その1

「シンちゃんさあ」
何?
「あたしと結婚して、幸せ?」
突然どうしたのさ。
「だってほら。あたし低血圧で、朝弱いから、朝食ひとつ満足に作れないし。
食っちゃ寝で、騒々しいのだけが取り柄の、おバカさんだし」
…そうだね。
「否定はしないんだぁ…ヒドいよシンちゃん」
綾波が馬鹿な事言うからだろ。
「あー!いま綾波って言った!無理にでも下の名前で呼ばせるために同姓にしたのに、信じらんない!」
はいはい、わかったから、とっとと起きて。
ついでにシャワーでも浴びてきたら。
朝遅刻して、冬月先生に怒られるのは僕なんだからね。
「シンちゃんモテるからねぇ。主に男に」
怖い事言ってないで、早く起きてよ。
ご飯食べる時間無くなっちゃうよ?
「それは困る…うん、起きる、起きました!」
はいはい。
「あ、それとシンちゃん」
何?
「おはよう!いい朝だね!」
おはよう。僕もそう思うよ。



その2

「うーっ、流石に食べ過ぎたぁ」
焼き肉屋の食べ放題って、どんなに頑張っても元なんか取れないのに。
こんな時ばっかりムキになるんだからなあ。それと、食べてすぐ横になると太るよ。
「だってさあ。出されたものは全部食べなきゃ、お肉さんに失礼じゃん」
はいはい。これ胃薬だから、飲んで。
「んっ…ありがと」
どういたしまして。
「…やっぱシンちゃん優しぃー」
綾波の手がかかり過ぎなの。
「また綾波って言う〜…シンちゃん、ひょっとして怒ってる?」
ちょっぴり呆れてるだけ。でも、いつもの事だし。
「わかってないなあ。あたしがここまではっちゃけられるのは、シンちゃんのバックアップあってこそのことなんだよ?」
…後方支援、打ち切ってもいい?
「あ、それ困る。マジで困る。ごめんなさい」
そう思うなら、次からちょっとは自重しなさい。
背負って帰るのはいいけど、背負う度に重くなってくのはご免だからね?
「うぐ…了解…了解ついでにシンちゃんに提案」
何?
「過剰摂取したカロリーは、やっぱ早々に燃焼させた方がいいわけで…えい」
うわっ!何するんだよ!
「…ナニしようかな…て…」
…レイ、ムードとかその辺、考えた事ってある?
「…あんまし…ほら、あたしケダモノだもの。がうがう、みたいな」
そんなニンニク臭いケダモノ、いないと思うよ…。
「いっ、いいじゃんそんなの!シンちゃんの方がよっぽどムードない!」
はじめから何も無いところから、どうやってひりだせって言うんだよ!
「一緒にこうしてれば、きっと勝手に出てくるわよ…。だからほら、シンちゃん、一緒にニンニク臭くなろ?」
わかったよ。まったく泣く子とレイには
「勝てた事ないでしょ?さ、ほらシンちゃん、早くってば。はっきり言って、お腹いっぱいの今のあたしは…凄いよ?だから、覚悟きめてよね」
はいはい…。


「シンちゃん」
なに?
「太った」

「太っちゃったようー!どうしよう!」
どうもこうもない!あんな生活してたら当たり前だよ!
「そんな事言ったってさあ…具体的にどの辺が悪いと思う?」
間食しない!寝る前に食べない!どんぶりでご飯おかわりしない!
「シンちゃんひどいよ!あたしに死ねっていうのね!?」
人間そのくらいで死なないよ!っていうより、それだけ食っちゃ寝してて
今まで太らなかったってのが、むしろ信じられない!
「今更ながら、あたしの取り柄ってそれだけだなあ…」
そんな事は無いとは思うけど、必要以上に食べ過ぎてるのは確かかなあ。
さて、じゃあどうしようね。これからダイエットメニューにでも切り替える?
「う…明日からじゃ、駄目?」
……………。
「わかりました!ごめんなさい!よろしくお願いします!…しょぼん」
買い食いとか間食も厳禁だよ。
僕も同じメニューでつき合うから。
「シンちゃん…やっぱり優しい…」
同じメニューにしないと、僕のお皿から献立強奪しかねないからね、レイは。
「シンちゃん優しくなーい!」
優しくなくて結構です!
…これから夕飯の材料買い出しに行くけど、一緒に来る?
毎日続ければ、結構いい運動になると思うけど。

「うー、行く。行かせていただきます。こうなったら荷物だってバンバン持っちゃう!」
いまのうちに言っておくけど、お菓子とかは買わないからね?
「…ひょっとしてあたし、信用されてない?」
今までが今までだからねえ。
「とほほ…いいもん。魅惑のナイスバディを取り戻したら、
年頃の可愛い子に粉かけてナンパとかしちゃうんだもんねー!
その時になって泣いてもしらないんだから」
……。
「う…嘘だよ、ただの冗談。黙りこくっちゃってやだなあ、もう…どうしたの?」
あ、ごめん。メニューの事考えてた。
「へ?」
レイは今までが痩せ過ぎだったんだから、少し丸くなったくらいで丁度いいとは思うんだけどね。
無理にダイエットとかしても身体壊すだけだから、ちゃんと栄養管理しないと。
レイはすぐ極端から極端に走るんだもん。心配だよ。
「…シンちゃん」
なに?
「ひょっとしてあたし、愛されてる?」
…恥ずかしいから言わない。
「やだなあもうシンちゃんってば、照れ隠しヘタクソ過ぎ!えへへへへ」
バカな事言ってないで、さっさと準備する!
「はーい!えっへへっへへー、デートだデート!」
そんないいもんじゃないでしょ、まったくレイはいっつもあの調子なんだから。
でもまあ、こんな賑やかな毎日も、
「これはこれでいいでしょ?」
自分で言ってれば世話無いよ、まったくもう!




+おしまい+



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