地でエヴァと関係ない人生をあゆんでる。それが、なんだかとても嬉しいんだ。」
「おあいにく様、私はいつまでも過去をくよくよ引きずる女じゃあないの。あんたと一緒にしないで頂戴!」
「やっぱりアスカは強いんだね・・・」
その当時はアスカの言う事を鵜呑みにしていたけれど、実はアスカも吹っ切れてはいなかったんだ。
母親の故郷である日本にわざわざ来たのが何よりの理由だからだ。加持さんの死、使徒の精神汚染攻撃、
14歳の少女が受け止めるにはあまりにも重すぎた出来事だった。それは僕と同じだった。


すると式が始まった。アスカと僕は違う学部なので、いったん別れてそれぞれの席に座った。
学長代理の挨拶があった後、新入生代表の挨拶があった。その壇上に向かう人物を見て僕は戦慄が走った。
「それでは新入生代表・・・」


「綾波レイ」



第三章「新生活」

入学式は滞りなく進んだ。
入学式のあとすぐに学科ごとに集まった。すると、綾波も僕と同じ理学部生物学科である事が判明した。
何度か綾波と目が合ったが、綾波は僕に何もリアクションを返してこない。
綾波は一番最初に自己紹介をした。
「綾波レイです。」
そういうと彼女はすぐに席に戻ろうとした。担当教官があわてて
「綾波さん・・・もう少し何か話してくださいよ、趣味とか、好きなものとか、出身地とか・・・」
すると綾波は
「趣味は・・・ないわ。好きなものは・・・ないわ。出身地は・・・わからない・・・」
そういうと綾波はすぐに席に戻った。
「じゃあ、次の人」
教官はレイの異様な雰囲気に負け次の人へ紹介を促した。
次の人もレイの雰囲気にやられたどたどしく紹介を終えた。
三人目として、僕の番だった。
「碇シンジです。趣味はチェロ、好きなこともチェロです。出身地は・・・」
と僕も異様な雰囲気に負け(とはいっても人前で挨拶するのが苦手なため、僕にとって重大な問題ではなかったが)
すぐに紹介を終えた。しかし綾波は僕のことを見ているが相変わらずの無表情だった。


学科の集まりも終わり、そそくさと教室を出ようとするレイに僕は近寄った。
「綾波・・・偶然だね、こんなところで会うなんて。アスカもここに居るんだよ」
「碇くん?だったかしら?あなた、私を知ってるの?」
「な、何言ってるの?第三新東京市で一緒だったじゃないか?」
「そう・・・私第三新東京市にいたの・・・」
「いたの・・・って、自分の事じゃないか?覚えてないの?」
「思い出せないの、16歳より前のこと」

すでに彼女は僕の知ってる彼女ではなかった。彼女が自分の母親のクローンで、魂の入れ物というべきほかの彼女の
身体がリツコさんによって壊されたのを僕はこの目で見た。あの時から綾波が怖かった。そしてさらに父を憎んだ。
彼女は4人目ではない、しかし、僕にとっては目の前にいる綾波レイは4人目の綾波レイと同然だった。

すぐにアスカに報告した、綾波が記憶をなくしている事を。するとアスカは次の日すぐに綾波のそばに行き、
3人分のこれからの授業の計画を立ててしまった。14歳のころはレイとアスカは水と油みたいな存在で相性も悪かったが、
4年という歳月がアスカを変えたのだろう、少なくとも僕にはアスカが頼もしく見えた。
それから一年僕ら3人はいつも一緒にいた。

二年になりそれぞれの専門科目の授業に入るためにアスカとは別々になった。
相変わらず綾波は記憶を戻していないが、もう、僕たちはそんなことはどうでも良かった。
この一年で綾波とアスカと三人で色々な思い出を作っていった。
綾波と僕は形而上生物学を専攻する事となった。




+続く+



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