「目標は依然健在、第3新東京市に向け進行中!」
「航空隊の戦力では足止め出来ません!」

「総力戦だ! 厚木と入間も全部あげろ!」
「出し惜しみは無しだ! 何としてでも目標を潰せ!」

発令所に居並ぶ国連軍の将校達は、憤怒と焦燥に机を殴打する。

第3新東京市を目指して、突如現れた"神の使い"を冠する異形の巨人、第三使徒。
その襲来に対して国連軍は、戦車大隊までも注ぎ込んで対抗するが、目標に傷ひとつ負わせる事無く壊滅の憂き目に遭った。

「誘導兵器も砲爆撃も、まるで効果無しか…」
「駄目だ!この程度の火力では埒があかん!」

悲痛な叫びが交錯する発令所。
将校達の背後に控える長身の初老の男──冬月が、傍らに佇む特務機関NERV総司令・碇ゲンドウに向けて口を開いた。

「…やはりATフィールドか」
「ああ、使徒に対して通常兵器は役に立たんよ」






Ultra_Violet
#02 "邂逅"






閃光が走り、夕闇の雨空に突如巨大な火柱が上がる。

国連軍の度重なる猛攻にも、全く効いた素振りを見せず進攻を続ける使徒に、業を煮やした将校達が切った最後のカード──N2地雷が使徒に直撃を果たしたのだ。


「やった!!」
発令所に男達の歓声が上がる。

「残念ながら、君達の出番は無かったようだな」

歓喜に沸く将校の一人が、背後の冬月らに誇らしげに告げる。
その様を見た冬月は、鼻白んだ表情で目を逸らした。


「センサー回復します───爆心地にエネルギー反応!?」

「何だとぉ!?」
「映像回復します」

雨雲を吹き飛ばし、焦土と化した爆心地の映像が、主モニターに映し出される。
そこには爆炎の中、なおも起立している使徒のシルエットが───。

「我々の切り札が…」
「何て事だ…」
「化け物め!」

使徒は深手を負ったものの、自己修復機能を駆使し、回復に努めている。
これ以上のN2兵器を持ち合わせていない国連軍の将校連は、その様を砂を噛む様な思いで睨みつけている。

彼らの絶対的であった虎の子の切り札は、所詮足止め程度の役にしか立たなかったのだ。
項垂れる将校たちを尻目に、冬月が呟いた。

「再度進行は、時間の問題だな」

その声は、危機的状況であるにもかかわらず、どこか好機到来を歓迎するかのような色を含んでいた。








「ああ、チャンスだな」

携帯電話から逐一洩れる声に頷いた男は、口元に笑みを寄せながら呟いた。

「……」

その傍らでは、眉間に皺を寄せた少年──碇シンジが訝しげに後部座席の隣人、ひいてはこのワゴン車の内を見渡している。

シンジの隣で携帯電話でずっと何事か話をしている男は、年齢40歳前後、NERVの制服は着用しておらず、白衣を身に纏っている。

運転席でハンドルを握っているのは女性で、ややカールがかった美しい長髪の後ろ姿が垣間見えるのみ。
助手席には誰も乗ってはいない様だ。


シンジは、この予期せぬ出迎えに戸惑いを隠せなかった。
前回の記憶からして、ミサトが青いルノーに乗って自分の迎えに現れるものとばかり思っていたからだ。

ミサトに代わって現れた、NERVの黒いワゴンはシンジを乗せると、N2地雷の爆発にも巻き込まれずに悠々とジオフロントに通じる雨の山道を走行している。

恐らくは彼らもNERVの一員であろうが、それ以上にシンジの胸中を違和感と共に支配していたのは、ミサトが迎えに来なかった事である。

彼女の性格からして、自分の傘下に置くパイロットの出迎えをわざわざ他の者に任せるとは思えない。

さらに、シンジのポケットにある手紙には、ゲンドウの「来い」のひとことと共に、キスマーク入りの葛城ミサトピンナップが、今回も当たり前のように添付されていたのだ。

(まさか、ミサトさんの身に何かあったんじゃ───)

車窓から覗く、雨に霞んだ山々を不安げに見詰めるシンジの表情が、雨粒を跳ね返すガラスに映っていた。








「──今から本作戦の指揮権は君に移った」
地の底から這い出るような、苦恨に満ちたしわがれた声で、国連軍の将校が眼下のゲンドウに告げた。

「お手並みを見せて貰おうか」
将校たちは皆、一様に苦虫を噛み潰したような表情を湛えている。

「了解です」

「──我々の所有兵器では、目標に対し有効な手段が無い事は認めよう…」
「だが、君なら勝てるのかね?」

「その為のNERVです」

「…期待しておるよ」

将校達が去る様を見届ける事無く、ゲンドウは主モニターに向き直った。
冬月が口を開く。

「…国連軍もお手上げか。 どうするつもりだ?」
「初号機を、起動させる」
「初号機を…?──パイロットがいないぞ」

「問題ない。…もうひとりの予備が届く」

僅かに含み笑いを湛えたゲンドウが冬月に背を向けた瞬間、オペレーターの日向の報告が発令所の空気を一変させた。

「葛城一尉より入電!」
「何だ」


「サードチルドレンをロストしたとの事です!」


「「なに?!」」








シンジを乗せたワゴン車は、ドーム状の巨大な建築物の内に到着していた。

「これ…は…」

窓から見える光景を目の当たりにしたシンジ。
その目は驚愕に大きく見開かれ、口はパクパクと喘いでいる。

彼が連れて来られたのは、NERV本部が存在するジオフロントより僅かに逸れた山間部。
その建物の内部に起立している異形の巨人を見たシンジは、震える指でそれを差した。

「驚いたかね、碇シンジ君」
隣席の男が、驚愕に震えるシンジの背後で口を開く。

彼らの視線の先にあるモノ。

それは、腕や脚部は極端に細く、背に幾本もの突起物を負った鋼鉄の巨人。

「自己紹介がまだだったな──私は日本重化学工業共同体開発部長、時田シロウ。
 そして、あれがこれから君が乗る、巨大人型ロボット…」

運転席を降りた女性が、ワゴンのドア部に刻まれていた"NERV"の文字シールに手を掛けると、いとも容易く引き剥がした。



「ジェットアローンだ」









+続く+






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